11.試験結果

帝国騎士団入団試験2日後の朝、ハナノとフジノの泊まっている宿に試験の合否の知らせである二羽の伝書鳩が舞い降りる。朝日と共に起きたハナノがドキドキしながら窓を開けようとすると、すぐ外に白く光る鳩が二羽仲良く並んでいた。


(来たー!)

「フジー! 鳩! 鳩来たよ!」

 ハナノは興奮しながらまだ寝ているフジノを呼び窓を開けると、鳩達はバサバサと入ってきてフジノのベッドへと向かう。騎士団の入団試験でフジノの魔力が登録された伝書鳩達だ。


「うわっ、ちょっと待って!」

 寝込みを鳩に襲われて、フジノは慌てて起きた。ハナノも鳩と一緒にフジノにまとわりつく。


「どうしよう! 受かってるかな、どうかなあ、落ちてたらどうしよう。ねえ、もう見る? 見る? あっ、てかどっちがどっちだろう? 私の方から開けてね。フジはどうせ合格だからさ、間違わないでね! ねえ! 待って、止まって、どっちが私?」

 ソワソワしたハナノはフジノの上を飛び回る鳩達を捕まえようとぴょんぴょん跳んだ。


「ハナ!落ち着いて。大丈夫、ハナの鳩からちゃんと開けるから。まずメモの用意しよう、鳩のメッセージは読み終わったら消えちゃうからね」

 寝起きのフジノがベッドから出てスリッパを履く。


「そうだね! 待ってて! 何か書くもの持ってくるから」

 ハナノは指示通りに荷物からごそごそと紙とペンを取り出して、床に座った。

 フジノはハナノがメモの準備をしたのを確認してから、すっと右腕を体の前に構えた。二羽の鳩はそこに行儀よく並び、その頭の上の名前を確認する。


「こっちの子がハナだって。いい? 開けるよ」

「うん」

 ハナノは力強く頷く。

 ドッドッドッと自分の心臓の音が大きくなるのをハナノは感じた。


(受かってるかな?)

(騎士なれるかな?)

(あの制服、着れるかな?)

 ペンを持つ手にじんわりと汗が滲んで、ごくりと唾を飲む。


 6才の時、16才で騎士になった長兄のフリオの騎士服姿を見て、その凛々しさに打ちのめされて以来ずっと憧れていた騎士だ。

 憧れてからはフジノと一緒に剣を習った。残念ながらハナノには魔力はなかったから魔法は諦めた。でも騎士たるもの、魔法の教養は大切らしいから、フジノと一緒に神殿の学校も行って学んだし、家の古書やら神殿秘蔵の古書やらもフジノとたくさん読んで自主勉強に励んだ。

 フジノが神童扱いだったから、神殿は普段は公開してない古書も見せてくれた。


 騎士になって魔物に遭遇しても大丈夫なように、魔物についてもしっかり勉強したし、魔獣の扱い方も覚えた。

 フジノが「絶対必要になる」と言うから古代語についてもがんばって習得に努めた。

 

 フジノと一緒に裏山行って、実地学習なるものもたくさんした。薬草を探してみたり、ツリーハウス作ってみたり。

 

 魔物も、下級魔物となら実際に戦ってみたかったのだが、ハナノ達の屋敷の裏山程度では遭遇する事はなかった。魔物は通常、“精霊の森”と呼ばれる魔力に満ちた森やその周辺に生息していて、裏山程度では遭えなかったのだ。 

 たまに木こりや猟師が、低位のはぐれ魔物に襲われる事はあったので、そういう一報の後に何度か探索したのだがハナノ達が魔物に遭遇する事はなかった。話を聞いてはすぐに現場周辺に駆けつけていたのに、運が悪かったのか良かったのか、出会えず仕舞いだった。


(ところであのツリーハウス、騎士になんか関係あったかな?)

 走馬灯のように自己研鑽の日々を思い出しながらハナノはふと思う。ツリーハウスは楽しかったが、騎士とは関係なかった気もする。あれはフジノの趣味だったのかもしれない。楽しかったからいいけど。


(そういえば、フリオ兄さんもたくさん頑張ってやっと騎士になったんだよね)

 ハナノとフジノの長兄は14才から騎士団の入団試験を受けたが一度目は落ちてしまい、2年かけて念願の騎士になったのだ。


(あ、)

 そこでハナノは今更ながらの事実に気づく。


(そうか。私は今年だめでもあと二回は試験受けられるのか)

 受験資格は17才まである。今年がダメでもまだチャンスはあるのだ。あと二回もあれば何とかなるような気もする。

 

(何とかなるんじゃない? じゃあ、今回は練習のつもりということで気楽に結果を……)

 そう考えて、ハナノはふるふると頭を振った。


(いや! でも! フジノは今回絶対合格だし、せっかくならフジノと同期がいいよね)

 双子なのにフジノの後輩になるなんて嫌だ、さすがにそれは嫌だ。

 だから、今回、受かっていたい。


 ドッドッドッドッドッ

 心臓の音がどんどん大きくなりだす。


「開けるね」

 フジノは、ハナノの方の鳩の頭に手を触れた。鳩はほわっと光ると一枚の紙のようになって、文字が浮き出た。

 

 そこにはこう書いてあった。


――――――――――――――――――

 下記の者に入団を許可する。

 ハナノ・デイバン

 

 入団の許可を……


「っ……」

 最初の二行以下は、ハナノの目にはもう入ってこなかった。


「っ!! やっっったーー!!! 受かった! やった! 受かったって書いてある! 入団を許可するだって、良かったよお! 受かったあああ!」

 ハナノはガッツポーズをして飛び跳ねた。嬉しさのあまりフジノにも抱きつく。

 

「うわっ、ちょっと」

 フジノが慌てるけど気にしない。

「あ、受かったって家に連絡しないと、手紙、手紙書かないと!」

 ぎゅうぎゅうとフジノを抱き締めてから、ハナノは再び荷物へと向かう。


「ハナ!落ち着いて。合否以外にも何か書いてあるよ、ちゃんと全部読んでメモしないと……聞いてる?」

 すっかり舞い上がって、実家への手紙の準備をし出したハナノにフジノが声をかけるが、その声は全く届いていない。その内に鳩の文字はじんわりと宙へと消えていった。


「ああ、ほらあ…………ま、僕のを読めばいいか」

 フジノは諦めて、自分の鳩を開く。

 ほわっ。


――――――――――――――――――

 下記の者に入団を許可する。

 フジノ・デイバン


 入団の許可を受けた者は、明後日9時より騎士団本部の訓練棟大ホールにて説明会と制服の採寸を行うので出席すること。

 説明会出席が不可能な場合は騎士団本部まで連絡すること。


――――――――――――――――――――


「ハナー、僕も合格したよ、って絶対聞いてないな……」

 フジノはハナノの準備したメモ用紙に、説明会のことについてを黙々と書き写した。

 




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