第27話 リーシャvs勇者

 私の魔王時代までの所有物だったという、リングに願う。


(魔王だったのなら、この状況を打破する魔法を使用せよ!

 私を3度も殺させるなああああああ)


 記憶になくても、魔法が使用できると魂が教えてくれる。


 なら、できるかできないじゃない!

 やれ!私!

 これ以上、イワンに、勇者に、恵に、罪を重ねさせるなあああああ。


「な⁉」


 私の身体が眩い光に包まれ、驚愕するイワンの声。


 私の魔法が発動する。


 わかる、これは召喚魔法だ。


 私の今の状況を覆せるに足る、最適な助っ人を呼ぶ魔法が放たれたのだ!


 私から発光された光が、私とイワンの間に収束していく。


 光は、人の形へと変え、私の召喚魔法による助っ人が現れたのであった!


 …………ん?


「…………いやん」


 ブラジャーとパンティー姿の爺やさんが、現れた。


 ……あのさあ、真面目なシーンでどういうことだよこれ⁉


「……我が力で元の場所へ戻れ」


 イワンの脱力感たっぷりの呟き。

 でも行使されたのは間違いなく魔法。


「ちょっ⁉イワンにリーシャ殿!説明を求めますぞおおおおおおおお」


 その声を残し、イワンから放たれた光に包まれ、爺やさんは消えた。


 つっかえなかったよ。

 クソジジイ。


「やれやれ、祖父には困ったものだ。

 余生に文句を言うつもりはないが、もう少し威厳を持ってもらいたいものだ」


 爺やさんが先王で、イワンの祖父であるのは間違いないのか。


 半信半疑だったが、あれは本当に先王だったんかい。


「魔法を使用したけど、リングを回収したからできたのかな?

 それとも、リングの回収前からできたのかな?」


 爺やさんの登場余波で、イワンと間合いはできた。

 しかも毒の効果も消えた。

 これは魔法を使ったからかな?


 ファーストキスを奪われてなるものかと、気合を入れつつ、イワンへ質問した。


「……もう少し毒を盛るべきだったか。

 リーシャもリングを回収したことによって、魔力量が増大したってところか」

「あんまり実感ないけどね。

 その口ぶり、イワンも同じってことね。

 みんなでテスト勉強した時の変な問題追加したのは、どういう意図があったの?

 ひょっとして、他のみんなを試したのかな?

 ……私を本当に好きかどうかって。

 他に魔法を使用できる人がいないかどうかって」


 ずっと気になっていた。


 あのテスト勉強の時の意図はなんだったのだろう、と。


 イワンの頬がピクンと動いた。


「イワンが恵だと知って、疑問に思ったのが2つ。

 1つはどうして私に近づいてから入学式までファーストキスを狙おうとしなかったのか。

 もう1つがテスト勉強。

 どうしてあんなことをしたのか。

 ……その理由は、イワンを邪魔する何かが存在した。

 もしかしたら、みんなが魔法で操られて私を好きだと言ってるかもって疑ったんじゃない?

 なら、それは誰だってね」


 そこまで一気に言ってから、私も落ち込む。


「誰かの魔法で、みんなが心を操られていたらどうしよう」


 もしそうだとしたら、みんなの青春を歪めたことになる。

 それが1番、嫌な気分になってしまう。


「フッフッフ、リーシャらしいね。

 そう考えるなんて……心底腹立たしい」


 イワンは、最初笑っていたが、途中から低くて憎々しげな声へと変わっていった。


「安心したまえ、リーシャ。

 みんなが君を好きなのは本当さ。

 だから自らの価値を貶め、みんなの気持ちを蔑ろにする発言は許すことはできないな」


 あれ?

 ガチ説教っていうか、言われた内容は、まるで私が悪人そのものじゃね?


「いいかい?リーシャ。

 君はモテてるのさ。

 リーシャの今も……岩下真帆も……魔王だった頃もな!」


 イワンの手から光球が私めがけて放たれた!


「ちょっ!ええい!防御!」


 光球は、私が両手を伸ばしたら出た黒い膜によって消滅した。


 できた!なんとなく魔法の使い方がわかってきたぞ。


「君はいつだってそうだった!

 君が地上を救うと言って出ていったあの日から、僕の心は乱れたままだ!

 魔王と呼ばせながら善政を敷いて、悪評を残されようが、平和へと続く未来をこの地に残した!

 だが!君はそれで幸せになれたのか⁉

 何故、転生を繰り返す呪いを自らにかけたんだ」


 連弾される光球。

 防ぐのに精一杯だけど、イワンが言い続けた言葉に動揺しながらも反論する。


「ちょっと待って!魔王の記憶なんてないし!

 大体なんでそれで、イワンが……勇者が……私に付き合って転生繰り返してんのよ!」


 降り注ぐ光球が止まった。


 イワンが呆然としている。


 あれ?私なんか変なこと言っちゃった⁉


「それはそれがしが説明しましょう」


 シュタッと扉が開いてもいないのに現れる変態。


 じゃなかった、公爵令嬢ソフィアの爺やにして、イワンとソフィアの祖父にしてレフレリア王国の先王。

 そんな、わけのわからない存在が、ピシッと執事服を着込んで現れやがった。


「すべての真実を明かす時が来たようですな」


「爺やさん……あなたは一体⁉」


「お祖父様……まさかあなたは⁉

 はっ⁉この部屋は僕の魔法で扉は開かないはず!」


 驚く私とイワン。


 さらに……


 扉が開き、無表情無感情のメイドさんたちが入ってきて部屋の中で整列していく。


「メイド部隊か。

 お祖父様が組織した謎の部隊。

 まだ権限はお祖父様が持っているようですね」


 イワンの頬から1滴の汗が流れ落ちた。


 そこへみんなも……


「何がどうなってる!リーシャ!王子!無事か⁉」


 ボリスが、大声出しながらやってきて。


「この状況は?

 ……どうやら恋のクライマックスではなさそうですね」


 メガネをクイッとさせて、フェリクスが呟いて。


「一体何がどうなってやがる!

 先王様!一大事ってなんだよ!」


 ユリウスが、イワンの光球を私が弾いてグチャグチャになっている部屋を見て叫び。


「敵の姿は見えません。

 ですがこの惨状は……」


 ニコライが、私とイワンに説明を求める視線を送ってくる。


「あらあら、殿下。

 わたくしのリーシャさんを笑顔にしてなかったようですわね。

 これはリーシャさん争奪戦から撤退でよろしいのでは?」


 ソフィアが、腕を組みながら堂々と姿を現して。


「う〜ん、私がここにいていいのかな?

 やっほーリーシャ、どんな感じ〜」


 カリーナがいつものように軽い感じで姿を見せた。


「みんな!どうしてここに?」


 みんなが現れたのは私にとって僥倖なのか?

 それとも前前世が魔王だと暴かれて終わる奇禍か?


 次々とみんなが現れて、状況が複雑化していく。

 私の前前世が魔王だったと知られていることで、みんなの本当の目的は一体何なのかも明らかになるのだろうか。

 不安と恐怖が、私の心を強く締め付けていった


「昔むかし、魔王と勇者がおりましてな……」


 誰もが説明を求める中、爺やさんの重厚な声が部屋に響き渡った。


 全てを明かそうとする爺やさん。

 年月を経た経験と知識が凝縮された言葉は、聞く者の心に重みをもって響き渡る。

 

 いよいよ真相が明らかになるのだろうか。

 歴史に埋もれた秘密が明かされたら、私の未来はどうなるのだろう?


 期待よりも不安が、私を包んでいた。

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