第10話 不自由を願い(5)

 クリスマス戦線が終わったのは一月に入ってからだった。

 目標は達成したから良かったのだが、一月ということはお正月、二月にはバレンタイン、三月にはホワイトデーとイベントは続いていく。つまり暇になることはない。

 さらにバイヤーの私としては新しい取引先の開拓を行いたいタイミング。特にバレンタインは世界中のチョコ職人が技を振るう機会だ。めぐりたいところはたくさんある。だから次の修羅場に向けて気合を入れ直していたら、マネージャーから声をかけられた。


「市村さん、イタリア語は話せましたか?」

「イタリアには行ったこともないです」

「そっか。現地に知り合いもいない?」


 一瞬考えて、すぐ首をふる。


「……いないですね。どんな仕事ですか?」

「大きめのチョコレートコンペティションがあって、たまたま招待チケットが一枚手に入ったんですよ。先方がヨーロッパチョコレート担当がいいって言っていて、そうすると市村さんでしょう? でもイタリア語わからないと厳しいかな……」

「行きます! イタリア行きたいです!」


 答えてから、自分でもハッとした。


(私、行きたいんだ、イタリア……)


 私はマネージャーにもう一度「行かせてください」と頼んだ。

 それからあれよあれと話が進み、二月の頭に私はイタリアに飛んでいた。が、降り立った瞬間、あまりの寒さに私はとんぼ返りしたくなった。


「絶対に今年一番の寒波よ、これ……もう、寒波を呼ぶ女な訳、私……?」


 これが初めてのイタリア滞在の始まりだった。

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