59話 楽しいデート(死へのカウントダウン)3

「お、お姉さん……?」


「うん。 ブラックツリーちゃ――黒木ちゃんには、こういうのが合うと思ってね」


お昼を食べたあとに白鳥さんとばいばいして――最後まで「あとちょっと一緒に居ましょ……ね?」とかどんだけ素であざといことできるんだって血の涙を流しながら振り切って。


お化粧室でメイクと服を総取っ替えした僕。


それはちょうど、


「黒木ちゃん、お洒落してきてくれたんだ。 嬉しいな」

「ひゅいぃっ」


いつもぼさぼさの髪の毛は――たぶんお母さんか誰かにやってもらったんだろう、綺麗に整えられていて、だからこそ豊富な髪の毛が小顔を協調。


前髪こそいつも通りだけども、代替メガネさんがこの子のつぶらな瞳を映している。


ちょっと子供っぽいっていうか中学生女子みたいなファッションなのがまたぴったりで、シャツとスカートの色のバランスが絶妙にロリっ子。


――そんな彼女と、ほぼ色違いって感じのジャンガリアンハムスターが好き好む服装にしているのが、お昼からの僕だ。


「……お姉さん……そういう格好も、するんですね……」


「うん。 妹に借りたんだ」

「あ……そっか……銀藤さん……」


「似てる格好の方が気が楽、だもんね? 大丈夫、君によく似た妹が居るから、君が困るような服装は避けてきたんだ」


そうだ、僕にはジャンガリアンハムスターな妹(平穏な姿)っていう武器がある。


この子たちの前ではアキノちゃんやってるから完全には無理だけども、デフォルトで長い前髪をわざと目の上に垂らして視界を悪く。


エクステで伸ばした髪の毛も読書少女的なイメージを演出し、両手で持つ鞄には一応で本も詰めてきている。


見せて話すもよし、帰り際にプレゼントしてもよし、持ってきてるだろう本と交換会もよしとベストアイテムだね。


「……はい、安心しました。 なんだか、ぎ、銀藤さんみたいで……」

「あはは、僕も銀藤さんなんだけどね」

「はぅ」


こういう、普段は外出しないし外でのアクティビティーとか好きじゃなくって、静かに籠もっていたい系で話し下手な子を軽くからかうのってぞくぞくするよね。


だから僕はジャンガリアンハムスターたちが好きなんだ。


「じゃ、行こっか」

「は、はひぃ……ぴゃいっ!?」


ぎゅっ。


そっと手を握っただけなのに飛び上がってまでびびる、かわいいいきもの。


ああ……この子が食べちゃダメな小動物じゃなきゃ、このまま言いくるめて連れ込みたいよ。





「………………………………」

「………………………………」


カフェを併設している、大きな本屋。


お洒落グッズも置いているし、お洒落家電とかお洒落家具とかも置いてあって、人もそこそこ居る空間。


けど、こういうのって大きな町にしかないし、家の近くでもなければわざわざ行くってのはよっぽどのことがないと難しい。


特に、この子みたいなのにはね。


「映え」のために来るような子じゃないからね。

むしろそういう人たちをじとっと見るタイプだからね。


「………………………………」

「………………………………」


聞けば、やっぱり「電車とバスで1時間半かかるし、いつも人が多いし、あと、あと……疲れるから……」ってかわいい理由できたことがなかったらしい彼女。


来てからすぐに目を輝かせ、僕と来たことも忘れてとことこふらふらのこのこ動き始めたから、僕もそれとなく本を物色したり立ち読みしたりして付き添いみたいな感じに。


僕たちの服装も見た目も完全に溶け込んでいるし、そもそもここは基本的に会話はかなり少ない場所。


よって、ただお互いの気配を感じながらいろんな本棚とかディスプレイを見て回るだけ。


けど、こういうデートもまたいいよね。


本当に本が好きな子相手じゃないと、相手が1、2時間で退屈するものだし逆に僕の方がありがたいくらいだ。


だって、ここに誘うような子はだいたい好きな作品聞き出して語り合えば数回――下手すれば1回とか、もうそのへんの待ってるギャルたちよりさくさく落ちてくれるちょろいのばっかだし。


『最低だな』

『最低ッス』

『最低である』


いやいや、デートってのは女の子が楽しく過ごすことが1番なんだ。


それの餌に共通の趣味で盛り上げるってのは常套手段でしょ?

女の子を気持ちよくさせてあげたお返しなんだよ?


「ふへ……」


お、黒木さんがまた1冊抱えた。


すでに5冊を両手に抱え、それでもまだまだ先を求めてよろよろと動き出す。


「……これ、持つね」

「ふぇ、で、でも」


「僕、これでも筋力あるからさ」

「……ふぁい……」


さりげなく女の子のかよわさと男の力強さ――まぁ肉体は女だけど――をアピール。


特にこの子は普通の女子の半分くらいしか肉体の耐久度なさそうだし、基本的に全部持ってあげるくらいでちょうどいいんだ。


「じっくり品定めしたくなったらあっちのソファ行こうね」

「ふぁい……」


右にふらふら、左にふらふら。


でもおめめはらんらんと背表紙を追っかけている。


うんうん、いいよね。


こういう読書少女とのデートってのもさ。


白鳥さんとのデートでは3時間ぶっ通しでしゃべってたし、このあとの紅林さんとのは話速が速いからもっとしゃべることになるはず。


ここでお口を休めとかないとね。



◆◆◆



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