先生と呼ばれた男〜男子校生異世界奮闘記〜

凡さん

第1話 異世界転移

「なぁタカシ、お前進路はどうするんだ?」

 高校生生活最後の夏休みが迫ったころ、学校の帰り道にいつもつるんでいるケンに尋ねられた。

「やりたい事も無いし、とりあえず東大でも行ってみるよ。」

「とりあえず東大とか俺も言ってみたいわw相変わらず頭だけは良いからな。」

「だけとか言うな。そういうケンは親の跡継ぎか?」

「おうよ!…でも母ちゃんから大学は出とけって言われててよ〜」

 ケンの実家は建設会社だ。田舎の小さい会社とは言え、ここらでは競合も少ないし将来は安泰だろう。

「資格も必要だし、腕一つでやっていけないだろ?」

「会社の皆が持ってるから俺が無くても大丈夫だ!」

 訂正、将来は不安でたまりません。

「タカシ、とりあえず東大って言っても学部は?何を目指すんだ?」

「何も。婆さんからは「やりたい事見つかるまではそれでえぇ」って言われてるし。」

 俺の両親は中学生の時に車の事故で亡くなった。高校進学を機に婆さんの住む田舎に移り居候している。

 ケンは馬鹿だが、知り合いのいないこの地で出来た初めての友人、愛すべき馬鹿なのだ。

「馬鹿と天才は紙一重って言うし、何考えてるか分かんねぇわ!…タカシ危ない!!」

 俺は馬鹿(ケン)に馬鹿と言われたショックと突き飛ばされたショックで目を見開くと、黒い塊が横切った。

「な!猪!?」

「タカシ!逃げるぞ!!」

 咄嗟に駆け出したが猪が追ってくる姿が見える。

「ケン、森に逃げるぞ!遮蔽物があればスピードも出せないはずだ!!」

「さすがタカシ!頭いいな!!」

「それ今関係ある!?」

 俺たちは道沿いの森に入るが、猪はまだ追ってくるようだ。

「何で追ってくるんだよ〜」

「豚は犬より鼻がいいって聞いたことがあるから猪もそうだろう。俺たちから美味そうな匂いがしてるとか?」

「うまい棒ならあるぜ!」

「何故うまい棒!?」

「美味いだろうが!…ッガ!?」

 ふざけたせいかケンが転倒した。

「馬鹿野郎!俺が引きつけるから逃げろ!!」

「すまんタカシ!」

 俺は咄嗟にスマホを猪に投げ、ケンから離れた方向へ走り出す。

「こっちだクソ豚が!」

 幸い猪は俺に向かってきているようだ。

 その時、

「うわ!!」

 閃光が走ったかと思えば辺りが霧に包まれている。


「なんだこれは?ハッ!猪は!?」

 周りを見渡すと静寂に包まれており、猪は追ってきていないようだ。

「…撒いたか。これはどんな状況だ?森にいるはずなのに木が見当たらない。何が起こっている?」

 軽く混乱しながら周囲を散策していると、小屋を見つけた。明かりがついているし、人がいるようだ。

「森にこんな小屋なんてあったか?…ひとまず助けを呼ばないといけないか」

「すみませーん」

 近づき声をかけると、中からガタッ!と驚いたような音がし、老人が出てきた。

「驚いたわい。何故ここに?」

「猪に追われて森に逃げてきました。すみません!警察を呼んでください!友人がまだ残っているんです!!」

「警察?…ああ、君に伝えたいことがある。家に上がらんかね?」

「は…はい。失礼します。」

 家に上がると六畳一間、真ん中にコタツがあり、テレビを見ていたようだ。

「まず君に伝えたいことじゃが、ここは君達の世界でいう異世界じゃ」

「は?」

「それでわしは神じゃ」

「はぁ!?」

 この爺ボケ…

「ボケとらんわ」

 こいつ!思考を!?

「タカシ君、君の考えていることはわしに伝わるのじゃよ。君が猪に追われているとき、光が見えなかったかの?」

「名前も…。はい、確かに…」

「世界は数多く存在し、分け隔てられておる。しかし、時折隣り合う世界が一瞬だけ交わる時があり、その瞬間を君が目にしたのじゃ。そして、その場にいた影響で君はこちらの世界に移ってしまった、という訳じゃ。」

 やっぱりこの爺ボケ…

「ボケとらんわ」

「…いわゆる異世界転移ですか…。では戻る方法は?」

「残念ながら無いのじゃ。世界が交わる事などめったにないことじゃし、この世界では約200年ぶりのことじゃ。それに君のいた世界と交わるという確信もない。」

「な!…神の力的なもので送り返すことは出来ないのですか!?」

「それも無理じゃ。創造神ならまだしも、各世界にいる神の役目は監視者じゃ。人の営みを眺め、時折助言を下すくらいじゃ。」

「そんな…」

「あちらの神を通して君の無事を伝えることは出来るじゃろう。」

「…では友人と祖母にお願いします。」

「うむ。では最後に、君へこの世界の言語知識を授けよう。」

「そんなことが出来るのですか?」

「伝える力の応用じゃよ。」

「…これから俺は何をしたら良いのでしょうか。」

「君の好きなように生きよ。ただこの世界を好きになってくれるとわしは嬉しいのじゃ。」

「分かりました。」

「では小屋を出て真っ直ぐに歩きなさい。そうすれば元いたような森に出られるはずじゃ」

「はい。お世話になりました。」

俺は小屋を出て霧の中を歩き出す。

「あ、伝え忘れてたわい。この世界は魔法が使えるぞ〜い。」

「マジで!?」

最後の最後で俺はこの世界で前向きになれたような気がした。

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