3.1度目の話し合いタイム① ゲームの始まり

 拳太は『いじめっ子は誰だゲーム』に参加すると決めた。

 そうしなければ殺されかねないという恐れももちろんあったが、それだけじゃない。


(優衣を助けられるなら……)


 願いを叶えてくれるというユグゥラの言葉をどこまで信頼できるかは分からない。神様だというのも疑わしい。


(でも、もし本当に優衣を助けてくれるなら、神様でも悪魔でもなんでもいい)


 優衣は医者でも簡単には治せない。そういう病気なのだ。


 夏風たち4人も、ゲームに参加するしかないと判断したようだ。

 ユグゥラの指示で、拳太たち5人は机と椅子を丸く並べ直して座った。

 それを確認するとユグゥラは拳太たちの頭上で満足げにうなずいた。


「それでは話し合いタイムスタートじゃ。1時間後に投票タイムとなる。延長要求は受け付けぬ。それまでに自分たちの中に紛れ込んだいじめっ子を見つけてみせよ」


 そう言ってユグゥラが右手の指を鳴らすと、黒板に『60:00』と表示された。

 表示はすぐに『59:59』になった。残り時間を秒単位で表示するタイマーらしい。

 ゲームはもう開始されたのだ。

 拳太は自分を落ち着かせるために、もう一度ポケットの中のお守りを握りしめた。


(絶対にこのゲームに勝ってみせる)


 そのためには、いじめっ子が誰かを見破らなければならない。

 拳太はあらためてゲーム参加者の人――夏風、昭博、いちご、ヤマトを観察した。


(誰がいじめっ子なんだろう? 話し合いといってもなにを話せばいいんだ?)


 拳太が迷っていると、夏風が言った。


「このまま黙り込んでいても仕方がないわね。私たちは話し合うしかない」


 すると、いつのまにか泣きやんでいたヤマトが言った。


「でもなにを話せばいいのかな?」

「この中の4人がいじめられっ子で、1人がいじめっ子だというなら、それぞれがどんないじめを受けているのか話すのがいいと思う。そうすればいじめっ子は嘘をつくしかない。もし不自然な話をする人がいたら、その人が怪しいことになるわ」


 なるほどなと拳太も納得した。

 だが、彼が「賛成」と言う前にいちごが嫌そうな声を上げた。


「なーんかなぁ。アタシはちょっと気に入らないなぁ」

「どうしてかしら? 私の提案になにか問題がある?」

「そーじゃなくて。なんで夏風ちゃんが仕切っているのかって話よ」

「年下のあなたに『ちゃん付け』で呼ばれたくはないわね。それに司会進行役は私が1番適任だと思うけど?」

「うわぁ、自信満々。いじめっ子っぽーい。アヤシー。拳太くんもそう思わない?」

「えっと、ぼくは……その……まだわからないっていうか……」


 拳太が口ごもっていると、夏風がいちごに反論した。


「私に言わせれば、あなたみたいな時代遅れのギャルこそいじめっ子っぽく見えるわね」

「えー、アタシいじめなんてダサいことしないよー」


 女子2人がにらみ合う一方で、ヤマトが昭博を見ながら口を開いた。


「ボク思うんだけど……大人なのにいじめられたりするの?」


 ヤマトの疑問に、皆の目が昭博に向く。彼は目を白黒させて慌てた。


「僕は、会社でみんなにいじめられていて……嘘じゃないよ。信じてほしいな」


 拳太は迷った。

 大人の世界にいじめがあるかないかと問われれば、ないとは言い切れないだろう。

 夏風が言った。


「たしかにこの5人の中で1番いじめられそうなのは、むしろあなたみたいな情けなくてさえないオッサンって気もするわね」


 昭博は頭をカキカキした。


「いやぁ、てへへ」


(なんでテレているんだよ、この人)


 拳太があきれていると、今度はいちごがヤマトを怪しそうに見た。


「ってかさ。ヤマトくんってさっきまでグズグズ泣いていたのに、いつの間に泣きやんだのかな? もしかして嘘泣きだったりした? 案外ヤマトくんがいじめっ子だったりするのかなぁ?」


 ヤマトはびっくりした表情を浮かべた。


「え、ボ、ボク? ボクは違うよ! まだ小学3年生だし」

「えー、そうかなぁ。アタシいじめに学年や年齢とかあんまりカンケーないって思うよ。大人だろーが、中学生だろーが、小学生だろーが、いじめなんてするっしょ」


 ヤマトは再び泣きそうな表情を浮かべてしまった。

 拳太はたまらずヤマトをかばった。


「やめなよ、いちごちゃん。小さい子を追い詰めるなんて、それこそいじめだよ」

「そうかなぁ。アタシは単に思ったことを言っただけだけどねぇ」


 夏風があらためて言った。


「いい加減にして。時間がないのよ。いじめっ子を見つける上で、どんないじめを受けていたか話すことが無駄になるとは思えないわ」


 タイマーの残り時間は、すでに『43:22』になっていた。

 いちごはちょっと不満そうだったが、今度は反論まではしなかった。

 反対意見がなかったので、それぞれ自分の受けたいじめについて話すことになった。

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