亡き母を偲ぶ!【前編】

崔 梨遙(再)

1話完結:2000字

 僕の母は、昭和16年生まれでした。早生まれでした。1600グラムの未熟児に産まれて、周囲から“スグに死ぬ”と言われながら、奇跡的に普通に育ったのです。


 幼い頃は豪邸に住んでいたらしいです。大金持ちだったと聞いています。戦時中、食べ物が無い時に、近所の子供達を家に招いて。サツマイモなどやおやつ(当時貴重だったお菓子など)をご馳走してあげていたとのことです。その頃、某電鉄会社の設計技師長だった祖父(母の父親)の給料なんかいらないくらいの大金持ちだったらしいです。


 ただ、祖母(母の母親)の躾が変わっていて、母が行きたいときにトイレに行くのではなく、行ける時にトイレに行かされたため、母は3歳で痔になったそうです。今の世では虐待になるのではないでしょうか?


 何不自由の無い生活でしたが、戦後のゴタゴタで破産。一気に一般庶民になってしまったらしいです。まあ、祖父が電鉄会社の設計技師長でしたので、普通の庶民の生活は出来たらしいです。


 ところが、母が13歳の時に運命の日がやって来ます。長期出張していた祖父が、出張先で亡くなったのです。殺されたのです。犯人は祖父を恨んでいた部下。毎晩祖父が飲んでいた薬に青酸カリが混入していたとのことです。警察は、証拠も用意しつつ犯人までつきとめていました。警察は殺人事件として扱おうとしましたが、祖母は止めました。“犯人を裁いても亡くなった人は帰ってこないし、祖父が死んだことで家族は女性ばかり、出所した後で仕返しに来られるのも怖い”ということだったのです。そして、祖父は病死扱い、42歳で亡くなりました。


 そこから、母達は母子家庭になりました。当時は女性が働ける場が少なく、貧しい暮らしが待っていました。祖母、母、叔母、女性3人です。そこから、祖母のエスカレートした躾が始まりました。


 まず、母は高校入学時から“色気に目覚めてはいけない!”ということで髪はおかっぱ頭しか許されず、忍耐力を身に付けるためということで、わざとツギハギのスカートを履かされて登校させられました。屈辱的な日々だったらしいです。


 ですが、母は演劇部に所属。オーディションに受かって、ラジオドラマの脇役として(当時はまだテレビよりもラジオの方が主流でした)出演しました。そして、連続ドラマ1本が終了した時点で、大物ラジオ関係者に呼ばれます。共演していた、同じ高校生の○○さんと一緒に呼ばれました。


「君達、これからもドラマに出たい?」

「「はい」」

「それじゃあ、或る大物の夜の接待に行ってもらわないといけないんだけど」


 母は断りました。○○さんはOKしたらしいです。母は、夢見ていた芸能界が自分の想像と違ったことでショックを受けたらしいです(あくまでも60年以上前のお話です。今がどうなっているのか? それは知りません)。


 そして、就職。母は祖母から“大企業に入れ!”と言われていたので、祖母の期待に応えて大企業に入社しました。それでもまだ頭はおかっぱ、小遣いは社員食堂の“うどん代”20日分しか与えられませんでした。


 しかも祖母は母に“残業で稼ぎなさい”と指示をしていました。定時までに終われる仕事を残業のために残して働く日々はツラかったたしいです。


 そして、母が年頃になると、祖母は母の結婚について考えたようです。そして、祖母の出した結論は、“好きな相手と結婚するのではなく、お金持ちと結婚しなさい”でした。母はどうして従順だったのでしょう? 僕でしたらさすがに結婚のことまで口を出されたら反発してしまいそうです。


 母は、両想いだった母子家庭のエリートサラリーマンと結ばれず、お金持ちの社員と結婚しました。叔母は大学に進学すると言い、叔母の学費は母の旦那が出したらしいです。母が犠牲にならなければ、叔母は大学に行けず、教師にもなれないところでした。母は専業主婦をやりたかったのですが、旦那に喫茶店をオープンされます。そして、“この喫茶店で働け!”と言われたそうです。某大学の前に喫茶店はありましたので、大学生の客が多かったらしいです。


 余談ですが、ハネムーンベイビーで、母は結婚してスグに妊娠したらしいのですが、旦那から“堕ろせ!”と言われたらしいです。旦那は当時、“子供は作らない主義”だったらしいです。ですが、母は内心激怒していました。母は子供が欲しかったのです。ですが、“旦那の子供は、もう何があっても産まない!”と決めたらしいです。


 やがて、勉強が好きだった母は、定時制の大学に通うことにしました。そこで、僕の父と出会ったとのことです。



 父と出会った後のエピソードもあるのですが、今回はここまでにしておきます。ただ、僕は今弱っていますので、母の強さを見習おうと思っています。







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