彼女の好きな人

リラックス夢土

第1話 彼女の好きな人

 彼女はいつも本を読んでいる。

 教室の中でみんなが騒いでいても彼女は一人で本を読む。

 そんな読書をしている彼女が僕は好きだった。


 だが大人しい彼女は同級生からいじめの対象にされていた。

 でもいじめを受けても彼女は本を読み続ける。

 まるで現実逃避をするように。


 僕はそんな彼女を護りたいという気持ちが強くなったし好きだと思う気持ちも日に日に強くなった。


 ある日、勇気を出して僕は彼女に告白してみる。

 自分に自信なんてなかったけれど彼女が僕の告白を受け入れてくれたら彼女をいじめる奴らからも彼女を護れると思ったんだ。


 そして彼女は戸惑いながら「友達でもいいなら仲良くしたい」と僕に答えた。

 本当はすぐに彼女を僕の恋人にしたかったけれどここで焦ってはいけないと自分に言い聞かせる。


 彼女はいじめを受けているから人間不信になっているのかもしれない。

 まずは彼女の友達になって仲良くなってからもう一度告白すれば今度はOKの返事をもらえるかも。


 だから僕は彼女の言葉を受け入れまずは彼女と「友達」から始めることにした。


 それから毎日彼女に教室で話しかけたが話すのはいつも僕の方。

 彼女は本を読みながら僕の言葉に頷くだけ。


 最初はそれでもいいと思っていたがあまりに彼女が本を手放さないので僕は段々不満を募らせた。


 そしてある日いつものように本を読みながら僕と話す彼女を見てつい彼女から本を取り上げて怒鳴ってしまう。


「本なんか読んでないで僕と話してよ!」


 彼女は驚いた顔をしたが怒って僕に言い返す。


「本を返して! その本の中には私の好きな人がいるの!」


 僕よりも本の登場人物が好きなのかと思い怒りを覚えた僕はそのままその本を校舎の5階の開いていた窓から放り投げた。


「やめてええええーっ!!」


 彼女は悲痛な叫び声を上げて開いていた窓から本を追うように飛び降りる。


「え!?」


 彼女が飛び降りるなんて予想しなかった。

 ここは5階だ。飛び降りた彼女は……


 僕は恐る恐る窓から外を見る。


 地面には今飛び降りた彼女の姿はない。


 いない!? そんな馬鹿な!


 僕は慌てて一階まで降りて彼女が落下したところに行ってみた。


 やはり周囲に彼女の姿はない。

 そこには僕が投げ捨てた本が一冊あるだけ。


「彼女はどこに行ったんだ?」


 風が吹いて彼女の本のページがパラパラと捲れる。

 僕はその本を拾い上げた。


 いつも彼女が読んでいた本がどんな本なのか気になったのだ。

 その本の中身を見ると恋愛小説のようだった。


 そして本のイラストの部分でページを捲る僕の手が止まる。


 本のイラストの中に彼女がいた。


 美しい男性と笑顔で寄り添う姿はまるで恋人のようだ。

 今まで見たことがないほどの幸せそうな満面の笑みを彼女は浮かべている。 


 ああ、この男性が彼女の好きな男なのか。

 彼女は好きな男性のいる世界に行ってしまった……


 僕の瞳から涙が零れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

彼女の好きな人 リラックス夢土 @wakitatomohiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