63話 きばくそうち(作動済み)
「いやぁ、助かりました」
「? な……何が……?」
「いえ、人って生きてるだけで誰かの役に立ってるんだなぁって思ったところ」
本気で生命の危機を感じていた僕。
脱出できたのは、まさかの痴漢って勘違いするレベルの挙動不審な彼のおかげ。
本当に絶妙なタイミングで電話してくれたからね……本当に。
誇っていい、君には真っ黒になった女の子をキャンセルする能力があるんだ。
これからも存分に僕のためにがんばってくれ。
「……ふひっ、ぶぺっ、ぶひっ」
「うんうん、落ち着こうね」
どうどうと汗をかきだして変な鳴き声を上げ出し、それ以外は黒木さんみたいになっている彼を落ちつけようと試みる。
君は僕の貴重な命の恩人だからね。
女の子相手だけこうなるらしいし、実際普通に話せるタイミングもあるんだし、これはきっと若気の至りだと信じたいところ。
大丈夫、思春期過ぎれば……あと女の子との経験がある程度あれば、そんなにならなくなるからさ。
「……ふぅ。 急に電話しちゃってごめんね」
「ううん、おかげで助かった」
「……もしかして、あの子たちに詰め寄られてたりした?」
「おや、勘が鋭い」
どうやらバレてたらしい。
なんとなくだけども、人間ってのはトータルでプラマイゼロの存在。
だから、彼みたいに女の子に極度の緊張するってことは何かしらのタレントが存在するはず。
少なくとも前世を継承している代わりにやたらとトラブルに巻き込まれる哀れで不運でかわいそうな僕は、そう確信している。
「……それにしても……その、実にかわいぶひ」
「うんうん女の子を褒めるのは難易度高いからもう少し女の子慣れしてからにしようね」
「ふへっ」
たぶん僕の格好を褒めようとしたんだと思うから、さらりと流す。
――あれから。
なんとか――包丁持ってる幻覚を演出していた紅林さんから逃げ出した僕は、そのまま即行で速攻で走って走ってひと駅先のロッカーにひた走り、しまってたボストンバッグを取り出し、トイレで着替え、メイクを落として軽く付け直した。
おかげで今はごく普通のJK――つまりは外をぶらつくときの「アキノちゃん」な姿だ。
おしゃれだけどおしゃれすぎない、けども流行りのアクセとかで女の子同士は一瞬で理解できるあれだ。
うん……彼の視線が僕のおっぱいに吸い寄せられてるのは見て見ぬ振りをしてやろう。
大丈夫、女の子も興味持った女の子に対してはおっぱいガン見してくるから。
僕もするから平気平気。
女の子は、嫌悪感持ってない相手には嬉しさしか感じないから平気平気。
僕は男だから、君から見られても哀れさしか覚えないし大丈夫大丈夫。
「で? あの絶妙なタイミングで電話してくれた要件って?」
「ああ、うん……でゅふ」
「こらえてこらえて、せめて言ってからにして」
これ、ホストの格好のままのほうが良かったかなぁ……や、あれだとなんだかさ、紅林さんに後ろから追跡されてズドンってされそうな気がしてたし。
「――こほん。 アキノちゃん」
「うん」
きりっとする彼は、イケメンと言えなくもない容姿。
ただしそれは床屋さんではなく美容院へ行き「女の子にモテたいので流行りで、かつ僕に似合うのにしてください」って恥ずかしさを捨ててお願いをし、安い服屋さんでもいいからおんなじようなお願いを店員の人にお願いして仕入れて、あと追加するならばがんばってコンタクトにして背筋伸ばしてちょっとばかし筋トレして靴も流行りのにして歩き方も普通にして……ごめん、いきなり全部はムリだよね。
前世の僕がささやいている、「それが全部できたら苦労はしない」。
「ごめん……君、あの子たちにバレてる」
「え? いろんな子と遊んでることが?」
「あ、うん、それは普通に最初からだけど」
「最初からだったのか……」
『露見していないとでも?』
『コイツ馬鹿ッスから』
おい、僕のことを馬鹿って言うな。
僕のことを「バカ」って言っていいのは、ベッドの上でいちゃいちゃしてるときのお相手の子だけなんだぞ。
あ、できるだけいろいろこらえてる感じで、顔真っ赤にして――
「その。 ……君が、銀藤明乃さん――妹さんと同一人物ってこと」
「ゑ?」
え?
なんだって?
「えっと……理由は不明だけど、自分をお姉さんって嘘ついてあの子たち助けたりしてるってのを……」
「……バレてる?」
「そりゃあもう」
「どんくらい?」
「えっと、なんだっけ。 『なんであんなに隠してるんだろ』『女の子とたくさん遊びたいからでしょ、どうせ』『し、姉妹って言えば大抵のことは通るし、いざとなったら逃げられるから……』だったかな?」
「おっふ」
やばい……何がやばいって、絶対あの子たちが言ってそうなセリフを覚えてる彼だ。
「それでね。 ……つい昨日に、3人に詰め寄られて白状させられたんだ」
「何を……?」
「……君が、メガネかけてるときの……妹さんになってた君と、お姉さんになってる君が」
「うん」
「前に僕に向けてきたカメラと、本当に痴漢に遭ってた子を助けるために通報してた君のスマホがおんなじこととか」
「おっふ」
「あと、髪型変えてメガネ外して服装もお化粧も垢抜けた感じになるし話し方でゅふってなるけど、猫背を考えたら背丈が全く同じだし、声の特徴もおんなじで、なにより顔が双子レベルでおんなじだ、とかね」
「………………………………」
女の子を意識していない彼は、普通に話している。
そして無駄に僕の特徴を捉えている。
……あれ、これ、もしかして。
「……お兄さん。 何か特技をお持ちで?」
「う、うん……人を見たら骨格まで分かる無駄な能力と、あと、一度見たものは何年かしないと忘れにくくって」
「おっふ」
そんなすごい能力持ちで、どうして君はそんなに君なんだろう。
「……ちなみに、大学は?」
「い、一応――――――――」
「うげ……国内トップのトップ学科じゃん……」
ああ。
僕は――才能ありすぎる若者を助けてしまったんだ。
たぶん、この世界に対してかなり役に立つだろう青年を。
それだけは誇って良いはずだ。
「……つまり?」
「うん……アキノちゃんが女の子漁ってて、あの子たち助けて、なのにあの子たちだけには手を出さないようにしてるっぽい。 ……そういう相談してる会議の場に呼ばれて、いろいろ証言とか推理とかさせられたんだ……だから、彼女たちとのデートの時間から推察して、もしかしてって思った今日のあのタイミングに、で、電話したんだけど……」
「うん、助かったよ……もう手遅れだけど間一髪で」
なんだ、全部ばれてーら。
もうどうにでもなーれ。
◆◆◆
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