戦争の被害者という罪

@yusuii

全人類の罪

「あの鳥みたいな飛行機に私の家族は燃やされました。」

少女が言った。

「あれに乗っている人たちは私の家族に恨みを持っていたのでしょうか。.....いや、きっと持っていないでしょう。まず私たちのことを知らないでしょう。」

街は一瞬の閃光で焼けた海になった。人も建物も全て吹き飛んだ。

「じゃあなんでこんなことしたのって聞いたら、きっとやりたくてやったわけじゃないって言うんです。あの人たちにも家族や大切なものがあって、命令されて、それで仕方なく...私たちの幸せを切り捨てたんです。」

「君は凄いね。感情的にならないで、そこまで考えられるなんて。」

少女の隣には青年が立って、二人で遠くに見える燃える街を眺めている。

二人とも墨や泥で汚れた衣服を着て、ただ茫然と立ち尽くしていた。

「好きとか大切とか、私はよく分かっていないんです。幸せの意味が理解できないんです。でも、きっと今は感情が麻痺しているだけでしばらくしたら、あぁもうあの生活には戻れないんだって気づいて、寂しくて泣いてしまうと思います。今はただ冷静になるために必死なんです。喋り続けないとダメなんです。」

少女の手は微かに震えていた。眼球が止まることを知らずに泳ぎ続けている。

「いつか人は死ぬものだと分かっていました。私は末っ子だから、お母さんやお姉ちゃんたちは私より先に死んで、いつか私一人で生きて行かないといけないようになるから色々できるようになっておかないとって考えていました。まさかこんなにも早く一人になるとは思ってもいませんでしたが。」

「ごめん。」

「なんで謝るんですか。あなたも同じように大切な人を失ったんでしょ。」

「違う。...僕が殺したんだ。僕のせいで君の家族も死んだんだ。」

青年はその場に蹲り、震えた声で話し始めた。

「僕は昨日、死ぬはずだったんだ。あの飛行機が飛ぶ前に、僕が突っ込むはずだった。でも、僕は逃げて来たんだ。僕が逃げたせいで街に爆弾が落ちた。全部、僕のせいでみんな死んだんだ。」

「それは.....いや.....合ってます。」

青年は顔をあげた。

頬には涙が走っている。

「あなたが昨日、死んでいれば私の家族は生きていたかもしれません。確かにあなたのせいです。でも、私のせいでもあります。いや、全員のせいです。これは全人類のせいなんです。こんな酷いこと、誰か一人のせいなわけありません。これは人間の過ちなんです。きっと私も悪いです。」

少女の目からも涙が零れ落ちた。

「それでも、君は子供だから悪くない。何も知らない子供に罪はない。悪いのは僕たち、汚い大人たちだ。」

「子供だからって仲間外れにしないでください。私もいつか汚い大人になります。私だって、戦争なんて遠い知らない国が勝手にやっていることだと思っていました。知らないならそれが罪です。生きてるだけで罪だから、償わなきゃいけないんです。だから、こんな悲しいことが二度と起きないようにしないといけないんです。」

「どうして君はそんなに強いんだよ。もう、僕は.....嫌だ。」

「私にはあなたがいます。他にもきっと、まだ出会っていない人たちがたくさんいます。みんなで力を合わせれば、無理なことも出来るはずです。一人じゃないんです。」

「ごめん。それでも僕はきっと役に立てない。ここで死ぬべきだ。昨日、死ぬはずだったんだから。」

「あなたが生きていたから、私は今一人じゃないんです。あなたのおかげです。」

少女は青年の手を引いた。

「もう行きましょう。ここでメソメソしていても何も始まりません。私たちは共犯者です。一緒に行きましょう。」

二人は涙を落としながら歩き始めた。

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