第4話 二兎の世界

「二兎の小説の世界…?」


なんだそれ。私、夢でも見てるのかな。

混乱する私をよそに二兎は冷静に言葉を続ける。


「窓の外見てみろよ、明るいのに月が2個出てる。しかもピンクと緑の2色のやつ。」


ほんとだ。

私ならこんな変な夢は見ない。

でも小説の中の世界に来るなんてこと、ありえるの?


「俺が初めて書いた小説が異世界学園ループ物だったんだよ、懐かしいな〜。」


二兎はなんだか嬉しそうにしている。


「“あんぜん第一団”って所がたぶんあっちにあるからさ、とりあえずそこ行くぞ。」


二兎は自然に私の手を取って迷わずに廊下を進む。

こんな風に二兎に手を引いてもらって歩くなんて、何年ぶりだろう?

最近の二兎はだらしなくて頼りなかったのに、今はなんだか心強く感じてしまう。



「おっ、やっぱりあった!」


しばらくすると“あんぜん第一団”という紙が貼られた教室の前に着いた。

改めて目にするとすごく変な名前。

本当に二兎の書いた小説の中だからなのかな。


「おーい、団長!宇宙人の登録、2人ペアでお願いしたいんだけど!」


ドアを開けて二兎が声をかける。


「はーい!ではまずこちらの書類に記入をお願いします☆」


中にいた女の子が明るい声で返事をする。

団長は女の子の設定なんだ。

ん…?なんかこの子、私に似てる気がする。

しかも二兎に対してやたらと馴れ馴れしく接するもんだから、すごくイライラする…!



「はい、書類はこれでOKです!今回はペアでの登録なので、次はこちらに書かれた愛の誓いの言葉をお二人でお願いします♡」


団長はにこにこしながら私達に紙を渡してきた。

愛の誓いの言葉!?なんじゃそりゃ!


「なんで私がアンタと愛を誓わないといけないの!?」


「いや、この先も俺たち二人で行動するにはペア登録するしかないんだよ。


もし別々に行動してもいいなら、この世界の住人の誰かとそれぞれに誓いの言葉を交わして、そいつと行動することになる。


この世界だと基本的に一人での行動はできないんだ、だったら俺ら二人で行動する方がいいだろ?」


「うわ、なんかすごい早口で説明してくる…」


「俺が作った世界の設定だからな。」



二兎が言ったことを頭の中で整理しながら、団長に渡された紙に書かれている誓いの言葉とやらに目を通す。



【私たち二人は、この先どんな困難が待ち受けていようとも、お互いを愛し、支え合って生きていくことを誓います。】



おいおい結婚式かよ!!!

理想の彼氏がでてくるはずのガチャを回しただけなのになんでこんなことに…。


でも、このよくわからない世界の住人の誰かとこの言葉を言って行動するよりは、二兎と一緒にいる方が不安は少ないのかな。



「あの、今からでもペア個別登録に変更はできますけど…」


団長が不安そうな声で聞く。


「いえ、ペア登録で大丈夫です…。」


「よし、じゃぁ誓いの言葉を言うぞ、せーの!」


こうして私はよくわからない世界で二兎と二人で誓いの言葉を唱えたのだった。





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