ユートピア

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ガウシア王国編

第1話

シェリルと僕の出会いは、あの村の海岸から始まった。僕が住んでいた村からは、どこまでも広がる海が見えた。辛いことがあると、僕は決まって海岸に行き、水平線を見つめていた。どこまでも広がる海を見ると、僕の悩みなんてちっぽけだと感じられるからだ。


あの日も、海を眺めていた僕にシェリルは突然話しかけてきた。今でも昨日のことのように覚えている。


「ねぇ、キミ、冒険は好き?」


シェリルの瞳はまっすぐで、透き通った海の青さを映していた。突然話しかけられたことに動揺した僕は、言葉に詰まった。


「あ…好き、かな」


「私も!」


シェリルは笑顔で力いっぱいそう言った。子供心にとても素敵な笑顔だと思った。


「私ね、大きくなったら世界中を旅するの! 世界には不思議な場所がたくさんあるって本で読んだの。上に流れる滝とか、氷の雪原、砂の城…ケホッケホッ」


突然、君は咳き込み始めた。僕は慌てて「大丈夫?」と声をかけた。


「うん…大丈夫。私、昔から身体が弱くて、久しぶりに家から出たの」


すると、君の母親らしき人が急いで駆け寄ってきた。


「シェリル! 無理するから…!」


「…ごめんなさい。でも、私、一度でいいから近くで海を見たかったの」


母親は何かを言いかけたけど、そのままシェリルの手を握って連れ帰った。帰り際、君は僕に微笑んで言った。


「また一緒に海を見ようね」


その言葉が、なぜか僕の胸に深く残った。


それから、時が経った。僕は村で畑仕事をしながら、仕事の合間に町に薬を買いに行ったり、自分で薬を作って自分に試してみたりして毎日を過ごしていた。シェリルとの交流はあの海での出会い以来、細々と続いていた。病弱で外に出ることができないシェリルに、僕は手紙を書き、日常のことや村の風景を綴った。君はそれに対して夢見るような言葉を返してくれた。


――ある日、手紙が届かなくなった


それから数日後、シェリルの家から知らせが来た。シェリルが眠・り・姫・にかかってしまった、と。


眠り姫は数年前、突如として世界中で流行り始めた原因不明の病のことで、一度かかってしまうと眠ってしまい何をしても二度と目覚めることはない恐ろしい病気だ。最初にこの病気が発見されたのは北の果てセーレンだった。ある村の朝、目を覚ますと子供が眠ったまま起きなかったそうだ。子供は眠り続け、それは何十日も続いた。やがて村の人々は次々に眠ってしまい、誰も目覚めることはなかった。村は壊滅し、それを発見した人はまるで悪夢を見ているようだったと後に話している。それからというもの、各地で眠り姫の症状が報告され、薬師たちはやっきになって調べ回ったが未だに治す方法は見つかっていない


僕は慌ててシェリルの家に向かった。家につくと、シェリルの母親に事情を説明して家にあげてもらった。シェリルの母親は泣きながら


「私...どうしたらいいの...! こんなことって...あんまりよ...あの子が何をしたって言うの...!」


と、憤りを口にしていた。


僕がシェリルの寝室のドアをあけると、シェリルはベッドの上で眠っていた


(僕はシェリルと出会い、僕の中で何かが変わったんだ。君と出会うまでの僕は、何もなかった。夢なんて考えたこともなかったんだ。...でも、君の笑顔が、言葉が、希望が、僕の心に火をつけた。それから君の夢は僕の夢になった。君と冒険に出る日を夢見て、君に外の世界を見せるために...)


僕は君との手紙のやりとりを思い出していた


僕がふと空を見上げると、鳥が一匹飛んでいた。ワタリドリだ。群れから逸れてしまったのだろう。そのことを手紙にかき、君に送った。すると、君はこう返事をした


「ワタリドリは、どんなに離れていても絶対に目的地を見失わないの。それはきっと、心にブレない羅針盤を持ってるから。私も迷わないよ。いつかきっと絶対に外の世界を冒険するから」


僕はゆっくりとシェリルに近づき、細い手を握った


「...僕は諦めない。たとえ何年、何十年かかったとしても、君を助ける」


僕は村に帰り、旅の支度をする。最初に眠り姫にかかった患者は遠い北の果て、セーレン。必ずそこに何か手がかりがあるはず。僕は村を出る前に最初にシェリルと出会った海岸に向かった


「また一緒に海を見ようね」


君がそう言った日のことを、僕は忘れない。水平線を見つめると、あの日の君の笑顔が浮かんでくる。僕は決意を新たに村を後にした

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