第5話
私は頭を掻いた。
「つまんない人生だって、俺は思うぞ。やっぱりスリルはあると人生楽しいぞ」
「それはそうだ。けど、なんかこう……。B区の奴らに殺されたら奥さんが可哀そうだし。仕事中だってやばい時あるだろ」
「それでも、結婚するから楽しいんじゃないか?」
田場さんが近くを通る。
「こら、私語は慎め。仕事中だろ。けど、スリルはいいな。俺も好きだぜ。奥さんには奮発してロケットランチャーを誕生日にプレゼントしたんだ。そしたら、喜んでくれて」
田場は35歳の妻帯者で、子供が三人。
がっしりしている体つきの赤いモヒカン頭。怒り出すとそのまま怖い顔になる顔だった。
「でしょー。田場さん。俺も子供欲しいな」
休憩時間は少し緊張してしまう。B区の奴らがほとんどだからだ。休憩所は肉の仕分け室の更に奥。食堂兼休憩所になっていて結構広いのだ。
「あいつがいたら、俺。キレるぞ」
島田が自販機から缶コーヒーを二本買い。私に一本渡した。
「ありがとう。ここにはいないさ。だって、見た時あるのか? そいつ?」
「ない……」
テーブルに着くと、私は早速コンビニ弁当を広げる。
「またコンビニ弁当か。お前が自炊しているとこ想像できないじゃないか」
「ああ。仕方ないさ」
向こうからB区の津田沼が、私たちを確認するとのこのこと歩いて来た。
私の隣に座ると、
「A区から来た人は大変だね。大金に縁がないけど大敵には縁があって……」
B区の奴だが、小太りでメガネをかけていてなかなかいい奴だ。多少俯き加減な性格の勤勉な顔立ちで、どことなく話しやすい。
「ああ。お前が総理大臣になればいいんじゃないのか?」
島田が愛妻弁当に一礼してから茶化す。
「なりたいんだけどねー。あ、この間の餃子まだ食べてないんだった」
津田沼のメガネがキラリと光る。
「まだなのか」
私が嘆く。不味いが独特の味だった近所のラーメンショップの餃子を、私が津田沼と島田に買ってやったのだ。結構いけるかも知れないのだ。
「あの餃子作った奴。天才じゃねぇ。不味くても食べたくなるんだからさ」
島田と私は食べていた。
「なあ津田沼。確か三年前からの大規模な都市開発って、今でもやってんの? うちの近くも変わるのか?」
島田が愛妻弁当片手に言い出した。何年か前から都市開発プロジェクトと称してB区を発展させたりしているようだ。
「ああ。夜ちゃん。島ちゃん。最近の都市開発プロジェクトの実体って知ってる? ただ単にA区とB区の治安の悪いのはそっちのけで、アンドロイド達にB区だけを急激に発展させているんだ」
津田沼は新聞が好きだった。たまに政治などの世間に起きている話を持ってくるのだ。
「ふーん、やっぱりな。ま、いいんじゃね。俺たちには関係ないようだし」
島田は世間で何が起きていようと生活が第一だったようだ。それもそのはず。A区にはあまり仕事がない。
「B区だけってわけか」
私も云話事町TVで昔放送されていたので、世間に何が起きているのかは少しは知っているのだが……私も生活面の方で頭が一杯だった。
「お、その自炊弁当なかなかの出来じゃねぇ?」
島田が津田沼の弁当を茶化した。見ると、いつもの日の丸弁当の脇に目玉焼きが顔を出していた。
「ふふ、お前、自炊は諦めて結婚したら?」
私の一言に、小太りの津田沼はメガネを持ち上げる。
「結婚かー。俺はこれはこれで好きなんだがなー。日の丸弁当は仕事へのやる気を醸し出し……目玉焼きは日の丸に似ているし……」
「まさか、結婚しても奥さんにそれ作らせるとか?」
島田が愛妻弁当のウインナーを箸で持ち、津田沼に突きだした。
「うーん? そうかも知れない」
「あはははっ、仕事一筋だな」
私はさずがに吹き出し、コンビニ弁当の残りを食べた。
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