第11話 メイド部隊

 林間学校が終わり、夏季休暇まで残りわずかなテスト期間前。

 私はイワンたち男子5人と、カリーナとソフィアの女子2人と勉強会を開いていた。


 ……何故かイワンの家であるレフレリア王国王宮の、だだっ広い王子であるイワンの部屋で。


 イワンの部屋は、豪華絢爛な調度品に囲まれながらも、どこか居心地の良さを感じさせる……のだけれど。


 部屋の中にずらりと居並ぶメイドさんたち。

 私が飲み物欲しいな~と思った瞬間に用意してくる、とんでもないハイレベルなメイドさんたちだ。

 護衛兼見張りなんだろうけど、終始見られてるみたいで居心地悪くて勉強に身が入らないぞ。(言い訳)


 なんでもメイドさんたちはメイド部隊と呼称されていて、イワンの祖父である先王が組織したらしい。

 

 みんな無表情無感情で、顔もよく見れば違うけど、ぱっと見同じに見えるし。

 

 メイドさんたちから隠れ見えるオーラ。

 なんか、全員強そうだけど、彼女たちは一体?

 

 表面上は従順な召使いだが、その実体は最強の戦闘部隊なのかもしれないなあ。


 ん?メイドさんたちの中に、白髪に白い口髭の、カチューシャ被ってワンピースに白いエプロンに、ガーターベルト着用してる人物がいたような……?


 ……見なかったことにしようっと。


「だからボリス!ここは作者の意図を答えるところだ!

 なんだこの回答!『俺が勝つ』って!」

「うっせえ、知るかよ。フェリクスだって、ここの回答『私が勝つ』って書いてるじゃねえか」

「テメエらうっせえぞ。

 間違った回答してるんだから、せめて静かにしてやがれ」


 お?なんだ?ボリスとフェリクスとユリウスが言い争いを始めたぞ?


「あらあら、そこは皆さん間違ってらしてよ?

 そこの回答は『わたくしが勝つ』ですわ」


 ソフィアまで参加しちゃって、一体どこの問題のことだ?


「ああ、ここの問題だよリーシャ」


 そう言って、設問箇所を見せてくれたのはイワン。

 私の横のカリーナも気になったみたいで覗いてきた。


「え~と、なになに……

『上記の小説の一節を読み、作者がどの人物とヒロインと結ばれるかを答えよ』

 あ〜、これねえ。よくわかんない問題だったよね〜。

 私は一応、親友って書いておいたよ〜」


「カリーナ嬢、そこは王子と書かないと。

 僕との密約を忘れては困るよ」


 暢気に言うカリーナに、意味深に囁くイワン。


 私はここまでまだ到達してなかったから、小説を呼んで驚愕中だ。

 小説の一節、まるでこれは、まんまここにいる面子のことではないか!


 ざっくばらんに説明すると、とある平民が、貴族の学校に入りました。

 そして男爵家の女の子と友達になって、王子様含む貴族子弟の男子5人から告白されて、ついでに公爵令嬢からも告白されるって内容。


 なんだこれ?

 こんな小説あったのか?


「ね、ねえ。この問題の答えってなんなのかなあ?

 気になるんだけど」

「うん、僕も気になる。

 ニコライ、少し早いがみんなで答え合わせをしよう。

 模範解答のページを見せてくれないかい?」


 私の動揺に、イワンもちょっと引っかかりを感じてるみたい。

 銀髪で、背が低いし童顔だけどイケメンのニコライへと問いかけていった。


「イワン殿下、少々お待ちを……

 はて……ないですね。

 どうぞ、確認してください」


 ニコライから分厚い本を渡され、模範解答が載ってる箇所を確認していくイワン。


「たしかにないね。前後はあるのに……」


「なんだあ?点数にならない問題だったのかよ!」

「おや、落丁ですか?印刷物に欠陥があるのは問題ですね」

「けっ、なら俺が正解でいいわなあ!」


 イワンの呟きに、ボリス、フェリクス、ユリウスがそれぞれ反応していく。


「フェリクス、君は書籍に詳しかったですよね。

 この小説は知っていますか?」

「いえ、ニコライ、初めて拝読した内容ですよ」

「と、なると、誰かがわざとこの問題を我々に用意した可能性もあるとなりますね」


 顎に手を当てて、ニコライが考えているが、見当つかないようだった。


「考えても仕方がありませんわ!爺や!」

「は、お嬢様」

「この問題が追加された謎を暴くのですわ!」

「畏まりました、お嬢様」


 ソフィアに命じられ、メイド服の爺やさんの姿が消える。


 みんなツッコみたいのを抑えてるね。

 わかるよ〜、人間って消えるんだって。

 え?爺やさんのメイド服?

