第26話 ファーストキスの危機!

「まずは何から話そうか?」


 イワンの……上沢恵の岩下真帆殺害事件の告白が始まる。


「……その前に、イワンは男だよね? もしかして男装女子だったとか? それとも恵が女装男子だったとか?」


「そこ、気にするのかい?」


「いや、重要でしょ! どっちでも驚愕しちゃうから早めに知りたいの!」


 恵が男子だったら日本での女子高生生活の想い出が変わっていくし、イワンが女子だったらリーシャとしての想い出がめっちゃ変わっていくんだぞ。


「はっはっは、真帆は真帆だなあ。疑問に思ったことは何でも口にしちゃう。……安心してくれ。恵は女だったし、イワンの今は男だよ」


「……教えてくれてサンキュー。じゃあその勢いで前世の私を殺した理由を教えてくれるかな?」


 席から立っている私だったが、イワンは座るように促してきた。


「紅茶も菓子も毒は入ってないから安心してくれたまえ。真帆はこの味が好きだっただろ?」


「……ま、信じてあげる」


 菓子も紅茶も美味しかったし、これからラストバトルが始まるのだ。

 お腹をすかせていたら全力を出せないしね。


「それじゃ、前世の私を殺した理由から説明して」


 私がそう言うと、イワンは紅茶と菓子を口にしてから語りだした。


「僕が恵で、リーシャが真帆だった高校生活は楽しかったね。この時間が永遠に続けばいいと思ってたよ」


「だったら!……続ければよかったじゃない」


 思わずテーブルを叩きつける。


「それは夢だよ。現実は違う。平凡にしか見えない真帆だったけど、知れば知るほど非凡なのは接してわかった。知ってたかい? 僕が君を殺した日、学校では君に告白しようとした男子がいたんだよ」


「誰?」


 キョトンとする。

 そんな人いたっけって。


「フフフ、その反応、真帆らしいね。残念だけど教えてやらないさ」


「なんでよ。気になるじゃん」


 私は、真帆だった私が恵に問いかけるような気軽さで呟いた。


 でも、イワンの表情は見る見る険しくなっていく。


「わからないかい? 僕が嫉妬したからだよ」


 イワンは吐き捨てるように言った。

 ……嫉妬? 私に告白しようとした男子に?

 なんで?


「真帆は……リーシャは僕の物さ。前世で同性だったけど魔王だった前前世を思い出さない君を、ゆっくり恵の恋人にしていこうと思ってたんだ。でも、違った! 君は異性とファーストキスをして、そのままラブラブな関係になってしまう! ……そんなの僕は許さない。リーシャは僕だけの物だ!」


 イワンが叫ぶ。


 そっか、それが理由か……


 前前世も思い出していない私だからか?

 どう反応したらいいのかわからなくて俯いてしまう。


 ううん、駄目だ。


 嫉妬で人を殺すなんて間違っていると怒るべきだ。


「恵の……いや、イワンの気持ちはわかった。だから、はっきり言う。岩下真帆を殺した上沢恵を私は許さない」


 私の言葉にイワンが息を呑む気配がした。


 でも、ここでひるむわけにはいかない。


 この対決をしなければ前に進めないのだから。

 私は、前を向いてイワンの目を見てはっきりと次の言葉を告げようとした。


 ……あれ? なんか視界がぼやけてきたぞ?

 身体も言うことを効かず、呂律も回らなくなってきた。


 これってまさか‼


「効いただろ? この紅茶と茶菓子には毒を仕込ませてもらったよ」


 イワンの顔が冷酷に歪んだ。


 そ、そんな……ここまでなのか私⁉


 私は必死に抵抗しようとするも身体が動かない。


 毒だとわかった瞬間、恐怖と共に自分の判断ミスへの後悔が押し寄せてきた。

 信じてしまった自分が愚かだったと思う一方で、親友だった恵への最後の信頼も崩れ去っていく。


 イワンの目には狂気と悲しみが混在していた。

 まるで自分の行動を正当化しようとしているかのように、彼は言葉を続けた。


「これは僕たちの運命なんだ。君を手に入れるためなら、何度でも殺す覚悟はある」


 毒が効いて身体が動かなくなっていく中、恐怖と絶望が私の心を支配していった。

 しかし同時に親友を殺して、そして私を何度も殺そうとする恵への憤りが募っていった。

 過去の恨みではなく、現在の行為に対する怒りが爆発する。

 この狂気じみた行動を絶対に許すことはできない。

 生き延びる、そして全ての真相を明らかにする。

 そう決意した私は最後の力を振り絞ろうと気合を入れていく。


 この光景……どこかで……⁉


「じゃあ、唇を奪わせてもらうよ。ファーストキスを、前世と前前世で君を殺した僕が奪う。幸せになれないと知った君が、どんな顔をして魔王と復活するのか楽しみだよ」


 そう言って、イワンの顔が私に近づいてくる。


 もう打つ手はない。

 いや、ある!

 思い出せ私‼


 ……あれだ!


 王宮の豪華な部屋で、私たちの運命が決まろうとしている。

 外では何も知らない人々が日常を過ごしているというのに、ここでは世界の命運がかかった戦いが始まろうとしていた。


 私は一縷の望みを賭け、ある魔法を行使するのであった。

 

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