第29話

冬休みまであと数日。気温もぐっと下がり、学校の窓から見える景色にはうっすらと霜が降り、白く輝いていた。そんな寒い日でも、美咲は朝から放課後まで一生懸命に練習を重ねていた。


その日の放課後、最後のコンクール練習が終わり、美咲は一人で音楽室に残っていた。指先は少し冷たくなっていたが、心の中は達成感で温かかった。コンクールのために努力してきた日々が、まるで昨日のことのように思い出される。


帰り道、美咲は悠斗にメッセージを送ろうとスマートフォンを手に取った。


「もうすぐ冬休みだね。コンクールの練習も一段落したよ。今まで応援してくれて本当にありがとう」


すると、少し時間が経ってから悠斗からの返信が届いた。


「お疲れ様、美咲!ずっと頑張ってたんだね。やっぱり美咲はすごいよ。俺も冬休みの間にたくさん話したいことがあるんだ。再会が待ちきれないよ」


美咲の胸がじんわりと温かくなり、思わず笑みがこぼれた。冬休みに会える約束をしてからずっと楽しみにしていたが、悠斗も同じ気持ちでいてくれることが嬉しかった。


そして、冬休みの最初の日。待ち合わせの駅に向かう道すがら、美咲は悠斗に何を話そうかと考えながらワクワクしていた。久しぶりに会う悠斗の姿を想像すると、緊張も混ざり合い、少しだけ手が震えるのを感じた。


待ち合わせ場所に着くと、少し離れたところに悠斗の姿が見えた。彼も美咲に気づき、穏やかな笑顔を浮かべて手を振っている。美咲もその笑顔に応えるように手を振り返し、二人は自然と近づいていった。


「久しぶり、美咲!元気そうで何よりだよ」と悠斗が声をかけ、美咲も照れくさそうに「悠斗もね!」と返した。


久しぶりに直接会った二人は、お互いの顔を見つめながら、しばし言葉が出てこなかった。しかし、その沈黙が心地よく感じられ、二人の間には何とも言えない温かさが漂っていた。


その後、二人は街を散策しながら、学校のことや趣味のこと、お互いの夢についてたくさん話をした。時間が過ぎるのも忘れるほどの充実したひとときだった。


夕方になり、日が傾き始めると、二人は帰りの駅へと向かった。別れ際、悠斗が少し寂しそうに「次に会えるのはまた春かな」とつぶやいた。その言葉に美咲も少し胸が締め付けられる思いがしたが、強くうなずいて応えた。


「そうだね。でも、それまでまたお互いに頑張ろうね。次に会う時は、もっと成長した私でいたいな」


悠斗も「俺もだよ」と優しく微笑み、美咲の手を軽く握り返した。


寒い冬の風が二人の間を吹き抜けていく中で、二人はまた次の再会を約束し、別々の道へと歩き出した。


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