第8話 知らなければ良かった。後編

 その翌々日くらいだったかなあ。

 一人暮らし初心者の悲しさでね。寝不足と風邪で、朝から寝てたんだよ。

 春だったけどね。なーんか寝苦しくてね。寝てるんだか起きてるんだか分からない、妙に疲れる夢を見てたよ。

 部屋の家具や間取りははっきり分かるんだ。だけど体は動かない。動かしたい。したらガチャって音がして、ドアから誰か入って来たんだよ。

 見てビビったわ。あ、こいつらヤバいなって。

 一人は黒い細長い影みたいな男。顔は分からない。山高帽子だかシルクハットを変形させたみたいな、やけに長細い帽子被って、マントを羽織ってたかも知れない。体をゆらゆら揺らしながら、シンクの前通って、冷蔵庫の前通って、私のベッドに近付いてくる。

 もう一人は、真っ赤な着物の市松人形。細長い影は手下でこいつが首領なんだなと、直ぐ分かった。

 来んな、来んな、来んなって思ったけど。

 気付いたら二人して私のベッド脇にいて、私を見てる。市松人形がなんか合図したら、影がぐーっと手を伸ばした。私の首を絞めてる。

 ヤバい死ぬ、こいつらヤバいヤバいヤバい。誰か、マジヤバい。マジ死ぬ。


「……首足りない……」

「……首要る……」


 ヤバいヤバいヤバいヤバい。誰か誰か誰か。ヤバい死ぬ。殺される。


 と思ったら、ウーッてうめき声出た。

 したら空気変わった。

 市松人形がさ、

「……この……ない」

 影が分かりましたみたいな仕草した。


「……この首じゃない……」


 それから二人、ゆらゆら揺れながら出てった。あー、助かったって思った。

 目が覚めたけど、しばらく動けなかった。ひどい汗かいてた。


 あれ、なんだったんだろね。

 体調悪いとこに、友達の話がきっかけで見せた悪夢だって言われれば納得するよ。むしろそうであって欲しい。

 たださ。

 そうじゃない気もするんだよね。今でもさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る