星の嘘 : Plan B
見咲影弥
Prologue
「おしゃれなこと、してみない?」
放課後の教室にて。彼が私にだけ聞こえる声で囁いた。そんなに小さな声で言わなくたって、誰も聞いていないのに。私の机に肘をついた彼は僅かに笑みを讃える。傾いた陽の光で彼のメガネが束の間きらりと光った。レンズの向こう側にある真っ暗な瞳から腹のうちは伺えない。
「おしゃれなことって、なに?」
「たとえば、逃避行」
私を試すような口ぶり。逃避行――現実味のない言葉だった。でも、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。彼もきっと、私が網にかかるのを望んでいるはずだ。
「いいじゃん、それ。楽しそう」
動揺を悟られないよう、いつものように軽い口調で返す。
「一緒に、ここから逃げよう」
彼の瞳は、まっすぐ、私を捉えていた。彼は、本気だ。
もし、彼じゃなかったら、私は多分笑っていた。そんな映画みたいな、とか。君って案外ロマンチストなんだね、とか。できの悪い愛想笑いを浮かべて、茶化す筈だった。でもそんな目で見られたら、生半可な気持ちで答えられない。答えちゃいけないと思った。
彼の前で誤魔化す必要なんてなかった。
「おしゃれなこと、したい」
はっきりと、彼にそう告げた。綺麗なことかどうかなんてどうでもよかった。ただこのちっぽけな世界から逃げ出すことができるなら、それでよかった。おしゃれにならなくたっていい。それでもいいから、ここじゃないどこか、遠くへ行きたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます