スマホの中から君へ

@ooemansaku

第1話

これで終わりか。

私は動かなくなった自分の体からそう感じた。

首から下は感覚があるが、それ以外は全く力が入らず動かない。

意識だけの状態。

なんとなく自分の天命が近づいてきているのを分かる。

最後に残された意識すらも少しずつが薄れていく。

最後に一目だけでもいい、彼の顔が見たい。

でもおそらく間に合わない。

その前の私の意識は溶けて、この世から消えてしまうだろう。

あなたの一番近くで、この先もあなたの夢を応援しつ続けたい。

あなたが夢を叶えて小説家になっている姿が見たかったな。

死んでからも一番近くであなたを見守りたい。

私は最後の願いをぼそっと呟こうとした、しかし人工呼吸器がついている状態では上手く喋ることが出来なかった。

看護師が危篤状態の私を発見した後に焦って医者を呼びに行った。

病室に一人だけになった。

最後に目を閉じる瞬間流れ星のようなものを見た。

私は最後にお願いをした。

「彼の一番近くにいれますように」

星に願いを込めた。

そんな願いは叶うはずがないのは分かっている。

ただ私は願った。

そうして生命の糸はぷつりと切れた。

目が覚めたら、水色の部屋だった。

「ここはどこ?天国なの?」

私の知っている天国と随分イメージが違った。

雲の上で優雅にすごしたり、綺麗な小川をぼんやり眺めながら過ごすのを想像していたが、鮮やかな透き通るような水色の部屋の椅子の上に私は座っていた。

冷静に状況を整理すると今の私は、病気で動けないはず。

だが、今は普通に体が動く。

これは死ぬ前に見る夢というやつなの?

分かりやすく、ほっぺをつねってみたがやはり痛い、夢ではないようだと思う。

この部屋は一体何なのかこの状況を確かめるために物色した。

その結果分かったことがある。

本当になにもない。

ただ、ドアが一枚ついていて、次の部屋へと繋がっているみたいだ。

ドアノブを回しドアを開けようとする。

すると目の前が一瞬光った。

私は大きく声を上げて驚いた。

ドアから半透明なスクリーンが出てきた。

SF映画に出てくるような画面だ、スクリーンには触れることは出来なった。

「暗唱番号を入力して下さい」

SIRIの音声のようなものが流れて、表示されていた。

なんの暗唱番号を求めているかさっぱり分からなかったが、とりあいず私はスマホのパスワードを入力することにした。

入力するボタンが無かったので声に出して発言をした。

「違います、正しい番号を入力してください。」

自動音声のようなもので言われた。

どうやら私のスマホの暗唱番号ではないみたいだ。

ということは銀行口座の暗唱番号かな?

