第29話 明かされる魔王の存在

「えっと、私……魔王なんだけど」


 ポンと黒い魔力の結晶体を出していく。


 ……あれ?無反応⁉

 だから何?って顔をみんなしてるんですけど⁉


「リーシャだしなあ、特に驚かねえよ」


 ボリス?肩を竦めてるけど、なんで私だと驚かないんだよ。


「フッ、私の知識から外れた存在、魔王なら納得です」


 フェリクス?知識から外れた存在って何?


「つーか、魔獣と話したりする時点で察してたぞ」


 ユリウス?マジで?そんなにわかりやすく変だった?


「魔王と言われても、王でないのに魔王って呼ぶべきなんでしょうか?」


 ニコライ?疑問に思うところそこ⁉


「わたくしはリーシャさんの肩書に興味ありませんわ。

 魔王なんてどうでもよろしいですわ」


 ソフィア?いや、そこはどうでもよくなくない?


「う〜ん、リーシャさあ、逃げてるでしょ?

 自分は魔王なんだからって」


 カリーナ?……マジか。そう思われるのか。


「リーシャ殿、それがしもアンゼリカ様もリーシャ殿に幸せになってもらいたいのです。

 でないと、それがしがアンゼリカ様に殺され……

 もとい、また次の人生をリーシャ殿は送ることになってしまうのを危惧してるのでございます」


 変態?今ちょっと、本音が漏れなかったか?


「僕としては不本意だが、この中からリーシャが誰を選ぶか興味はある。

 あとは君の答えを聞こうではないか」


 イワン?それって、自分を選ばなかったら命狙います宣言だよね?


 包囲している変態の部下のメイド部隊も、早く選べって感じで私を見てるし〜。


 なんだこれ?どうすればいいんだよ〜。 


「ちょっ⁉ちょっと待って!

 へん……爺やさん!

 まだ質問の答えを貰ってません!

 アンゼリカちゃんに協力している理由を教えてください!

 魔王を復活させて、あなたにどういうメリットがあるんですか⁉」


 疑問を放置して答えなんか出せるかと、変態に突っかかっていく。


「リーシャ殿、それがしはアンゼリカ様に知識を頂き、王としてレフレリア王国を平和な国へと導いたのです。

 その恩義に報い、いずれ現れるであろう魔王の転生体を復活させるお手伝いを約束したのです。

 ただ、それだけでございます」


 メイド部隊が淹れ直したお茶を啜っていく変態。


 ふうん?ということはこの変態、私のことを端から魔王だと知っていて接触していたってことか。


 ただ、ちょっと待てよ?


「……勇者については、アンゼリカちゃんから何か言われていたんですか?」


 ここまでのみんなとの会話で、誰も口にしない言葉がある。


 魔王が私。

 なら勇者は誰?


 そんな疑問を誰もが口にしないのだ。


 イワン以外は勇者が転生を繰り返していて、今も魔王の命を狙っているなんて情報を持ってないから当然かもしれない。


 けれど、変態は違う。


 アンゼリカちゃんの意識とリンクしているなら、全てを知っている可能性が高い。


 私の前世が岩下真帆で勇者に殺され、今世も勇者にファーストキスを狙われてることを。


「勇者ですか。誰かもうわかったのですよね?

 と、アンゼリカ様は仰られております」


 変態はクッキーを頬張りながら淡々と口にする。


 ……その言い方、アンゼリカちゃんらしいよ。


「お祖父様……いや、アンゼリカ。

 リーシャが誰か1人を選択し、幸せに生きてほしいと願っての行動のように語っているが、真実を語るんだな。

 ……魔王や勇者が、再びこの世界に転生するように仕向け、僕たちが転生として現れる何十年も前から我が祖父に仕込みをしていた事実。

 前世で別の世界に飛ばしたのも、時間軸を弄ってるのもアンゼリカ……君の仕業だな」


 ん?イワンがなんか、さらっと核心に迫る話をした気がするぞ?


「イワン!それって⁉」


「リーシャ、考えてもみたまえ。

 リーシャが魔王として復活し、誰が得をするのかを」

「……イワン?」

「そうだね。僕もそうだろう。

 君を2度と魔王として復活しないようにする得が僕にはある。

 けれど、それは僕の心の中だけが完結する得だ」


 私をファーストキスしたあとに捨てて、やけになった私を倒すのがイワンだけの得ねえ。


 ん?ちょっと待て。

 そういえばアンゼリカちゃんの目的って……


「……天地創造の神々を屠ること」


 そう、私が口にした瞬間。


「クスッ、その通りです。魔王様。そのための下地は整ってございます。

 と、アンゼリカ様は仰られてます」


 立ち上がって私に恭しく礼をする変態。


 神々を倒すという壮大な計画に、私の頭に混乱の渦が巻き込まれていく。

 魔王としての力を取り戻し、世界の運命を変える。

 その重圧に押しつぶされそうになる一方で、どこか期待感も感じていた。

 これが私の本当の使命だったのだろうか?


「バカな!狂っている!

 そんなことができるはずがない!」


 イワンの叫びに、みんながキョトンとする中……アンゼリカちゃんの言葉を変態が代弁していく。


「さあ、魔王様。

 生涯を共に歩むパートナーをお選びください。

 その時、全てを思い出すでしょう」


 アンゼリカちゃんの言葉が、変態の口を通して響く。


 私は混乱し、恐怖と期待が入り混じった感情に襲われる。


「人間たちと一丸となり、神々を葬り去り、この世界を大地に立つ者たちに還すのです」


 その言葉に、部屋の空気が一瞬で凍りつく。


 みんなの視線が私に集中する。

 この選択が、単なる恋愛の話ではなく、世界の運命を決めるものだと、全員が理解したようだった。

 時が止まったかのような静寂の中、私は決断を下す選択を迫られた。


 イワンの表情には焦りと決意が混在していた。

 ボリスやフェリクス、ユリウス、ニコライは状況を理解しようと必死だ。

 ソフィアとカリーナは、私を心配そうに見つめている。


 みんなの反応を見て、私は改めて自分の選択の重さを感じるけど……


 私の頭の中はまだ混乱の渦だ。

 魔王として復活し、神々と戦う?

 そんな重大な選択を、今この場でしなければならないの?


『神々は人間を玩具のように扱ってきました。

 その支配から解放されれば、真の自由を手に入れられるのです』


 アンゼリカちゃんの言葉が、再び変態を通して響いた。


 無機質で無感情で、それこそが生きている使命かのように。


 私は深呼吸をし、周りを見回す。

 イワン、ボリス、フェリクス、ユリウス、ニコライ、ソフィア、カリーナ……そして変態にメイド部隊たち。

 この中から、誰を選べばいいのだろうか。

 そして、その選択が世界の運命を左右するのだろうか?


 まさかのラスボスがアンゼリカちゃんに、私は言いようのない悲しみの感情が溢れていく。


 私の選択が世界を変える。

 その重圧は想像を超えるものだった。

 でも、逃げるわけにはいかない。

 私には、みんなを守る責任がある。


 ……そう思うと、不思議と心が落ち着いてきた。

 

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