プールとマカロン
星咲 紗和(ほしざき さわ)
前編:プールの静寂
澄み渡る青い空の下、透き通る水が静かに揺れる誰もいないプール。彼女たちは二人だけで、浮き輪に身を預けながら、ゆったりと水面を漂っていた。
水面に映る太陽の光がキラキラと揺れ、二人の肌に小さな光の斑点を描き出す。水の音だけが響く空間は、不思議と二人の心を落ち着かせ、言葉すらも不要にしてしまう。視線を交わすと、それぞれの中にある微かな緊張と期待が伝わるようだったが、どちらも言葉にすることはなかった。
「…静かだね」と、彼女の一人が小さな声で言った。
「うん、まるで時間が止まってるみたい」と、もう一人が返す。
ほんの少しの沈黙が訪れるたび、二人の間に流れる空気はさらに重なっていく。ふと、片方が水中に手を伸ばし、軽く指先を揺らすと、小さな波紋が水面に広がった。その波紋が、ゆっくりと二人の間を漂い、二人を繋ぐ見えない線のように感じられた。
「今、何考えてた?」
「うーん、ちょっとだけ…マカロンが食べたくなってたかも」
彼女は照れくさそうに笑った。それを聞いたもう一人も、笑みを浮かべながら浮き輪の上で少し体を揺らした。二人は小さな笑い声を漏らしながら、お互いの距離がゆっくりと近づくのを感じる。
水に浸る彼女たちの間に漂う甘い予感と、互いの存在を少しずつ確かめるような沈黙。静かなプールの中、ただ二人だけが知る秘密のひとときが、ゆっくりと深まっていった。
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