彼方から来た

ブロッコリー食べました

第1話 姉と弟

 その〝力〟の濫觴は定かではない。ただ、その〝力〟を持つ者の長子が生まれながらに受け継ぎ、発現し得た。

 〝力〟は、その者の性質によって様々な形で顕われた。




 * * *




「知ってるのよ。あんたが瑞穂みずほを好きだってこと」

「そりゃ、姉さんのハズバンドだから、義理の弟としては嫌いより好きの方がいいと思うけど」

「でも、恋愛感情はだめでしょう」

「ふふっ、もしかして姉さん、僕に義兄にいさんを盗られるかもしれないって心配してるの?」

「私は忠告に来たのよ。瑞穂に邪な思いで近づく者がどうなるか教えてあげてもいいけど、あんたは弟だから情けをかけてあげる。だから、瑞穂のことは諦めなさい。

 今後いっさい、親しげに近づいてはだめよ。これからは週末にあんたをうちに呼ぶこともないわ」

「急にどうしたんだよ。僕たちは家族だろう。仲良くするのは当然で、そうじゃない方が不自然だ。僕は今まで通り義兄さんと仲良くしたい」

「もうだめよ。彼は私だけのものだから」

「なんだよ、それ……まったく、姉さんの独占欲の強さにはきれるよ。だけど、もしも義兄さんが姉さんを捨てて僕を選んだとしても、それは彼の自由だろう」

「生意気言って。あんたを懲らしめたいところだけど、やめておくわ。憐れだから」

「憐れ? どうして僕が」

「あんたがどんなに瑞穂を好きだとしても決して報われないのよ。何の力もないくせに。ほんと可哀想な弟。そう言えば、小さい頃から私のものを欲しがったわね。挙句の果ては夫まで狙う。あさましい子だわ。でも、今度ばかりは分けてあげられない」

「姉さんから何か分けてもらったこと、今まであったかな」

「そうだった。あんたは私から奪ってきたのよね。そういう行儀の悪い子だったわ。従順なふりをしながら、裏では虎視眈々と私のものを奪う算段をしている。そんな二面性を持っているわよね」

「言いがかりだ。僕はそんなんじゃない。それに、姉さんか僕か、どちらを取るか、決めるのは義兄さんだ」

「瑞穂に選択の余地はないのよ。彼は私から離れられないの」

「婚姻関係なんて、いつだって解消できるさ」

「バカね。夫婦って、そんなに簡単なものじゃないのよ。瑞穂が子どもを欲しがっているのは知ってるでしょう。その願いを叶えてあげられるのは私だけってこと」

「……まさか」

「そう。私は瑞穂の子どもを身籠っている。間違いないと思うわ。それを確かめに、これから病院に行くんだもの。結果を知ったら彼はどんなに喜ぶかしら。そして、あんたは見向きもされなくなる」

「嫌だ! そんなのは耐えられない。僕は瑞穂さんを愛している」

「とうとう本音を吐いたわね。だけど無駄よ。諦めなさい」

「諦められない。……ごめんね、姉さん」

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