 うん、みんな目が泳いでるけど、見なかったことにしようとしているみたいだ。


「はあ、女装の爺や、気持ち悪いですわ。

 クビにするべきかしら?」


 ソフィアの嘆息に、私は心の中でやめて差し上げろ、ああなったのはソフィアのせいなんだぞ、とツッコんだのであった。


「ところで〜、皆様の回答はニコライ様以外お聞きしました。

 リーシャは、まだそこまで到達してなかったみたいなので、回答欄空欄ですけど」


 こらこらカリーナ、私ができない子みたいに言うな。


 全員がニコライを注目していく。


「僕ですか?まあいいではありませんか」


 ん?口を濁らすとは珍しい。

 ニコライって、いつも堂々としているイメージがあったのに。


「なんだよ、勿体ぶんないで見せろよ」

「そうです、1人だけ回答を言わないなんて卑怯ですよ」

「けっ、見せないってことは、そういうことだよな!」


 男子のじゃれ合いって、こういうものなのかな?


 イワン以外の男子たちが、ニコライが背後に隠していた答案用紙を奪っていく。

 勉強会と言いつつ、みんなの関心は試験よりも互いの恋愛事情に向いているようだなあ。


 この状況で本当に成績は上がるのだろうか?

 私は結構、切実なんだけど。

 

「お、おい!君たち、返したまえ!」

「ボリス、フェリクス、ユリウス。

 あまりニコライを困らすなよ」


 慌てるニコライの側に立つイワンだけど、強く止める気もないみたい。

 重臣の世継ぎに遠慮しているというよりは、イワンもニコライの回答に興味ある感じかな?


「な〜んだ、ニコライも俺たちと同じ回答かよ」

「ふむ、以外でした。ニコライは表情をだしませんからね」

「マジかよ!ニコライまでリーシャを狙ってたんかよ!」

「あらあら、無謀なお方。

 積極的に行動もせず、わたくしたちと同じ舞台に立つおつもりなのかしら?」


「ぼ、僕は……」


 ニコライの顔が真っ赤になる。

 普段の冷静な態度からは、想像できない動揺ぶりだ。


 普段は冷静沈着で感情を表に出さないニコライが、こんなにも動揺するなんて。

 彼の中の秘められた熱い思いが、感じ取れた気がした。

 

「す、すみません。少し気分が悪くて……」


 そう言って、ニコライは部屋を出て行った。


 私は困惑しながらも、なぜか胸がざわつく。

 ニコライのこんな一面、初めて見た。


 ニコライが部屋を出ていった後、残されたみんなも微妙な表情をしていた。

 

 競争心と友情が入り混じった複雑な空気が、みんなに流れてるなあ。


 まさか、ニコライまで私に気があったなんて。

 ……こんなに近くにいたのに、私は全然気づかなかった。


 でも、もしかしたらこれって、彼も勇者の転生体かもしれないってことなのか?


「やれやれ、ニコライは昔からそうだな。

 奪い合いや競争を嫌う。

 僕は彼にはもっと我を出してもらいたいのだが」


 イワンの嘆息に、私とカリーナ以外が、うんうん唸っていく。


「ていうか、悪いのはリーシャだよね〜」

「ちょっ!なんで私が⁉」


「だって、ニコライ様の視線にまったく気づいてなかったでしょ〜」


 カリーナが告げてくるけど……そうだったのか?


「あらあら、リーシャさんですものね。

 わたくしのリーシャさんに惚れるのは、人として当然ですわ」


 いやいやソフィア、それだとこの世のほとんどが人じゃないってことになるぞ。


「ちょっと、行ってくる!」


 よくわからないけど、ニコライと話さなくっちゃ。

 ……そういえば、ニコライと一対一で話したことなかったっけ。


「ニコライなら、教会に向かったはずだぜ」


 そう、笑顔でボリスが言ってきて。


「やれやれ、本当は行かせたくないが、致し方ないですね」


 メガネをクイッとしながらフェリクスが告げてきて。


「ま、リーシャだからな!行ってこいや!」


 気合を込めた声でユリウスが叫んできて。

 

「リーシャ、ニコライを頼んだよ」


 優しい音色でイワンが呟いてきた。


 私は、みんなに力強く頷いて、教会へと向かったのであった。


  ***


『レフレリア王国メイド部隊


 年齢 18歳以下採用不可

 容姿 女性の心があればOK どうせ同じ顔になります

 身分 読み書きできない奴隷だろうが採用可

 能力 1年間の修行後に一定以上の力は身に付きます

 性格 無表情無感情になります

 人生 寿退職率高いかもです

 目的 レフレリア王国の王族を護る大事なお仕事です(本当かは不明)』

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る