第23話 判明!勇者の前世
はっ⁉3度目の知ってる真っ白い空間だ。
と、いうことは?
「リーシャ様」
「アンゼリカちゃん!」
可愛いアンゼリカちゃんの姿を見たら、抱きつかないのは失礼なのだ。
ヒシっと抱きついて離さない。
「そろそろ、お話よろしいでしょうか?」
「う〜ん、このままで」
私はアンゼリカちゃん成分を満喫するのであった。
「では、このままでお話します。
まずはエンジェルリングの回収、おめでとうございます」
「エンジェルリング?
歴史博物館から消えた……ていうか1つは私の身体に吸い込まれたんだけど、それのこと?」
監視カメラのない異世界で良かった。
あったら、即拘束されてただろうなあ。
「はい。そのリングは神々の証でございます。
2つ同時でないと、取り出せない封印をされていました。
それを、勇者の思惑だろうがなんだろうが、リーシャ様も無事に回収したのです。
痛み分けというやつですね」
「ちょっと待って!
……それってニコライが、もう1つのリングを回収したってこと?
勇者はニコライ⁉」
「まだそこまではわかりません。
あの場には、ニコライという方以外にも、靄がかかった人物がいました。
私の今の立場では、リーシャ様の御学友の誰かぐらいしか判別できないのです。
申し訳ございません」
「謝らなくていいよ〜。
……そう……なんだ、あの時にニコライ以外の誰かもいたんだね。
その情報だけでもありがたいかな」
くうううう、監視カメラがある世界だったら、映像確認して誰だか判明できたのにいいいいいいい。
「ありがとう、アンゼリカちゃん!
魔王の頃とか約束はまだ思いだせないけど、絶対アンゼリカちゃんを、ここから連れて帰れるようにするから待っててね!」
アンゼリカちゃんの両手に私の両手を被せていく。
「それはそうとリーシャ様」
私の歓びに、まさかのノーリアクション⁉
うう……アンゼリカちゃんはクールだなあ。
そこがまた可愛いんだけど。
「エンジェルリングを取り戻して、変化は生じましたか?
魔力は飛躍的に膨れ上がったのは、わかるのですが」
私を見上げるアンゼリカちゃん。
私はわかんないけど、なんかオーラとか出てんのかな?
魔力か〜。アンゼリカちゃんのように凄い魔法使えたりするのかな?
「今のリーシャ様でしたら、岩下真帆だった人生の最期のシーンを鮮明に思い出せるかもしれません」
「え⁉マジで?」
それはつまり、前世で勇者だったのが誰かがわかるってこと?
「ただ、お勧めはしません。
死ぬ時の記憶を思いだすのですから」
「うん……痛い、熱い、寒いって思ったのは今でも覚えてるよ。
死ぬんだっていう恐怖とか、嫌だ死にたくないって絶望とか、全部覚えてるよ。
……ただ、私を殺した人物が誰なのかがわかれば、今世での勇者は誰かってのがわかるかも。
ほら、私も前世と見た目そっくりだし、勇者もそうかもしれないからさ」
正直、ちょっと怖い。
通学の電車内で、通り魔的に前世の勇者は私を刺し殺したのだ。
血溜まりの中で息絶え、瞳の色が失われる自分。
あの時の感覚なんて、2度と味わいたくない。
「私も力を貸しましょう。
私の両手に手を重ねながら目を瞑って念じてください。
殺される時の光景の記憶を甦らせよ、と」
アンゼリカちゃんに言われた通り、私は目を瞑って念じていく。
***
ガタンゴトンと揺れる電車。
満員電車の中、ドア横が空いたラッキーと移動して、スマホを覗いている私。
親友と、ラインでいつもの会話をしていただけ。
(今日は体育あるんだ。嫌だなあ)
とか。
(昨日のアニメの感想はこれこれこれで〜)
とか。
(今日は部活ないんでしょ?帰りにどっか寄ってこ)
とか。
(は?狐結婚するの⁉嘘だ〜)
とか。
いつも通りの日常にほんのちょっとの驚き。
降りる駅が近づき、ドア横から扉側に振り向いていく。
電車のスピードが緩まり、そろそろ止まろうとした時だった。
……背中に、激痛が走って、熱いと感じて、身体に力を入れられなくなって倒れる私。
他の乗客の悲鳴が耳に入ったのも、ほんの一瞬だけ。
死の恐怖も、そして意識も徐々に失われていく。
すぐに何も聞こえなくなる私だったけど、これは人が死ぬ前の本能なのだろうか?
