姑娘
「──という訳で銭がなく、ご覧の有り様です」
青菜だらけの献立を前に、チェンは悔恨に顔歪めた。リャンは無表情でタンパク源皆無の飯をかっ込んでいる。
観光ガイド兼
チェン一人なら薄めた粥でも啜っていればいいが、育ち盛りのリャンはそうはいくまい。
どうしたもんかと壁のシミを見ていると、リャンが言った。
「
チェンはギョッとする。
「確かに彼女に出てもらえれば稼げるけれど。お前はいいのかい?」
「かまわないよ」
少年は青菜の汁を飲み干した。
◼︎──────
「いらっしゃいませ。いらっしゃいませ。
鈴の音の声が告げる。
通りすがった男は鼻の下を伸ばして彼女──
「一つもらおうか」
「有難うございます。二千
「ちょっ、
少女はスカートの両端をふわりと持ち上げ一礼した。
「申し訳ありません、母の薬が入り用でして……。夜なべして
「お嬢ちゃん手ずからの品なのかい! なら仕方ねぇな!」
嘘である。夜なべして
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ──」
陽の指さない汚れた峡路にたおやかな声が響く。
「立ち食いではなんですし、よろしければ店内の
「──はい。いらっしゃい」
店内に入った客はチェンが捕まえる。
初手は白湯を振る舞い客の警戒心を解き。
「どうだい、旦那。モップのキ物は。人間様が使わなくても勝手に床を磨いてくれる。家中ピカピカになるよ」
次いで生活に有用なキ物の商談を仕掛ける。負けが九割だが、一割はささいな品を購入してゆく。
楚々とした
◼︎──────
「助かったよー。これで青菜生活とさよならだ」
二人で店舗奥の住まいに引っ込むと、チェンは告げた。
「お礼なんていいですわ、
「……何時も思うんだけどさ。お前、それ疲れないの?
「どうして疲れるのさ」
くだけた口調で
「俺は
黒いスカートをなびかせリャンはくるりと回る。
「
可憐な声で
リャンは奇異な生まれをしていた。
死んで『物』となり、
生まれのせいか、それとも他の要因か。リャンは男性にしては余分が多く、女性としても余分が多かった。要は半陰陽だ。
『物』から生まれ、自身を『物』と認識するリャンは己の肉体という『物』を巧みに扱う。
必要に応じ身体能力を上げ、必要に応じ
「でもお前、普段は完全に無愛想な小僧だし、
「疲れないけど、しばらく出してないとやり方忘れかけるよ。だからもっと、
チェンは閉口した。容姿の優れたチェンは、しかし中身は凡庸だった。
「お父様は
「どっちも『お前』だから決して嫌いではないよ。ただ……ちょっと慣れない」
「でしたら
──そうきたかぁ──チェンは天を仰いだ。
「──ところでお前、その振る舞いは何処で覚えたんだい?
「ご本を読んで覚えたの!」
「ご本かぁ……」
チェンは魂が抜けたような
息子で娘の養育は難儀だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます