26話 進化しちゃった黒木さんと、見ていた赤髪の子

【ねぇ、このニュースなんだけど <URL>】


とある掲示板に、URLリンクが貼られる。


【何これ】

【うわ、ローカルニュースなのにコメント多くない?】

【え、待ってこれ】


【そ、これ、どう見てもアキノちゃんだよね?】


「……え」


深夜、布団の中。


仰向けになってスマホを目の前に、そして2時間くらい次々と流れてくる動画を観る習慣の彼女は――寝る前にいつもの掲示板を見て、固まる。


【「お手柄! 女子高校生、暴走自動車から同級生を守る!」】


「……何……これ」


彼女おそるおそるに、そのURLをタップ。


――すると彼女の別アプリに飛び、そして――。


【タイトルはフツーに煽り文句だけど、写真見てびっくりしたわ】

【マジこれ】

【アキノちゃん――高校だったの!?】

【え、でも、記事のどこ見てもさ、助けられたっぽい子と同じ制服とか着てなくない?】

【あ、ほんとだ】


【じゃあ違うガッコかぁ】

【まぁJK同士だし、同じ学校って記者が勘違いしたんでしょ】

【紛らわしー】

【特に名前とか出てないみたいだし】

【えー、うちの高校じゃなかったのー?】

【助けられた子の制服は――高校だよね】


ローカルニュースなのに主力記事並みのコメント数を叩き出しているせいか、ニュースアプリの上位にランクインしている、その記事。


そこには――事件現場に居合わせたであろう誰かがその場で撮ったらしい、歩道に乗り上げる車の真横で抱きしめている女子と、抱きしめられている女子生徒。


少しブレており、さらに遠くから撮ったらしく解像度は低いものの――。


「……え、黒木、ちゃん……?」


震えて湿った指でさらに写真をタップし、拡大する。


【わ、ほんとにアキノちゃんだ】

【ね! それっぽいよね!】

【えー、すごーい】

【ていうか交差点の反対側からダッシュとか書いてるんだけど】

【マジすご】


【え、じゃあさ、アキノちゃんがときどき言ってた、「前はときどき友達の試合とかに助っ人で入ったりしてた」って】


【わー! 疑ってたわけじゃないけどすごー!!】

【あ、アキノちゃんの動画、ものすごく回ってる】

【良かったぁ……アキノちゃん、あんま露出しない方だから】

【だよねー】

【そっか、さすがに普段はエクステつけてないもんね】


「………………………………」


眠気なんて吹き飛んだ彼女は――ベッドから体を起こし、小さな画面を穴が空くように見つめる。


赤いくせっ毛の乗るその瞳には――スマホのライトしか、浮かんでいない。


【学校とか言ってなかったけど、――県かその近くなんだ】

【えー意外】

【てっきり東京かって思ってたー】

【だよね】

【時間が夕方であんま見えないけど、この前<URL>で踊ってたときの服じゃない? これ】


「……そうよ。 それは、動きやすいし派手じゃないから普段使いにしてるって、アキノちゃん、言ってて……」


彼女のスクロールする指は、加速する。


【けどさ、見知らぬ女の子助けるとかアキノちゃんらしいよねー】

【女の子好きとか公言してるしさー】

【アキノちゃんになら抱かれてもいい  ううん、抱いて】

【この子、うらやましいなぁ】

【解像度低いから分からないけど、長い髪の毛でかわいい系だよねこの子?】


「……普段は分厚いメガネしてるよ、黒木ちゃんは」


【アキノちゃんに上に乗られて抱きしめられたーい!】

【ほんとにそれ】

【てかやけにみんなお上品じゃん?】


【うん、アキノちゃん、女の子のこと悪く言う女の子が嫌いってときどき言ってるから】

【あー】

【このコメント欄も見る可能性あるから気をつけてね】

【やっば、忘れてた】


「……なんで」


彼女は机に向かい――タブレットを点け、同じニュースアプリを開く。


【女の子助けて記事になるとか、アキノちゃん、次の動画で絶対ネタにするよね】

【またイケボでささやいてくれないかなぁ】

【アキノちゃんのイケボ、やばいんだよね】

【もう男子で良いよねあれ】


【あー! 私のところにも颯爽と現れて救ってくれるアキノちゃん、来てくれないかなぁ】


「……なにこれ」


彼女は、何千とあるコメントを追っていく。


「――なにこれ」


「――――なんで」


「――――――なにこれ」





「――えー、というような事故が昨日あったので、みんなも気をつけるように」


「くぁぁ……」


「………………………………」


先生の注意事項は長い。

から、聞き流すに限る。


けども……あー、眠。


黒木さんの大切なジャンガリアンハムスター属性を救った後、いろいろを店長さんと父さんに任せて家に帰らされてから爆睡して。


夜中に起きて体動かしてみて「あんな無茶しても首とか痛くならないのはさすが黄金の十代の体だなぁ」とか思って、のんびりお風呂入ったり夜食食べたり優雅に過ごした。


夕方に派手な運動してから忙しかったせいかがっつり寝て、おかげで結局朝まで眠れなくって今は眠いっていう学生にあるまじき状況。


まぁ授業は寝てても平気だけどさぁ……ああ眠い。


「………………………………」

「………………………………」


そういや黒木さん……あ、なぜか目が合った。


んで一瞬で逸らされた……悲しい。


けど、パージされておしゃかになったビン底メガネさんの代わりは……普通のメガネだ。


そう、ふつうの。

ビン底じゃない、球面だか非球面だかのどっちかの。


つまりは――彼女のつぶらな瞳もちいさなお鼻もはっきり見えちゃってる。


おかげで今朝はハムスターたちがめっちゃざわざわしてたっけ。

本人はイメチェンとかうまくごまかしてたけどさ。


ふーむ。


まん丸ででっかいビン底っていう奥ゆかしさの代わりに、今どきの良い形でレンズもそこまで歪んでない普通のメガネ。


……ありだね。


メガネっ娘としては問題なし。


髪の毛のぼさぼさ具合とかは僕が愛する印象通りだし、あれならハムスターのあいだで話題になる程度で済むかな。


……や、最近はクラスの男女構わず集まってくるからちょっとした騒ぎになるかもだけど。


うーん、これは他の子たちにもバレるのは時間の問題かなぁ。


「………………………………」


何か視線感じる気がするけど、HR中に真後ろ向く勇気はない。


どうせ気のせいだろうしどうでもいいや。


「………………………………」


けど、黒木さんって意外と柔らかかったなぁ。


や、柔らかいの種類的に子供の柔らかさって意味なんだけどね。


あの子を助けた後、立ち上がるまで1分くらい抱きしめたままだったから……こう、感触を満喫できてさ。


「………………………………………………………………」


うむうむ、良いことした。


惜しむらくは純粋過ぎるあの子を彼女とかにはできないってことだけど……まぁしょうがない。


女の子とは一期一会なんだ。


また次の長期休みになったらファンの子たちと適当に連絡取って、とりまでカラオケとか行けば良いでしょ。



◆◆◆



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