第14話 関わらなければ良かった。
学生時代の話なんだけど。
メンヘラと関わっちゃって。躁鬱病だって言ってたけど、今思えば境界性人格障害じゃないかな。
とにかくこっちの気を引こうとするの。いついかなる手段を使っても。
―――今精神科の待合室で、マフラー使って自殺しようとしてる。
―――今、睡眠薬を口に含んで校舎歩いてる。
―――今、屋上から飛び降りようと思う。
―――ゼミのプレゼンの準備が間に合わないから死ぬ。
こんな感じで。電話をしょっちゅう寄越すんだ。ウウウ、ウウウ、泣きながらね。別の研究室の人だけど先輩だから、無碍に出来ないし。仮にK先輩にしとくね。
K先輩は、死ぬ死ぬ言わない時は、躁状態なんだろね。明るいっていうか、異様にテンション高くて、自分の話ばっかり一方的にするの。それでも死ぬ死ぬ言われて泣かれるよりマシだから、話聞いたけど。
もう困っちゃってね。別の先輩に相談したんだ。その先輩―――N先輩は、私がK先輩に振り回されてるの知ってたし、先輩自身も付きまとわれてたんだ。親身に話聞いてくれて、
「自分がK先輩に出来ることはありません。他の人に相談してくださいって、ビシッて言った方が良いよ」
自分は一も二もなく賛成したよ。
んで数日後の夜。
自分が寮の部屋にいたらケータイ鳴ったの。案の定、ディスプレイ見たらK先輩からでさ。もう自分も開き直るってか、いい加減腹立ってたからね。
「……うさ民さん。……ウウウ…。事務所に提出する書類がないの……。あれがないと私、卒業出来ない……ウウウ…」
「それは事務所か然るべきところに相談してください。私に相談されても困ります。私に書類を用意することは出来ません!」
って、電話切ったの。そしたら、
「N先輩に言われたんでしょ」
K先輩の声が耳元でしたの。すごくはっきり。電話切ってるのに。それも泣いてない声。すごい乾いた、感情が全くない声。
もう居ても立ってもいられなくて。ケータイの電源切って。仲良いT先輩の部屋に匿ってもらった。
翌日大学行ってN先輩にその話したら、
「……えっ…」
物事に動じない先輩の顔色が変わってるの。
「……K先輩、郷里の◯◯県に帰ったんだよ」
「じゃあ◯◯県からわざわざ電話してきたんですか?卒業に必要な事務書類のことで?困りますね」
「違うよ。K先輩、大学辞めたんだよ。郷里の病院で療養するって。アパートも引き払って、ケータイも解約して」
今度は自分の顔色が変わったね。
「えっ……。でも確かに着信が……」
ってケータイ取り出して着歴見たら。
ないんだよ。
昨日のK先輩からの着歴。
あれから大分経つけどさ。
あれが何だったのか、未だに分からないんだよね。
K先輩はどうなったかって?
………まあ、私にも言いたくないことはあるんだよね……。
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