それ (-1)

井馬紫苑

1.

(それへ)


誰かが言っていました。それはそれが表すものだと。また、忘れ去られたものだとも。そう教えてくれました。私たちが望むなら。


それについてはまたこうも言われます。それは彼でもあるし彼女でもあると。それが彼であるか彼女であるかはサイコロを振って決めるしかないようです。たぶん、それにとっては不本意なことだったでしょう。


それは私を見つめます。私の眼の中を。私もまた、それを見つめます。前もって。知らず知らずに。悪だくみのように。


それを表す特別な言葉があれば! 鋭い言葉が!


それは膨らみます。だから、それは彼であり彼女であるのです。


しかし、それは私たちではありません。だから、私たちはそれを目指しました。終わりの方へ。それを知れば、それは私たちになると思ったのです。でも、元に戻ってしまいました。


それはまだ私たちの手元にあります。それを作りだしたのは私たちです。

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