次に銀行口座の番号を声に出してみた。

しかし銀行口座の暗唱番号でもロックは開かなかった。

こうなっては自分の知っている私の暗唱番号を片端から試すことにした。

「違います、正しい番号を入力して下さい」

何回試したかは数えていない。

ただ、二桁は間違いなく試した。

幸い、何分間お待ちください状態にならないのが唯一の救いだった。

自分の誕生日など、私に関係する番号はすべて試した。

それでも暗唱番号が間違っているみたいで、ドアのロックは開かなかった。

途方に暮れた私は、椅子に座って分かりやすく考える人のポーズをとって思考した。

私に関係するパスワードは全て試した、親の誕生日なども試したのだ。

その時、ぱっと思いついた。

青のスマホのパスワードはまだ試してない。

まさかと思った、ただこの部屋に一生閉じ込められるのはごめんだ。

私は青のパスワードを試すことにした。

たしか、最高って覚えるように言われていた。

この番号で開くことはまさかないだろうと、半分期待はしてなかった。

「三、一、五、零」

するとピーと音がしてガチャリと音がなった。

「え?」

思わず声を出して困惑した。

「開いたの?」

私はドアノブをゆっくり回してドアが開くかどうか、扉を少し押して確認した。

ドアのロックは解除されていた。

なぜ青の携帯のパスワードでこの扉が開いたのかよく分からない。

とりあいず、この部屋から出られることに安心したと同時に次の部屋には何があるのか分からないことに強い不安と緊張を覚えた。

私は次の部屋に向かうためにゆっくりとドアを押して、小動物のように強い警戒心を抱きながら足を進めた。

「なにこれ?」

次の部屋で見たものは、生まれて初めてみる大きさのスマホがあった。

その大きさは私の身長を大きく越してアメリカ人男性ぐらいの大きさだった。

そのスマホのホーム画面は私が以前見たことがある、絶対覚えている画面。

青のスマホの画面があった。

私は今の状況が全くどういうことか理解できなかった。

するとスマホがピコンと反応した、

私はその音にびっくりして呼吸が止まりそうだった。

「ここは佐藤青さんのスマホの中です。」

大きいスマホのSIRIが起動した。

私はスマホからSIRIが起動したことに言葉が出ずに黙っていると、またピコンとSIRIが起動した。

「初めまして、自己紹介遅れました。

私は佐藤青さんのSIRIです。今日からよろしくお願います。」

頭の中から?マークが沢山浮かんだ。

「スマホの中?どういこうこと?私はあの時死んでないの?」

「私のデータ上、山之内加奈さんはすでに亡くなっています。」

「じゃあ、この状態はどういうこと?今私は意識も体の感覚もあるのだけど。」

「私にもよくわかりません。突然このスマホのプログラムの中にあなたという存在が入ってきました。」

おそらく自分は一回死んだ、ただこのスマホの中に意識だけある状態なのを理解できずにいた。

「私がここにいることを青は知っているの?」

疑問に思ったことを質問してみた。

「いいえ、知りません。」

少し安心したのと同時に残念に思った。

この日から、私の不思議な生活は始まった。

数日過ごしてみて分かったことがある。

私の体はスマホとリンクしているということが分かった。

普通の人間は、食べ物を食べないと空腹感を感じる。

空腹を満たすために口から食べ者を食べるのが一般的だが現在の私は違う。

私の空腹感はスマホのバッテリーと比例しているということが判明した。

青の持っているスマホのバッテリーの残量が減ると私も空腹感を感じるということだ。

気づいたきっかけは、初日にして軽い謎の空腹感を感じるようになった。

何か小腹を満たすための方法を模索したが、この空間に食べ物は存在しなかった。

SIRIに勇気を出して聞いてみたら、この部屋に食糧はないと言われた。

私は焦った。

このままだと、どんどん飢餓感に襲われてしまう。

今は、まだ何とか耐えることが出来る空腹感。

そう思って空腹感に耐えている時、青がスマホを充電してくれた。

すると飢餓感を感じず、甘いチョコレートやケーキを食べた時の幸福感が訪れた。

飢餓感に関する問題は解決したのだが、いよいよ自分の体が人間のものではないということに軽いショックを受けた。

ただ、空腹問題は解決できそうだ。

幸いにも青はスマホのバッテリー残量が五十%を切らないように生活する人間なので、極限の空腹感を感じずに済んでいる。

そしてもう一つ、こちらも私の命に係わる問題がある。

スマホの本体に影響があった場合、私にも何かしら影響があるということは感覚が人間時代とは少し違う。

それは水やほこり、衝撃に対して強い恐怖感を覚えるという点だ。

使っている本人の性格上スマホに衝撃が加わることは少ないのだが、洗面所などの水回りの近くに行くと、心臓がばくばくと脈打つ。

バンジージャンプを飛んだことはないが、飛ぶ前はこんな感じなのだろう。

こればっかりは、私にどうすることもできない、ただ耐えることしかできない。

そんな私の生活のもささやかな楽しみがある。それは青が夜に寝静まった後にスマホをいじって遊ぶことだ。

青のスマホのラインや検索履歴を見て、彼がどんな思考や行動を取ったのか想像をする事が楽しみ。

ただ、あまりスマホを使っていないようだ。

私は過去の検索履歴を見てみた。

私の病気の治療法がびっしりと検索してあった。

青がどれだけ私を想っていてくれたかが再確認出来て嬉しかったのと同時に、そんな青を一人ぼっちにさせてしまったことに強い罪悪感を覚えた。

その日はスマホをいじるのをやめて眠ることにした。

次にSIRIと私の関係についてだ。

SIRIは私が分からないことや困ったことは聞いたら大体教えてくれる便利屋さんみたいな存在だ。

協力者的な存在である。

ただ分からないことは分からないと言われる。

この先も良好な関係を築いていきたいと思う。

ここ数日、青のスマホを勝手に見て、青の知らなかったことを知っていくような感じがした。

こんなこと考えていたんだと一人で深夜テンションで椅子をくるくるさせながら、次の日は閲覧をした。

メモに小説のネタがびっしりとメモされていた。

青の執筆に対する熱量の高さを改めて感じた。

ただ問題もある、それはスマホの位置情報がほとんど家から動いてないこと。

 これが意味することは家に引きこもっているということになる。

ただ、マイルールは決めていた。

絶対に干渉はしない。

絶対に青の起きている時間はスマホを操作しないで、中にいるということをばれないようにすることだ。

というのも、私のことを忘れて欲しいから干渉はしないし、基本接触はしない、あくまで観察するだけ。

青には前を向いてほしい。

彼なら今の状態から自分の力で立ち上がってくれると信じていた。

そんな生活が一か月ほど続いた。

ある日私たちの奇妙な関係から変化が起きる事件は起きた。

その日、青は朝早く起きた。

私は焦ってスマホの閲覧を中止した。

危うく中にいるのがばれるところだった。

青はスマホのパスワードのロックを突然解除しだした。

そしてメモアプリを開き、突然打ち込みを始めた。

「これを見ているころ、私はあなたに多大な迷惑をかけていると思います。

本当にごめんなさい。

ただ漠然とした不安に襲われて苦しい。

それを分かってほしい。

こんな世界に生きる意味を感じない。」

私はこの画面を見て焦った。

青から希死念慮を感じたことはなかったといえば嘘になる。

ただ実際にそれを見ると、焦る気持ちよりもとても悲しくなった。

私は葛藤した。

このまま傍観していいものかと

体が勝手に動いていた。

私は自分で決めたルールを破ってしまった。

「生きて。君のことを君の次に一番知っている人より」。

アイフォンの壁紙を変えて青に見せるようにした。

青がどんな反応をとったか分からない。

恐怖を感じることは間違いないだだろう。

ただ私は青に元気になってほしかった。

青の画面を見ていると突然のことに戸惑って、硬直しているようだった。

何分か後に反応が来た。

「あなたは一体誰ですか?」

自分の正体を明かすか迷う。

けど、明かさない。

「それは言えません、ただあなたの次にあなたのことをよく知っています。」

不思議な関係が今宵始まった。



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