第69話

襖を開けるとさっきの客が広い座敷の真ん中にぽつんと座っていた。



「失礼いたします。紅若と申します」



こういうときは三つ指ついて挨拶して……後ろ手に襖を閉める。



私が座るのは上座だから……




お客さんから離れたところにちょこんと私が座るところが用意されていた。



しずしずとそこに腰を下ろすが……



なんだか離れすぎてて落ち着かない。



「紅若というのかい?」



「はい。本日はご指名ありがとうございました」



「いやいや、いいんだよ。改まって言われると照れるな」



お客さんは笑って手を振りながら言った。



「お客様のお名前をうかがってよろしいでしょうか?」



「ああ、これは失礼。私は和泉屋の正二郎というんだよ」

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