分かりたくなかった。

うさぎは誇り高き戦闘民族

第1話 分かりたくなかった。

 事の始まりは子どもの頃だよ。

 夏の夜だったね。怪談は夏の夜と相場が決まっているのかね。

 ともあれ夏だからさ、Tシャツ、ショートパンツ姿だったわ。妹もそんな格好してたね。確か白いTシャツに水色のキュロットスカートだったかな。

 妹と母がリビングにいて、私はそこから和室を一部屋隔てた勉強部屋にいたんだわ。ちょうど宿題が終わってね。うーん、なんて伸びしながらね。

 リビングからは母と妹の、早くおいでよーって声がする。一緒にアイス食べようよーって。

 私は、今行くよーって言ったんだけどさ。制服のポケットに、ハンカチとポケットティッシュ入れてなかったの思い出してね。明日持ち物検査じゃんって、ハンカチとティッシュ入れてたのね。

 そしたらなーんか、背後に人の気配がする。私は振り向かなかったけど、視界の隅に白い手足、黒いセミロング、白Tシャツに水色のキュロットスカートがちらちら映るからさ。早くアイス食いたい妹が、イタズラ兼ねて私を呼びに来たんだと思ったんだよね。そうこうしてるうち、白い指先が私の首筋に触れてさ。くすぐったかったからさ。

「バカ、からかうな。すぐ行くからさ」

 したら、

「えっ、何の話?」

 妹の声がするんだよ。リビングから。

「…何の話ってお前。さっき私のとこに来ただろ。そんで、ふざけて私の首筋とか触ったろ?」

「そんなことしてないよ」

「桃香ちゃん、ずっとリビングにいたよ」

 これは母の声。リビングからね。

 ………。

 わけ分からん。

 とりあえず私の勘違いってことにして、適当に誤魔化して、アイス食べたよ。味しなかったけどね。人間怖いと味も何も分からんのね。


 それで十年くらい経ったかな。

 大学の飲み会でね。霊感があるっていう友人に、その話を面白おかしくしたんだよ。そしたら友人がね、

「あー、それは大丈夫」

「だよね。勉強で疲れてたから、勘違いしたんだよね」

「それは大丈夫。無害な霊のイタズラだから」


 食ってたオニオンリング、味しなくなったわ。

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