第4話 タイムリミット

 今日は年に1度の健康診断の日だ。この施設で生活をする、5歳から9歳の子ども全員が検査を受ける。少年は9歳になった。身長はここに来た時よりも、かなり伸びていた。

 一通り全ての検査が終了した。この後は、対象者のみが受ける検査がある。それはギフトの有無を確かめる検査だ。


 この検査は、ギフトを発現していない子どもを対象としたもの。ギフトは大体の場合、発現していても自分で気付くことが出来ない。ならば、どのようにして自分のギフトを知るのか。

 それは鑑定というギフトを持つ人間に見てもらうことだ。このギフトは、他人のギフトを見ることが出来る。


 ギフトを発現していない子どもは、ひとつの部屋に集められ、順番が来たらカーテンの向こう側で検査を受ける。

 年齢が上がるにつれて、ギフトを発現していない者は減っていく。9歳にもなると、残っている人数も僅かになる。少年も含めた8人が、自分の番が来るのを待っていた。

 その中には、手を合わせて何かに祈りを捧げている少女がいた。


 「何してんの?」


 少年に声をかけられた少女は、祈りの手を崩すことなく答える。


 「今年こそはギフトが発現してますようにって、神様にお願いしてるの」


 「ギフトなら神様ってより、お星様にお願いした方が良いんじゃない?」


 「確かにそうかも!お星様お星様お星様〜」


 少女が捧げる祈りを強めていると、カーテンピシャリと開く。中から出て来た人が、少女を呼ぶ。


 「はい!!」


 少女はキッパリとした返事に、似合わないガチガチな歩き方で向かっていく。少女が中に入ると、カーテンは再び閉まる。カーテンが閉まってから程なくして、少女の声が響き渡る。


 「わーーーい!やったーー!!ありがとうございました!!」


 声は遠ざかり間隔の短い足音は、扉を開ける音と共に外へ出て行く。


 再びカーテンが開いて、少年の番が訪れる。中に入ると、白衣を着た女性が座っている。女性の後ろの机では、助手らしき人物が、書類と睨めっこをしている。検査は毎年、この女性が行なっている。


 「お座り下さい」


 言われた少年は、女性の正面の椅子に座る。彼女の周りには、スーツを来た4人の男がいる。鑑定のギフトは、ありとあらゆる方面に、利便性が高いため重宝される。このギフトを持つ者は、厳重な警護をされるようだ。


 「去年の検査から今日までに、体に変化などはありましたか?」


 「いえ、特に何も」


 少年の返答に、助手はペンを走らせる。


 「そうですか。じゃあ、私の目を見てください」


 「はい」


 少年は女性の目を見つめる。検査方法は毎年同じ。数十秒ほど目を合わせる。これだけで、彼女は相手のギフトを把握することが出来る。


 「もう大丈夫ですよ」


 少年は目線を女性から外して、目を軽く擦る。

 

 「ギフトの発現は確認出来ませんね。何か質問などありますか?」


 「ん〜、ないです」


 「分かりました。検査は終了です。後ろの扉から退出して下さい」


 女性の声に反応して、助手は椅子から飛び上がり、扉を開けに行く。


 「ありがとうございました」


 少年は立ち上がり扉まで歩く。扉を開けてくれている女性の助手に、少年は軽く会釈をして廊下に出る。

 少年が歩き始めると、「わっ!」という声と共に、肩に衝撃が伝わる。少年が振り返ると、満面の笑みを浮かべている少女がいた。


 「うおっ!びっくりしたぁ。居たんだ」


 「うん!」


 少女はいかにも上機嫌な声で返事をする。


 「めっちゃ喜んでたから、走ってどっか行ったのかと思ってたよ。ギフト発現してたんでしょ?」


 「うん!バッチリ!君は?」


 少女の問い掛けに、少年は首を横に振る。


 「そ、そっか。でも来年もあるから大丈夫だよ」


 「そうだね」


 少女は申し訳なさそうに少年を励ます。ただ、少年はギフトが発現しなかったことを、全く気にしていなかった。


 「で、どんなギフトだったの?」


 「それはね〜、なんと!私のギフト鑑定だったの!!」


 「え!?すご」


 「でしょ!さっき見てくれた人が、常に鑑定のギフトを意識して生活しろって、言ってたから頑張らないと!」


 「へぇ〜、今日までギフトには気付かなかったの?」


 「うん。全然そんなこと思ったなかったから」


 そう言った後、鑑定の少女は何かを閃いたような顔をする。


 「あっ!今から練習させてよ!君のギフト、さっきの人が見落としてるかも!だから私も見る!二重チェックしないと!」


 「まあ、何にもないと思うけどね」


 「はーい。じゃあ、私の目を見てください」


 鑑定の少女は、先程の検査の手順を真似る。少年が目を見ると、鑑定の少女の真剣な眼差しが返って来る。


 「んー、何にも見えない。私のギフトの力不足だぁ。これから頑張って優等生になって、早く外の世界に出られるようにしないと!」


 少女の純粋な思いと笑顔は、少年には耐え難い眩しさだった。


 「僕も、君の目にギフトが映るように頑張るよ」


 9歳になってからは、ギフトを扱う授業が多くなる。少年にはその時間を共に過ごす、親しい人はいない。

 少年以外にもギフトが発現してない子はいるが、皆遅れを取り戻すかのように自主訓練に励んでいる。少年はギフトが発現しないことを、遅れだと捉えていなかった。

 自主訓練などせず、外に座って絶景からは程遠い、景色を眺めているだけだった。

 

 そのまま少年の9歳は終わった。10歳になってからは、生活をする敷地が変わる。

 10歳になる子どもたちが、運動場に集められる。集合したのは、明かりがなければ周りが見えない深夜。

 子どもたちは列になって歩く。歩き始めてほんの数分で、先頭を歩く男が止まる。どうやら壁まで来たようだ。

 男が壁に手を触れると、壁の一部がだんだんと透けて消えて行く。これが男のギフトなのだろう。そこから1人づつ壁を抜けて行く。

 壁を抜けた先には、同じように学舎と宿舎が建っている。違うのは運動場の広さ。今までの運動場と比べて2倍ほどはある。壁の背を超える木々が立ち並び、自然が充実していた。


 どうやらここで暮らすのは、10歳の子どもだけのようだ。今までの賑やかさはない。

 ここで兄と姉に会えると思っていた少年には、落胆が降り掛かった。


 今年も健康診断の時期がやって来る。10歳になっても、少年のギフトが発現することはなかった。

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