オモテの顔は学園の三大美姫、ウラの顔は僕の○○
のりたま
1 学園の三大美姫
僕――
この、美姫というのは美しい姫様を表してるらしいけど、それはさておき。
圧倒的な存在感を放つ彼女たちは、その場にいるだけで流れを変えてしまうし、みんなが口々に話題にするほどだ。
現に今も、僕の所属する二学年の教室内では、真ん中の列の中心で輪になった男子たちが三大美姫の話で盛り上がってるようで――。
「……なぁなぁ、三大美姫のなかで付き合うなら誰にする?」
「は? お前なに無理難題ふっかけてきてんだよ。そんなの選べるわけねーだろ」
「いーや、今日こそは選んでもらうぞ。複数回答は認めん」
「ええっと、ぼ、僕は……
ひとりの男子が名前を口にした瞬間、どっと歓声があがり、みんながそろって視線を寄せた。
そこにいたのは、すらりとしたスタイルの女子生徒だ。クラスカースト上位層のなかでもひときわ輝きを放ち、机に腰かけたはしたない格好が、さまになってしまうような出で立ちをしている。
彼女の名前は
陽キャのなかでもギャルに位置するような存在であり、背中まで伸ばした髪は彼女の性格を体現するかのような明るめの色。あまりにも均衡のとれた顔立ちにはうっすらとメイクを施していることからもわかると思う。
で、目立つのは息をのむほどの美貌だけじゃなくて、彼女の身体つきにも表れており。
胸元を開けたスキマから覗く色白の深い谷間とか、きゅっとくびれた腰回りとか、スカートなんかじゃ隠せないお尻のラインとか、膝上十センチからむき出しになってる細く長い脚とか。
どこまでも男心をくすぐるような女性といっていい。
とはいえギャルといってもウェイパリピな感じではなくて、むしろ陰キャにもフレンドリーな感じで絡みやすいと評判だ。ボディタッチが多いせいで男子たちが勘違いしたあげく告白からの玉砕は日常茶飯事。
いい意味でも悪い意味でも目立つ美少女。それが大波多さんという人なのだ。
「お前大人しそうな顔してスケベだなー。ぜってー身体目当てだろ」
「ち、違うよ……! その、引っ張ってってくれそうだし」
「あー……わかるわ。草食系男子からしたら大波多のグイグイくる性格はありがたいよな」
オタクに優しいギャルはいた、とばかりに男子たちの目が熱を帯びている。おおかた自分が付き合えたらという妄想に耽ってるのかも。
と、そんな風に視線を集中させていたから――気づかれたらしい。件の陽キャギャルが男子たちの方に顔を向け、明るい笑みとともにひらひらと手を振ってみせたのだ。
「「「「っっっ!!!」」」」
慌てた様子でいっせいに顔を伏せる男子たち。その、耳まで真っ赤だ。
ギャルムーブがこちらにも飛び火してきたので僕も顔を伏せる。しばらくすると男子たちの会話が再開されたようで。
「だ、だったらオレは
「ほぉ……お前もあのクールなたたずまいに惹かれたわけか」
「あぁ、紫月さん……今日も美しいな」
男子たちがうっとりした目を向けたのは、先ほど大波多さんがいた窓際先頭部とは対角線の方向……廊下側の一番後ろの席だ。
そこにいたのは自席で本を読む、ひとりの女子生徒。背筋をしゃんと伸ばし、濡羽色の長い髪を耳にかける仕草はさながら一枚の絵画のようで。
彼女の名前は
俗にいうクール系な彼女は、あまり人と関わらない。仮に会話をするとしても、一言二言が限度。その制限を取っ払うようにグイグイいこうものなら、切れ長の目元からあふれんばかりのブリザードを吹きつけられてしまうのだ。
まさに一匹狼。それでもそんな彼女を魅力的に感じ、観賞用の花として眺める人は多い。
彼女もまた息をのむほどの美貌と、男受けしそうな身体つきをしてるせいもある。
