結婚前夜

天音 花香

望まぬ結婚

 明日、私は顔も知らない人と結婚する。


 私の村では女は隣の村に嫁ぐことが決まっているのだ。そして、隣村の女は私の村の男に嫁ぐことになっている。

 私は今年16才。結婚するにはいい年ごろだという。結婚相手の男性は25才とだけは聞いている。もっと年上の人のもとに嫁ぐこともあるらしい。私は幸運な方なのかもしれない。それでも私は不安でいっぱいだ。


 母は隣村から来たことになる。私はそんな事情をものごころつくまで知らなかった。母は控えめで、やさしくて、いつも静かに微笑んでいるような人だ。私から見ればだけれど、幸せそうに見える。でも、母も不安じゃなかったのかな。自分の生まれ故郷から出る不安。顔も知らない相手に嫁ぐ不安。新しい村でうまくやっていけるかどうかの不安。期待もあったのかな。期待。私にはない。似ているとはいえ、文化自体が違うところに嫁ぐのだ。私には不安しかない。

 それに。母には好きな人はいなかったのかな。いたとしたら諦めたのかな。

 私の脳裏には見慣れた彼の姿が浮かんでいた。私は、諦められるのかな。

 私はそう考えて、違うなと思った。諦めるしかないのだ。明日、私は隣村に行くのだから。

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