第2話 はじまりはコンビニ
超高層ビルのオフィスから高速エレベーターで降りた。
エントランスで彼女の髪飾りに気付き手を振った。
停車してある車窓から彼女はにっこりと笑って、シボレーから降りて来た。資料片手にこちらに手を振る。道路を走るスポーツカーの群はまるで何かのレースのようだ。
「おはよう」
「おはよう。その手の資料は何?」
彼女は小さく微笑んで、「ちょっとね」と言い。私をこのビルの真向かいのコーヒーショップへと誘う。
丁度、横断歩道があるので、信号が青になったらまっすぐに店へと行ける。
途中、一人の女性とぶつかってしまった。「あ、すいません」と女性から、一方的に謝りの声が上がった。私は、そんなことよりも、その女性のチャーミングなほくろに目が行った。女性はいそいそと横断歩道を歩き去ってしまった。
その時に私は、何気にチャーミングなほくろが脳裏に焼き付いてしまっていた。
ーーーー
私は何度か彼女に誘われていた。
「コーヒー飲みながら話しましょ」
彼女と私の関係はどっちかというと、友達だった。彼女にはボーイフレンドが五本の指では足らないほどいるのだ。その中の私はただ単に話やすい人であった。
「昨日は御免なさいね。私おっちょこちょいで……」
「いや……いいさ。でも、そのせいで俺が上司に怒られるだけさ」
私はそう言うと、ロレックスで時間を見てみる。午前の10時だ。
彼女の仕事でのちょっとしたミスを、私がもみ消すのはこれが初めてではない。
店内に入ると、彼女が席に着いてから口を開く。
「あの、それで話したいことがあるの。ねえ、聞いてくれるでしょ」
コーヒーショップは人が疎らである。コーヒーの香りだけでもゆったりとできる空間に、彼女の醸し出す雰囲気は微妙にそぐわなくなってきた。
「また。もみ消して……今度のはちょっと大きいけど」
歯切れの悪い言い方で彼女の口から音が漏れる。
けれども、私はまたかとは思わない。
しょうがないなと思う。
私は素材のいい背広のポケットから手を引張り出し、両手を揉んだ。
「解った。いったい……どんなことをしたんだ?」
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