女子はバス停で列車から降りる
九文里
第1話 通り魔に襲われる女子高生
部屋のドアを閉めると隣の部屋のドアが目に入った。新聞受けが新聞やチラシで溢れている。
お隣の山森さんどうしたのかな。
山森さんは高齢のおじいさんで一人暮らしだ。僕とは一人暮らし同士、たまに顔を合わすと話しをする。気さくで話し易いおじいさんだ。
帰ってきてから様子を見にいくことにする。
今は急いでいる。
バスに乗り遅れることは出来ない。まだまだ会社では新人の域なのだ。
アパートを出ると、いつもどおりに国道沿いのバス停に向かった。
歩道橋の足元を過ぎて角を曲がるとバス停が見える。
その歩道橋を過ぎたとこだった。人がいっぱい叫び声をあげて角から走って来る。
何だろうと、歩いて行くとバス停が見えた。
いつも沢山の人が並んでいるバス停に誰もいない。
ただ、制服を着た女の子がうずくまっている。お腹を押さえて、その下の歩道には血が溜まっている。
その背後に男が茫然と立っている。メガネをして、カッターシャツを着、ネクタイをしているので、会社勤めの人かと思うが、ネクタイは首もとで崩れ髪の毛は乱れている。
ギロリと光った。
男の右手に包丁がある。刺身を造る時に魚を切るような長細い柳刃包丁だ。
男は、周りを虚ろに見ていると思ったら、女の子に顔を向けると包丁を振り上げた。
あれで背中を突き刺さすのはヤバイ。
僕は思わず男に向かって走り出した。
男は、両手で包丁をがっしり握りしめ、女の子を見下ろしている。
間に合わないと思って手を男の方に伸ばすと、男は僕の方に振り向いた、と思うと僕の胸を突き刺した。
それから僕は意識を失った。ただ制服姿の女の子がよろよろしながら走り去って行くのは覚えている。
目を開けると光が目の中に入ってきた。
はっと上体を起こす。景色を見るといつものバス停の近くにいた。
ただ、景色が白っぽい。何というか、映画のスクリーンに映っている景色を見ているようだ。
たいへんだ、会社に行かないとまた課長の機嫌が悪くなる。
僕は起き上がってバス停の方に一歩足を出した。
会社はどこだった。
会社の場所が分からない。
頭の中に靄がかかったようで思い出せない。
会社の名前は何だったかな。
名前も思い出せない。
頭から血の気が引く。心が不安で溢れた。
ならアパートに帰ろうと思ったが、アパートの場所も分からない。
どうすればいいのか、そこから動くことが出来なかった。
その内、日が落ちてきてバス停に止まったバスから人が次々降りて来た。
人々が僕の横を通り過ぎて行く。
誰も僕を見ようともせず歩いて行く。
まるで世の中に捨てられたように孤独感が襲ってきた。
誰かに助けを求めようにもさっさと通り過ぎていく。
バスから降りてきた一人の女の人と目が合った。
僕は話しかけようと思って女の人に笑いかけたら、彼女は目を見開いて顔をひきつらせて反対方向へダッシュした。
そうして人がいなくなった。
どこからか、列車の警笛のような音が聞こえてきていた。
次の日の昼間、年季の入った主婦がふたり、話しをしながら僕の横を通り過ぎた。
「ここでしょ。三日前に人が殺されたのは」
「そうよ通り魔の無差別殺人よね」
「若い男の人が、心臓を包丁でひと突きされて亡くなったそうよ、それに高校生の女の子も死んだらしいわよ」
「お腹を包丁で刺されて病院に運び込んだんだけど既に意識が無かったそうよ」
歩道橋の足元には、花束の塊が置かれている。
包丁で刺された。
何か聞いた事があるような。
大事なことがあった気がする。何か思い出せそうなんだけど、思い出せない。
とにかく早くうちに帰りたい。頭の中はぼやけて思い出せない。
だけど此処からは動けない。わけが分からずさ迷うのは恐ろしくて不安だった。
また列車の警笛のような音が聞こえた。
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