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それから数年かけておれたちは見つけた鉱脈を中心に採掘を進め、新たな鉱脈になりそうな箇所もいくつか押さえつつ採掘できる箇所を増やしていった。
チームになる以上はノールの作る装備を付けることが必須。とはいうものの元々ノールの装備を付けられるような人がいなかったということもあって、採掘師の増員は見込めない。その分出費は抑えられ、おれたちの予算として使える資金が増えていたのはありがたい話ではあったのか。
それでも自分たちで船を用意するにはまだ足りず、船を出してくれる組合の予定もあって鉱脈から採掘ができるのは月に二度程度だ。
多くても月に四度採掘に向かえるかどうかの中で作業を続け、採掘に出ない日はノールは装備のメンテナンスと改良、おれはトレーニングと改良された装備の試験運用。さらに二人で組合との採掘計画を組んで、と、それなりに忙しい日々を過ごしていた。
おれとノールの関係は良好で、たまに仕事で言い合うこともあるにはあったけど、プライベートでは酷い喧嘩になるようなことは無く、息抜きと称して他の星へ二人で遠出することも増えていたくらいだ。
相変わらずノールが改良する装備はクセが強いまま。でもおれがそのクセを掴むコツを理解できてからは結晶化は安定していて、純度が高く大きな結晶を掘り当てる事も出来るようになっていた。
ただ。
採掘の回数に対しておれたちの暮らし方がどんどん変わっていく様子は、表向きにはかなり順調に見えたようで、ひがんでみたりねたましく思う人も少なからずいたようだ。
「お前達んとこの鉱脈は機嫌良く養ってくれてるみてえだな。それとも、技師と仲良くシてると装備の性能も変わってくるのか?」
街に出たときにそう問われて、どういう意味だとおれは返した。
街の治安が以前にも増して悪くなってきている。そんな気がしていた頃だった。
宇宙中から集まってくる採掘師の中には、思うように仕事が上手くいかずにやさぐれてしまう人は昔からいた。泡になってしまえと言われて腹を立てたり落ち込んだりで飲み歩いて潰れたのだろう、クダを撒いて唸る人はおれもよく見かけていたから、今更それを怖いとは思わない。
絡まれたことに溜め息を吐いて、おれはその酔っ払いらしき人を適当に受け流してやろうとした。
そうしたら、そいつは言うのだ。
「お前んとこが、みんな吸い取ってんだろ。他が足元見られてカツカツになってきてるってのによ。調子に乗りやがって」
「は? 吸い取る? 何をだよ」
おれは本当に訳がわからず、少々荒く聞き返した。相手も喧嘩慣れしてたんだろう、その程度じゃ怯むことも無く、笑って答えてくる。
「最近、この街の近くにある鉱脈がいくつも枯れてきてる事すら知らないのか。ああ、お前達は良い鉱脈掘り当ててるから、他がどうとか意識もしてねえってか」
今まで通り潜っても、ろくな成果が得られなくなった。
成果物が基準に満たないものになると、もちろん買い取る側は高値を付けることはない。広く安値が付くことが目立ってくるとそれを悪用した業者も現れ、以前なら基準を満たしていた
新たに鉱脈を探しに行ける人や他に採掘権を持つ鉱脈を持っているチームなら良いが、それが出来ないチームの採掘師は既にある鉱脈を持つチームに雇われる形で採掘を続けるか、泡になるかの選択を強いられている。
技師側は技師側で、組んでいた採掘師が思うように成果物を上げられなくなったとなれば、作り上げた装置が上手く働かないのだろうと文句を付けられ、得られる仕事の数も減っている人が出ているのだとか。
つまるところ、仕事を失いかけているやつらが増えた。そういう話だ。
「若造どもが。お前らのとこがいつまで続くか楽しみだなぁ!」
鉱脈も、技師との関係も。
酒臭い声で笑うと、捨て台詞でそう言い残して酔っ払いはふらつく足で去って行った。
この話がおれの中で現実味を帯びてきたのは、そのすぐ後だ。
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