16話 黒木さんと白鳥さんがエントリー
「アキノちゃ……さん。 あたし、ほんとに何でも――――」
「もー、奈々ってば重すぎー」
「あぅっ」
こつん。
紅林さんの頭に軽いチョップがかまされている。
「そうだよ、アキノちゃんさん怖がってるじゃん」
「こわがってるっていうかドン引いてる感じー?」
「いや、初対面……じゃないらしいけど、それであの激重はヤバいでしょ」
「ヤバーい」
僕の前ではじけ飛びそうになった修羅場は、ギャルたちのおかげで回避されたらしい。
多分僕も助かった。
これが紅林さんとふたりきりじゃなくてほんとよかった。
ほんとに。
「奈々って第一印象怖いからねぇ」
「眼力あるよねー」
「あれよね、基本人見知りだから仲良くなるまでツンツンしてるのよね」
「あー」
「ちょっ、ちげーし!!」
ああ。
僕は助かった。
「んで憧れのアキノちゃんに会って、んでこの前マジで助けてもらったのとか……こう、ばーんって」
「重ーい女になっちゃってたねぇ」
ずずず、とアイスコーヒーをすする。
味なんか分からない。
ただただ、からっからになった口と喉を潤したいだけなんだ。
勢いで全部飲み切るくらいには喉が渇いてた。
「ふぅ……」
「あ、でも、さっきの感じ、マジで女の子イケるんですね?」
「確かにー」
「えっ」
助けてくれたはずのギャルたちが追撃してきた。
「あ、そーそー、今のアキノちゃん、中学で5股かけてたサッカー部の人みたいな反応してたしー」
「え、それめっちゃ聞きたーい」
「学校の中で刃物沙汰になったからねぇ……うちの出身なら全員知ってるんだけど……」
それは穏やかなカフェで、しかもたった今落ち着いたばっかの子のそばでしない方が良い話題なんじゃないかなーって。
僕はそう思うんだけど……どう?
「どうやらソイツ、手綱はしっかり引いてたっぽいんだけどねー。 それも中学3年間」
「すご」
「でも刃物でしょ?」
「卒業のタイミングで『そろそろ私たちの中の誰で誰を取るか決めて』ってなったらしいよ」
「あー」
「その日に決めさせようって女の子たちで決めてたってわけかー」
「こわー」
「そうそう、浮気どころじゃなくて5人満足させてたらしいし」
「え、すご」
「でもやっぱ自分を選んでもらいたいじゃん?」
「………………………………」
あの……紅林さんがこっち見てるんだけど……。
だ、大丈夫。
別に紅林さんが彼女になったわけでも何股かけてるわけでもないんだから。
高校では、まだそんなことしてないんだから。
「てか有名人だし、あんま時間取らせちゃうと悪いっしょ? ごめんね、アキノちゃんさん」
「わ、確かに! 収録とかありそー!」
「あ……うん」
やだ、このギャルたち、ほんと気遣いできるわ。
クラスで怖いとか思っててごめんね。
ケバいけど普通に良い子たちだったね。
「ほら奈々! お礼だけ言って今日はお暇しよ?」
「そうそう、重い女って覚えられちゃう前に」
「連呼してるじゃん! ……あ、えっと、アキノちゃ……さん」
がたがたと席を立ち、さりげなく紅林さんだけを置いて飲みものを片づけに行くギャルたち(善)。
ああ良かった。
刺されなくって。
いや、刺されるようなことはまだしてないけどさ。
「この前……マジで助かりました」
「気にしなくて良いよ。 たまたま通りがかっただけだから」
「お礼とか」
「これからも応援してくれるだけで良いよ。 コメントとか嬉しいし」
僕の直感がささやく。
「ここはあまり話させずにさっさと逃げろ」って。
うん、それが良い。
きっと良い。
「じゃ、今度からは気をつけてね」
「はい! ああいうとこには行きません!」
「そうそう、最近は治安も悪いしさ。 君みたいなかわいい子が目を付けられると……ってのはもう分かったでしょ?」
「あ、あぅ……」
「タラシだ」
「タラシね」
「アキノちゃんさん、女子のファンめっちゃ多いもんねぇ……ガチの」
「中身イケメンの美女ってまじそれ」
外野がうるさいけど助けてくれたから黙っとこ。
「それじゃ、僕は行くとこあるから」
「あ、う、嬉しかったです!!」
「うん。 僕も嬉し――――」
「――あら、銀藤さん?」
僕の名字を呼ぶ声。
反射的に振り向いて、反射で答える。
「え? あ、はい?」
そうして振り返った先。
今世の十数年で染みついた反射の末路。
そこには――なぜか制服姿の白鳥さんに、なんか微妙な服着てる黒木さん。
「あ、ごめんなさい、人違……え?」
「ぎ、銀藤……さん?」
え?
なんで君たちがここに居るの?
この感想、デジャブ?
「……アキノちゃんが、銀藤……ちゃん?」
あっ。
「あれ、どうなってんの?」
「うちのクラスの子たちよね?」
「聞こえないけど……修羅場?」
「5股……刃物沙汰……」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
……えっと。
……これ……どうしよ。
さっきみたいにギャルの子たちが、
「あ、うちら奈々の味方なんでー」
「なんでー」
「正直おもしろいし」
「店の外から見てますから刺されないでくださーい」
「さすがに刺されそうになったら止めますんでー」
……助けてくれなかった。
僕はもうダメだ。
◆◆◆
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