第18話 デート フェリクスの場合
「今日は私ですね。
私はデート中に倒れるヘマはしませんので、御安心を」
メガネをクイッとさせて、自信ありげにフェリクスが言ってくる。
「まあ、室内だし熱中症の心配はないよね」
ここは王都で1番大きい図書館だ。
前世の日本だと冷房が効いていて寒いぐらいだったけど、こっちの世界では建物の中で日が当たらないってぐらいで、ぶっちゃけ暑いっちゃ暑い。
でも氷や冷たい飲み物を販売していたり、熱中症になる心配はなさそうだ。
古い本の香りが漂う図書館内は、静寂に包まれていた。
本棚の間から漏れる薄暗い光が、まるで秘密の世界に迷い込んだかのような雰囲気を醸し出している。
天井まで届きそうな本棚が整然と並び、その間を縫うように細い光が差し込んでいる。
しかし、その静けさの中にも、知識を求める人々の熱気が感じられた。
さて、フェリクスは本に詳しい。
例のテスト勉強で架空の問題を追加して、みんなに答えさせるなんて方法を考えるのは、フェリクスである可能性が1番高い気がしてる。
今回も慎重に、フェリクスが魔法の使用者にして、私を狙う勇者かどうか見極めないとね。
「読みたい本、知りたいことがあれば何でも私に聞いてください」
「ありがとう、フェリクス。
じゃあ、魔王と勇者に関する書籍があれば読みたいかな?」
まったく記憶してないけど、私の前前世だという魔王。
チラチラ聞く伝承だと、この世界に存在した魔王が私であった可能性が高い。
それと、魔王が勇者に倒されて人類から魔法が失われた理由も知りたいと思ってたのだ。
「魔王と勇者ですか?
あまり書籍はないのですが……」
「そうなの?」
マジか。これはアレか?魔王時代がタブーされて隠蔽されてるオチか?
「フッ、大丈夫ですよリーシャ・リンベル。
この私に不可能はありません」
そう言ったフェリクスの姿が本の間に溶け込んでいくのを見ていると、この場所が彼の第二の家のように思えた。
案外早く戻ってきて、図書館の本棚から1冊の本を見つけて私に渡してきた。
「えーっと、『神話の神々』?
……うわっ、本の中に空欄がまるでないんですけど!」
しかも500ページもある!
何これ?これ1冊読むのに何十年かかるんだよ!
プシュ~と頭から湯気を出す私。
ヤバい、フェリクスとのデートでは私が熱中症で倒れるのか?
「やれやれ、仕方がありませんね。
魔王については、この私が説明しましょう」
メガネをクイッとさせて、フェリクスが心を高揚させてるように語ってきた。
おお、さすがメガネ男子。
何でも教えてくれる存在ってありがたいな〜。
頭良い男子って……いいよね。
フェリクスの熱意と誠実さに、私は心を動かされるのを感じる。
彼も恐らく勇者ではないだろうって思っている。
でも、なぜこんなにも私のことを想ってくれるのだろう?
その理由がわかんないんだよなあ。
フェリクスが魔王の話を始めると、彼のメガネが輝きを増した。
手振りを交えながら熱心に説明する姿に、思わず見とれてしまう。
「魔王は神々の1人でしたが、ある日突然世界に現れ、人類を支配しました」
神々?私は驚きを隠せない。
自分が神々の一員だったかもしれないなんて……
神々ねえ。
私が前世で神々の一員だったというのなら、なぜ魔王として覚醒したのか、その経緯がわからない。
「数十年間、人々は魔王の支配下にありました。
しかし、その時代の詳細はあまり記録が残っていないんです」
フェリクスは少し困惑した表情を見せる。
「ですがある時、人類を憐れんだ神々から1つの希望が舞い降りたのです。
それが勇者と呼ばれる存在です」
私は考え込む。
勇者も神々の一員?だとしたら、私を殺した勇者は……
フェリクスの説明を聞きながら、私の中で何かが呼び覚まされるような感覚があった。
魔王や神々の話が、単なる伝説ではなく、自分自身の過去のように感じられる。
この奇妙な既視感に、私は戸惑いを隠せなかった。
「魔王と勇者の戦いは十年続いたと言います。
やがて勇者が魔王を倒し、人類は魔王の圧政から解放され、人による統治が再開されたのです」
十年って……何をそんなに戦っていたんだ?
「ふむふむそれで?
魔王ってどういう人だったの?
勇者ってどういう人だったの?
魔王が倒されて人類が魔法を使えなくなったって聞いたことあるんだけど?」
私の質問攻めに、自信満々に知識を披露していたフェリクスのメガネが曇っていく。
「……すみません。知識不足です。
ちょっと待っててください!
今、調べてきます!」
うおおおっと、図書館の中を走りだすフェリクス。
あ、そこまでしてくれなくていいのに。
フェリクスも、思い込んだら周りが見えなくなるタイプだなあ。
そこまでしてくれるのは嬉しいけど、図書館で騒ぐのはマズイと思うぞ?
あ、図書館の職員に捕まった。
屈強な肉体をしたおっさんだ。
なんかフェリクスから普段の冷静さが崩れ、子供のような慌てようで一生懸命説明してるけど……あ、追い出された。
ヤバ、早く合流しないと。
ていうか宰相の息子なのに、扱い軽いな。
図書館の外で、体育座りして露骨に落ち込んでるフェリクス。
「まあ、こういう日もあるって」
「……すいません、いつもはこんな失敗はしないのですが」
「失敗は誰にでもあるから、私は気にしないよ」
「フッ……リーシャ・リンベル。貴女は優しい人ですね。
では、気を取り直してデートを続けましょうか。
魔王や勇者、魔法が失われた理由については夏季休暇後までには調べておきます」
フェリクスが立ち上がり、私に手を差し出してくる。
あ、これはアレか?エスコートってやつか?
フェリクスの一生懸命な姿に、戸惑いながらも、その手を取る私の指先が少し震えてしまった。
駄目なところも見ちゃったけど、結構ポイント高いかな?
フェリクスが私のために尽力してくれた。
それだけで心が温まる。
彼は私の疑問に真摯に向き合い、更なる知識を得ようとしている。
そんな彼の誠実な姿勢に、私は少しずつ惹かれていくのを感じる。
魔法を使用している様子もないし、フェリクスが勇者の可能性は消えたかも。
ただ、まだ油断は禁物。
勇者が確定するまでは、フェリクスも限りなく白に近い存在だと思っておかなくては。
***
『岩下真帆殺害事件
第3容疑者
フェリクス・セルゲイ
年齢 15歳 王立学校1年生
容姿 青髪 イケメン メガネ男子
身分 レフレリア王国宰相の嫡子
能力 本のことならなんでも任せてくれたまえ
性格 知識欲旺盛だがわからないと周りが見えなくなるのだ
人生 リーシャに出会うまでは順調だった
目的 リーシャと結婚すること(確定?)』
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