大好きな姉は殺し屋の許嫁
すみのもふ
それぞれの思惑
一話
お姉ちゃんの影武者として生きる。それは、“選んでもらえた”私からしたら本望だった。影武者としての役目を終えた時、私は幸せに満ちているに違いない。
――グサッ
鋭い刃物が私の体に押し込まれる。始めこそ驚いたけど、状況を理解した時には笑っていた。
お姉ちゃんは無事だ。そして……“あなた”の手で逝けるなら。
―――…
「川原てめぇ! 待てや、こらぁ!!」
埃や引きずった跡がある廊下をバタバタと走る。体に馴染まない制服とショートカットの髪が揺れる。憎たらしい背中を追いかけ風の抵抗を感じていると、すばしっこい野郎が視界から消えた。チッ。現役バスケ部員には勝てないか。
普段使わない筋肉の疲労とだるさを感じつつ、来た道を戻っていると私を見ながらヒソヒソと近くの人に耳打ちしている生徒がちらほらいた。
「あいつだろ? 双子なのに大きく引き離されて十九位の人」
「ほぼ同じ顔なのに一位と十九位って笑えるな!」
「あれって顔面の順位だよね? 性格やスタイルも入ってんじゃね?」
「確かに〜。お姉さんの方はおしとやかで優しい雰囲気だもんな。こっちは口悪いしガサツそう。スタイルも顔の大きさも足の長さも違……うわっ!」
その中で、私に聞こえる大きさで話している男子生徒二人に笑顔を浮かべ、両手を腰に当ててぬっと近づいてやった。急接近した私に驚いた男子生徒二人は、反射的に後退しよろめく。四つの目が「聞かれた。やばい。何かされる」と焦りや恐れを表し、危険を察知しているのを感じた。私は口角を上げ、拳を見せる。
「安らかに眠れ?」
青ざめて背中を向ける的を目指して高く飛び、上履きを履いたまま新品に近いブレザーへ蹴りを食らわす。二種類の苦しむ声が長い廊下に響き渡り、倒れ込んだ大きな塊を回し蹴りで黙らせた。
私はくるりと向きを変えて、群衆に紛れ身を隠したつもりの男女を捉え上履きを投げ行先を塞ぐ。ヒィという声がした後、引きずり出して黙らせた。殲滅完了。
「全く、川原のクソのせいでとんでもないことになったわ!」
一年三組の教室に戻り、席についたかもちゃんに愚痴を吐く。クラス内でも横目で見てくるやつ、笑いながらチラチラ見てくるやつがいるけど、キリがないので無視した。限界が来たら、また見せしめに飛び蹴りや回し蹴りをお見舞いしてやろうと思っている。跳び膝蹴りでも可。
そんなクラスの様子や私の溢れて止まらない怒りを察して、かもちゃんはくすくすと口に手を当てて上品に笑う。トップコートが塗られ手入れされたかもちゃんの爪。しっとりした白い手。そこから分かるように、かもちゃんはかなり細かなところまで手入れしている。
「学年顔面順位を企画立案、集計、発表したのは川原くんだもんね」
「発表って綺麗に言ってくれるけど、わざわざチラシにしてばら撒き散らしたんだよ! おかげで私は学校の笑い者……」
「お前なんてそんなもんだよ?」
かもちゃんとの癒される空間に、ガサガサで憎たらしい声が割入る。その声だけで不快なのに、ニヤニヤとした緩んだ表情がさらに私を深い負の感情を湧き上がらせる。
「川原くん!」
私から走って逃げたにも関わらず、汗もかかず涼しい顔をしている
なんで制服を着ているのに筋肉が分かるのかというと、
「かもてゃん! おはよ。いい天気だね」
「おはよ〜。そうだね〜。雲もわたあめみたいでふわふわだね」
「かもてゃんもふわふわしてるよね」
「そんなことないよ〜。あたしは、ツッキーみたいな逞しさが欲しい」
「かもてゃんに逞しさは必要ないよ」
俺が守るから、と言いたそうな顔に私は白い目で見た。気持ち悪い。か弱い小動物のようにいて欲しい、そして俺の存在を必要として欲しいというエゴが見える。
そして、デレデレと鼻の下を伸ばしている川原。めちゃくちゃ邪魔。心底、邪魔。私は、かもちゃんと二人で話したいのに。
「それに、五位のかもてゃんはそのままで十分だよ」
「あたしはあれ、おかしいと思うんだけど……ツッキーはあたしより可愛いもん」
「かもてゃん…優しいなぁ。“事実を受け入れられない自意識過剰さん”に自分を下げてまでフォローすることないよ」
「おいこら川原! 歯ぁ食いしばれや!!」
「ほらね。こんな気性の荒い人は順位が落ちて当然「顔面のランキングだろうが!!」」
教室にチラシを持った生徒が集まってきている。男子たちの大半はランキングと実物を見比べ、女子たちは褒め称えたり慰め合ったり様々だった。
「俺は
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