第27話

冬休みまであと少し。再会の約束があるおかげで、日々の生活にいっそうの張り合いが生まれた美咲は、これまで以上に充実した学校生活を送っていた。勉強やクラブ活動にも一生懸命取り組み、時間があれば音楽の練習を欠かさなかった。


ある日、音楽の先生がクラス全員に新しいお知らせを持ってきた。学校の代表として市内の音楽コンクールに出場するメンバーを選ぶオーディションが行われるというのだ。


「参加したい人は、ぜひ挑戦してみてください。コンクールでの経験は、きっとみなさんの成長に繋がりますよ」


先生の言葉に、美咲の胸が高鳴った。文化祭での演奏をきっかけに自信がついたものの、さらに自分の音楽の力を試してみたいと思うようになっていた彼女にとって、これは絶好の機会に思えた。


放課後、美咲は迷うことなくオーディションに参加するための申込用紙を手に取った。帰り道、友達にそのことを話すと、みんなが応援の言葉をかけてくれた。


「美咲なら絶対に上手くいくよ!あの文化祭のステージもすごくよかったもん!」


「ありがとう…でも、やっぱり緊張するよ」と美咲は少し照れながらも、みんなの応援が力になるのを感じていた。


家に帰ってからも、彼女の挑戦に応援してくれたのは家族だった。特に母は「美咲がそんなに頑張りたいって思うなんて、お母さんも誇らしいわ」と微笑んでくれた。


美咲はその夜、悠斗にオーディションへの挑戦を伝えた。彼からの返事には、彼女を励ます温かい言葉が詰まっていた。


「すごいじゃん、美咲!この前の文化祭を超えるくらい頑張ってみてよ。絶対に応援してる」


悠斗の言葉に、美咲は決意を新たにした。彼が自分を信じてくれているからこそ、何としてでも良い結果を出したいという思いが湧いてきた。


それからの日々は、まさに挑戦の連続だった。学校が終わった後、音楽室にこもって一人で練習を重ねた。時には指が痛くなることもあったが、そのたびに悠斗との再会の日を思い浮かべて自分を奮い立たせた。


そして、オーディション当日がついにやってきた。校内の音楽ホールに集まった参加者たちは、皆それぞれの楽器を抱え、静かに緊張感に包まれていた。美咲もその中に立ちながら、深呼吸をして心を落ち着ける。


演奏が始まると、彼女はこれまでの練習の日々がすべて無駄ではなかったと実感した。音楽に集中し、今この瞬間を楽しむことだけを考えると、緊張はすっと消え去っていった。


演奏を終えると、審査員からの温かい拍手が響き、美咲は心からの達成感を味わった。結果がどうであれ、今の自分ができる限りの演奏を届けられたと感じたのだ。


帰り道、美咲はふとスマートフォンを取り出し、悠斗に報告のメッセージを送った。


「オーディション、やり切ったよ。ありがとう、悠斗の応援のおかげで自信を持って演奏できた!」


数分後に返ってきた彼からのメッセージには、「美咲、ほんとにお疲れ!結果なんてどうでもいい、頑張ったことが一番だよ」と書かれていた。


その言葉に、美咲は小さな笑みを浮かべながら、改めて心に決めた。「自分を信じて、一歩ずつ進んでいこう」と。


冬の空気が冷たくなる中で、彼女の心には温かい灯がともり続けていた。


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