特に、身に着けたブレザー越しにでもはっきり丸みがわかるほどの胸元のボリュームは、あの大波多さんを超えて学年一デカいと男子たちの間でうわさになってるからね。
「おすまし顔のくせしてえっろい身体してるのがいいんだよな……たまらん」
「俺この前体育で彼女が動いてるとこ見たんだけどさ、すげー揺れてたぞ」
「はぁぁ……一度でいいからあのデカぱいを揉んでみたい……」
おのおのが下世話な回想を繰り広げていようと、紫月さんは我関せずといった様子で本に視線を落としたまま。あの姿勢は正直、見習いたいと思う。
けどしばらくすると、べつの男子が声をあげたんだ。
「じゃあ俺は
「あ、ずるいぞ! 俺も狙ってたのに!」
「――えっ!? わたし狙われちゃってるの!?」
「「「「え? うおおおおっ!!!」」」」
突如、輪になってた男子たちが四方八方へと散りじりになっていく。そのきっかけを作ったのは、先ほどまで男子たちがいた場所にたたずむひとりの女子生徒。
彼女の名前は
小動物のような可愛らしい出で立ちから醸し出される快活な雰囲気。そこからもたらされるフットワークの軽さからみんなに愛され、友達の多さは三大美姫のなかじゃ一番だろう。
今回はその距離の詰め方が裏目に出てしまったけど。というか彼女だけはクラスが別のはずだけど……。
僕と同じようなことを思ったらしい男子のひとりが、おそるおそる訊ね、彼女が苦笑いを浮かべながら頬をぽりぽり掻いた。
「いや~、数学の教科書を持ってくるの忘れちゃって。誰かに貸してもらおっかなーと思って来ちゃったの!」
「そ、そうなんだ……。じ、じゃあ俺のを」
「ふふーん、だいじょーぶいっ! すでにミッションは達成されたから!」
せっかくのお近づきになるチャンスをふいにされ、ガックリと肩を落とす男子。人生そんなに甘くはないらしい。
と、そんな彼、いや彼らに追い打ちをかけるように、彼女はずいっと前かがみになりながら、
「それと、わたしを狙うのはおススメできないかな~……じつはねー、心に決めた人がいるんだ~!」
「「「「そ、そうなんだ……」」」」
言いたいことがいえてスッキリしたらしく、彼女がブンブンと手を振りながら教室を去っていく。
嵐のような存在が去ったあと、男子たちは戦意を喪失したような表情でそれぞれの席へと戻っていった。
僕はそんな彼らに心のなかで南無南無しつつ、授業の準備を進めることにして――ふとスマホが震えた。
取り出して確認すると、メッセージがひとことだけ。
『今日も放課後、いつもの時間に、ね?』
◇
授業がすべて終わり、迎えた放課後。
みんなが思い思いの行動をとるなか、僕はというとカバンを持ってそそくさ教室を出ていく。
なにせ陰キャぼっちなもので、話す人もいないんだなこれが。
校舎を出て、通い慣れた道を歩いていく。途中で本屋に寄ったり、コンビニに寄ったりして時間を潰すのも忘れない。
スマホを取り出し、確認するとまもなく午後五時を迎えようかというところ。
「そろそろいいかな……」
僕は再び足を動かし、オレンジ色に染まる空の下を進んでいく。
しばらくすると立派な一軒家が見えてきた。玄関先までやってきたところで、インターホンを鳴らす。
するとドタドタと激しい足音が聞こえてきて、ドアが勢いよく開かれた。
「ケンケンっ、おっかえりー♡」
「ええっと……ただいま?」
僕はこれが正解なのかわからないとばかりに小首をかしげてみせる。
だって目の前にいるのは、あの――学園の三大美姫のひとりである、大波多莉緒さんで。
ここはそもそも、僕の家じゃなくて、彼女の家なんだから。
オモテの顔は学園の三大美姫、ウラの顔は僕の○○ のりたま @kirihasan
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