第44話 食事とデザート

 四人とも食事を無言で食べる。さすがは上位貴族の娘というだけはあり、そういったマナーが既に身についているようだ。いいかたは悪いかも知れないがルーヴィラでさえナイフとフォークを使い分けている。


 ただブッフェタイプということで、それぞれが好きなものを中心に給仕に頼んだということで並んでいる食事には個性がある。


 まずはステイシー。彼女の前にはメインの肉料理や野菜からスープなどバランスよく置かれている。食べ方も普段通りのようで、前菜、スープと続き魚料理、肉料理と続いて食べている。この後は口休めの冷えた果実を食べ、お肉に戻り野菜へと続くのだろう。


 クルーシュに目をやると、彼女のところは野菜と果物がメインとなっている。あとは少ないながらも一口大の魚とお肉が添えられているくらいだろうか。エルフといっても物語のように果物だけを食べて生きるわけではなく、ちゃんと肉も食べるようだ。ただクルーシュは野菜や果物のほうが好みなのだろう。


 ルーヴィラは性格的に想像はできていたがお肉中心の食事をしている。並んでいるお皿の数から用意されていた肉料理が全種類並んでいるのかも知れない。食べ方は上品なのだけど、食べる速度が笑ってしまいそうなほど早い。


 ちなみに私の場合は特にどれかが偏っているというわけではなく、かといってステイシーのように型にはめたようなものでもない。どういうことかと言うと、見たことも食べたことのないもの中心に選んだ結果、なんともカオスな状態になっている。


 私自身これって食べられるの? と疑問に思う物もあり少量ずつついばむように食べている。変わった食感のものもあるが、さすがは王宮で出されるものということで味は悪くない……と思う。


 お気に入りとなったのは、真っ赤に茹でられ吸盤がついた触手のような食べ物だった。給仕に聞いたところ海でとれるタコという生き物の足ということだった。今まで食べたことのないもきゅっとした食感が面白い。


 三人ともちらちらと私がタコを食べるのを見て、そんなの食べるのといった視線を向けてきていたのでお勧めしたけど遠慮されてしまった。こんなに美味しいのに残念だ。


 それにしてもバカ王子シリウスはまだ来ていない。前世ではどうだったか思い出そうとしても覚えていない。前世では一人寂しく壁の花になっていたので、周りに気を使う余裕がなかった。まあ、王子が食事をしている場に現れたとしても私はともかくとして他の人たちは緊張して食事も喉を通らないだろう。そう考えるとシリウスが来ていないのは正解とも言える。


 空いたお皿から順番に給仕が下げていく。すべての皿が下げられると今度はデザートが運ばれてきた。テーブルの中央にケーキスタンドが置かれ、その中に一口サイズのケーキや果物、そしてお菓子が並べられる。


「さすがは王都ですわね。初めて見るお菓子がありますわ」

「わたしも初めて見たよ。この丸いのは何ていうんだろうね」

「こちらはマカロンですわね」

「へー、マカロンっていうんだ。変わった名前だね」


 ルーヴィラの疑問にクルーシュが答えている。マカロンというのは同じ形をした色違いの丸いお菓子のことだろう。


「どんな味なのかしら」

「気になるのなら早速食べて見ようじゃないか」


 ステイシーが早速黒い色のマカロンを手にとっている。私たちもステイシーに習ってマカロンを手元のお皿に取る。ステイシーは食べたことがあるようで、私たちに見せるように指で摘みそのまま食べてみせた。


 私とルーヴィラは特に驚くでも無くステイシーに習って指で摘む。ただクルーシュは手で食べるというのに一瞬だけ驚いた表情を浮かべてた。それも一瞬のことで、私たちに続いてマカロンを指で摘み口に運んだ。


 手で持った感触は少しかたい用に思えたが、噛むと表面はサクリとしているのに、中のクリームがねっとりとしていて面白い。最初に食べたものはいちごのクリームだったが、もう一つ食べてみると今度はチョコレートだった。どうやら全部味が違うようだ。


 ただ食事も十分に食べたのでこれ以上は食べられそうにない。もう食べられそうにないので給仕に紅茶を新しく入れてもらう。ステイシーたちも私と同じように紅茶を手に持っている。


 軽く周りを見回してみる。どうやらまだ他のテーブルは食事の最中のようだ。グループとしては十組くらいに分かれている。一つのテーブルに四人とすると今回のお披露目会に参加している子どもは二十人といったところだろうか。その中にはリセ恋の攻略対象である、侯爵家子息四人もいる。


 なんとなく思い出してきたのだけど、バカ王子シリウスは食事が終わってしばらくした頃にやってきたはずだ。その辺りが前世と同じだとするともう少ししたらやってくることになりそうだ。

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