私の瞳は、上を向いた。
⁉
嘘……そんな……
最期の瞬間に、私は見たのだった。
返り血を浴びた親友の姿を。
***
「うっ……」
アンゼリカちゃんと2人っきりの真っ白い空間に戻り、蹲って吐き出しそうになる。
「リーシャ様!」
「……大丈夫。
ちょっと……いや、かなり驚いただけ」
「……岩下真帆だったリーシャ様が死亡直後、犯人らしき黒い影は覚えていると仰られてました。
その黒い影がクリアになりました。
リーシャ様の前世を殺した勇者の転生体は、その人物で間違いないでしょう。
……同じ制服でしたね。お知り合いでしたか?」
そう、私と同じ、紺のブレザーに黒のスカートの制服姿。
「……私の親友だった子。
高校から一緒で、いつも私の隣にいた子」
信じられない。でも間違いない。
岩下真帆が死ぬ前に見た人物は、その親友だった子であった。
「……名前は上沢恵。なんで……なんで‼」
いつも一緒にふざけて笑いあって、アニメや芸人やアイドルの話をしていたのに!
……勇者とか魔王とか知んないけど、唐突に殺す前に、なんで私に全てを打ち明けてくれなかったんだよ!
親友に自分を殺された記憶を思い出し、私は言葉も出ないほどの動揺に襲われた。
なぜ私を殺したのか、その理由が理解できない。
親しかった相手に裏切られた痛みが、私の心を蝕んでいく
「リーシャ様……」
心配しているアンゼリカちゃんを、不安にさせちゃいけないよね……
「うん、衝撃だったけど、頭は回ってる。
もう……大丈夫。
これって、勇者は女子だったってことでいいんだよね?」
私だってずっと3度の人生、性別はずっと同じだもんね。
そうなると今世のリーシャを狙う容疑者は、ソフィアかカリーナに絞られたことになる。
……どっちが敵だったとしてもダメージでかすぎるよ。
「……それはわかりません。
そもそも生まれ変わりで性別は選べないと思いますよ?
先ほどの上沢恵なる人物の容姿は黒髪ですし、リーシャ様の近くに、似た容姿はいないのですから」
「マジで?性別選べないの?
……たしかに容姿は、みんなの中に恵にそっくりな人はいないかな?」
「ですが性格は変えられないはずです。
リーシャ様が魔王様時代も、岩下真帆時代も同じだったように」
「……なんか、納得なような釈然としないような?」
「上沢恵と親しかったのでしたら、わかると思います。
今の勇者が誰なのかを。
……名残惜しいですが、そろそろお時間のようです。
健闘をお祈りいたします、リーシャ様」
白い空間が歪み始める。
と同時に、私の意識も徐々に現実へと引き戻されていく。
うん、ありがとう。アンゼリカちゃん。
私は上沢恵を許すことはできない。
前世で私を裏切り殺害した仇を、必ず討ち取るのだ。
勇者の正体を暴き、再び私を狙ってくるなら、今度こそ私が討ち果たしてみせる。
絶対に勇者を見つけて、よくも親友の私を殺したなああああああああってボコボコにするから。
ここで見ていてね、アンゼリカちゃん。
勇者の正体を明らかにし、必ず復讐を果たすから。
リーシャ・リンベルの未来を歩み、他の人たちの未来に私がいるように。
私の意識は、アンゼリカちゃん空間から現実へと戻されるのであった。
***
『岩下真帆殺害事件
犯人
上沢恵
年齢 16歳 高校1年生
容姿 黒髪 ショートヘア 貧乳
身分 女子高生
能力 学校成績は学年1位 運動神経も抜群
性格 優しくて人当たりも良し
人生 親友を殺害後に自殺
目的 魔王を転生させず滅ぼすこと(本当かは不明)』
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