第24話 応援
「はああああ。お姉ちゃん、普段から、あんな人たちと仕事しているの?」
二人が完全に私たちの視界から消えると同時に、妹が大げさにため息を吐く。彼女のそんな様子に、私もやっと肩の力を抜くことができた。
「まあ、たまにああいう芸能人とも会話することはあるよ。とはいえ、彼女たちは特別だよ。彼女達は」
「言わなくていいよ。じゃあ、彼女たちにああいった手前、救急テントに寄っておこうか」
私たちも救急テントがある場所に向かって歩き出す。空を見上げると、いまだに雲一つない快晴が広がっていた。校庭の中心では、リレーが行われていて、高校生たちが全力で次の選手にバトンを渡そうと必死に走っている。
「青春しているねえ」
「高校生だしね。私たちだって、この頃は青春していたでしょ」
「ううん」
「ごめんなさい。聞いた私がばかだった」
救急テントに立ち寄った私たちだが、保健の先生に診てもらうことなく、そのままテントから抜け出した。わざわざ診てもらわなくても、体調不良の原因はわかっている。
「今日はごめんね。私のせいで、柚子の応援ができなくて」
「いいよ、気にしないで。柚子は午後からの競技もあるから。今日はもう帰る?」
「うん、そうする」
「校庭の隅までは見送るよ」
結局、私は柚子たちが競技に出ているところを見ないまま、家に帰ることになってしまった。まったく、これではわざわざ高校まで足を運んだ意味がない。REONAさんとあの男からも何も情報を聞きだせていない。
「頑張れー、かけるくーん!」
「かっこいいー!」
帰ろうと校門の方に向かって歩いていると、急に私のそばで歓声が上がった。よく見ると、リレーはまだ続いていて、ちょうどバトンが次の選手にわたるところだった。
「確かに見た目はカッコイイ……。それに、運動神経もいいんだね」
「ああいうのがタイプなのはわかるけど、さすがに高校生に手を出したら」
「ないない、冗談きついよ。いくら妹だからって言っていいことと悪いことが」
ちょうど翔琉君がリレーのバトンをもらっているところを観戦することができた。目の前を通り過ぎる彼の姿は、高校生たちの黄色い歓声を理解できるほどにカッコよかった。
「じゃあ、今度こそ家に帰るね」
「待って。そういえば、次の競技に柚子が出るのを思い出した!それを見てからにしたら?柚子だって、お姉ちゃんが応援してくれるのを本当は楽しみにしていたと思うよ。ほら、これに柚子が出るんだって」
翔琉君の姿を見ることができたことに満足し、私は校庭に背を向ける。その背にパシンと何か紙のようなものが当たる。振り返ると、深波が体育祭のプログラムが書かれたパンフレットを私に突き出してきた。さっきは柚子の応援ができなくて残念そうにしていたのに、今度は応援していけとはどういうことか。
「だから、私がこの場にいたら」
「柚子の、応援を、していって、下さいよ!」
「か、かけるくん!」
話しているうちにリレーが終了していたらしい。走ったばかりでまだその余韻が残っているのか、それとも、私たちの姿を見つけて大急ぎで競技終了後、駆け付けてくれたのか。翔琉君が息を切らして私に駆け寄ってきた。
「次の種目は障害物競走です。選手の皆さんは準備をお願いします」
ちょうど、次の競技が始まるアナウンスが流れだす。これに柚子が出るらしい。あたりを見渡すと、遠巻きに翔琉君を見つめるジャージ姿の女子生徒たちがいた。先ほどまで熱心に翔琉君を応援していた生徒たちだ。私たちの間にある微妙な空気を読んだのか、ただのおばさんとイケメンの翔琉君が話しているのが珍しいのか、ありがたいことに会話の邪魔はしてこない。
「せっかく来たんだし、まあ、柚子の応援はしていこうかな。翔琉君は自分の席に戻った方がいいよ。こんなおばさんと話していたら、目立つからね。ほら、他の女子生徒たちが翔琉君に声掛けたくて待っているよ」
「それはそうだ。私たちのことは気にしなくていいからね。じゃあ、お姉ちゃん、柚子が見える場所まで行こう!」
深波も気を利かせてくれて、翔琉君から距離を取ることを提案してくれる。柚子の応援をする流れになっているが、本来はそのために高校に来ているのだし、帰るのはもう少し後でも構わないだろう。
「じゃあね。お母さんたちとはゆっくりと話せなかったけど、よろしく伝えておいてく」
「僕も一緒に柚子を応援します!僕はもう、出なくちゃいけない競技はないんで。あるとしたら、昼すぎの応援合戦だけだし」
おばさん二人と一緒に応援することを避けようとしてあげたのに、気を利かせた私たちの行動は無意味に終わる。翔琉君はまさかの一緒に応援したいと言い出した。
「いやいや。それはさすがに」
「翔琉、あなた、高校でも足が速いのね。リレー見たけど、すごかったわ」
「オレに似たのかもしれないな」
「これで失礼します」
「一組目がスタートします。よーい、スタート!」
翔琉君との会話に割り込んできたのは、彼の両親だった。せっかく彼らに会わないように先に帰ろうと思ったのに。そんなことを思っているうちに、障害物競走は始まった。一組目がスタートするというアナウンスが流れ始めた。
「頑張れー!ゆずー!」
「一位とれー!」
「ゆずー!」
私たちの近くには、柚子のクラスメイトだろうか。数人の女子生徒がスタートした柚子のことを応援していた。
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