異世界に召喚されたら、ヒーローになりました~皆を守るため、俺、変身します~

青猫

void 始まり()①

「と、いうわけなんじゃが……」

「はぁ……?」



目の前に突然現れた老人からまるで荒唐無稽な話を受け、呆然としている青年は現在高校三年生の三笠木隆太。

なんと、今、目の前にいる老人は、異世界グランズマリエルの神と名乗り、世界に干渉する悪神から世界を守るために隆太を含めた3-2の生徒たちに力を与えて異世界転移させるのだと言う。

しかし、辺りを見回した隆太は神様に尋ねる。



「……でも、俺、一人だけですよ」



神様は辺りを見回し、あぁ、と言わんばかりに首を縦に振った。



「それはな、この力に耐えきれるのが君の魂だけじゃったんだ」

「そ、そうなんですか……」



……なんか、物凄くやばいものを受け取ろうとしているのではないか?

そう思った隆太は一瞬断ることが頭によぎる。

しかし、それを察したように、神様は頭を下げる。



「本当に身勝手な願いというのは心得ておる。だが、わしが下界に干渉できない以上、君に頼るしかないんじゃ!」



そんな神様の姿を見て、隆太には一瞬の逡巡が生まれる。

——相手が必死に頼み込んでいるのに、このまま断ってよいものか。



「その、俺が力を受け取らないとどうなりますか?」



恐る恐る隆太は神様に質問する。

神様は、ゆっくりと顔を上げ、目を閉じる。



「魂のレベルが合わないものに、無理に力を渡すことになるじゃろうな。……君を脅迫したくていう訳では無いが、下手すれば元に戻れぬ化け物に変わり果てる可能性だってある」

「……俺なら、化け物にならないと?」



そう尋ねると、神様は頷く。



「君はこのわしの力に耐えうる魂を持っておる。耐えられる可能性が非常に高い、と言えるじゃろう」



——脅しではない、とは言っていたが、受けない、という選択肢も無くなってしまった。



「……元の世界には返してもらえるんですか?」

「そこに関しては、わしが保証しよう。世界の危機を救ってもらった時、君たちの身柄は君たちの望むままにわしが調節する。他の者にも話したが、元の世界に帰りたければ、望む時間、場所に返し、この世界に残りたければ、それなりの保証を用意する。また別の世界で生きたいのであれば、他の神との協議もあるが、なんとか話をつけよう」



そう言って神様は再び頭を下げる。



「……この通りじゃ、頼む!」



隆太は少し考えつつも、心はすでに決まっていた。



「……その話、お受けします」

「……ありがとう。その厚意に報いられるようわしも全力を尽くそう」



そう言って、神様は両手をかざし、力を籠める。

武術に関しても、それ以外の事に関しても、ほとんど素人の隆太から見ても感じられる、凄まじい力の奔流。

それが収まると、神様は4つの球と中央にくぼみのある長方形の箱のような物を手に持っていた。



「なるほど、力はこのような形で……」



神様は小さくつぶやく。

隆太は、ふと気になっていたことを神様に尋ねる。



「そう言えば、他の人たちって神様の力を受け取れなかったんですよね。じゃあ、そのまま異世界に送ったってことですか?」



そうなってしまえば、一般人スペックの学生なんて瞬殺に違いない。

まさか、と思って神様に尋ねる。

神様は思い出したように答えた。



「……そちらに関しては、わしの純正の力よりは一段も二段も劣るが、それでもこの世界で生きるには十分すぎるほどの、彼らの魂に適した力を託している。彼らは、それを『チート』と呼んでいたがな」

「『チート』……」



ひとまず、同級生たちが無事である可能性が高い事を聞いて、ホッと胸をなでおろす。

そして、神様はずいっと手に持っていた道具たちを隆太の方に渡してくる。



「これが、わしの力を形にしたものじゃ」

「これが、ですか?」



隆太はじっとそれを見る。



「これは何なんですか?」

「……この形はわしの力を制御するのにもってこいの形なんじゃ。そうじゃな……『デウスドライバー』なんて名前にしようか」

「そうなんですか……?」



隆太はその道具たちを恐る恐る受け取ろうとする。

しかしその時、一陣の風が吹く。

その瞬間、神様の力のこもった球がすべて巻き上げられる。



「あっ!」

「しまった、奴か!」



そう神様が叫ぶと、どこからか声が聞こえる。



『いけないじゃないの~!私はただ、皆の願いをかなえているだけなのに、それを邪魔するの?』



神様はそれに反論するように叫ぶ!



「おぬしは、身の丈に合わない力まで平気で人に与える!そうなった人間がどうなるのか、わかっているじゃろうが!」

『力を望んだのはその人。私はただ願いをかなえているだけだよ。じゃ、その球は危ないから捨てておくね』



そう言うと、四つあった球はすべて消え、場は静寂に包まれた。

神様はやらかした、という感じでかみしめている。

しばらく何かを調べているようだったが、肩を落としてしまった。

そして、隆太に向き直ると、頭を下げる。



「すまない!わしの力を込めた神球をやつに散らされた。世界のあちこちに散らされ、そして隠蔽されてどこにあるかもわからん」

「え、じゃあ、俺はどうすれば……」

「……もう、わしには力が残ってない。これ以上は、最初に君たちと約束した、帰還の約束を違えかねない。本当に申し訳ないが、世界に降りて、球を探し、そして奴を倒してくれはしないか」



そう言って頭を下げる神様。

皆の危険と、自分の安全など、天秤に比べられるわけもない。



「分かりました。このまま送り出してください。」



隆太は、そう言って異世界に転移した。

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