妹に求婚されるお姉ちゃん 〜小さい頃からべったりな妹、成長したらもっとべったりしてくるんですが!?

水面あお

第1話 姉妹百合

 私は今川加代。今川家の長女だ。 

 そんな私には可愛い妹がいる。

 

 今川花蓮。

 二つ年下で、いつも私にべったりな可愛い妹だ。

 


 小学生の頃、事あるごとに花蓮は言った。

 

「お姉ちゃん、大きくなったら結婚しようね!」


「はいはい」


 軽くあしらってはいるが、本当は嬉しい。

 花蓮にそれだけ好かれているんだと思うと、心が弾むから。

 

 私たちは仲良し姉妹だ。

 他の友達の話を聞くと、喧嘩したとか、生意気だとか、そんなことばかりだけれど、私たちの仲は常に良好だ。

 

 ずっとこうやって姉妹二人でいられたら、なんて思う。


 


「お姉ちゃん、この問題教えて!」


「これはね、この公式を使って解くんだよ」


「……わ、解けた! ありがとう、お姉ちゃん大好き!」


 花蓮の面倒を見るのはいつも私の役目だった。

 両親は仕事で帰りが遅くなりがちだから。


 夕食も私が作る日が多い。

 お父さんもお母さんも仕事で疲れているだろうから、率先して料理していた。

 

 それに――


「お姉ちゃんの料理は世界一美味しいなぁ〜」


 頬を緩めて、喜んでくれる花蓮がいるから、私は料理が苦じゃなかった。 

 楽しみの一つですらあった。


 * * *


 時は流れ―― 

 私は高校生、花蓮は中学生になった。

 

 思春期に入ると姉妹の関係がギクシャクしてしまうのではないかと恐れていた私だったが、全くの杞憂に終わった。

 

 それどころか――


「わたし、絶対にお姉ちゃんと同じ高校行くから」


「え、いいけど、今の成績じゃかなり厳しいと……」


「ぜっっっったいに行くから!」


 花蓮は私の言葉を遮って、決意を声に出した。


「お姉ちゃんと同じ高校じゃないと嫌だ。一緒に登下校したい。放課後は仲良く寄り道したい。お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん……」


 ぶつぶつと早口で唱える花蓮。

 大丈夫かな。目が据わっててちょっと怖いんだけど。


「じゃあ、お姉ちゃんが勉強教えてあげるよ。昔みたいに」


 我ながらいい提案だ。

 と思っていたのだが、


「それはだめ」


 花蓮はそれを簡単に切り捨てた。

 喜んでくれると確信していたので、困惑を覚える。


「なんで……?」 


「……勉強に、集中できなくなっちゃうから」


 顔を赤らめて、花蓮は恥ずかしそうにぽつりと口にした。


 私はその仕草を見て、ふふっと笑みをこぼした。 


 * * *


 猛勉強の末、花蓮は無事合格した。

 私たちは同じ高校へ通うことになった。


 そんな日々が始まって数か月。 

 今や、私たちは校内でも噂になるほどのラブラブ姉妹になっていた。


 昼になると必ず、花蓮は三年生の教室へ堂々と入り、私の席へやってくる。

 

 お弁当を取り出すと、卵焼きを箸でつまみ、私の方へ差し出してくる。


「お姉ちゃん、はい……あ〜ん」


「あ、あーん」


 周囲の視線が気になって控えめに言うが、今更意味なんてないかもしれない。

 

「美味しい?」


「美味しいよ」


「宇宙一料理上手なお姉ちゃんが作ったお弁当だもんね。はぁ……毎日このお弁当をお姉ちゃんと食べられるなんて幸せだぁ〜」


 頬を手に当て、蕩けるような顔を浮かべる花蓮。

 

 そんな幸せそうな花蓮の表情を見ていると、周囲からの視線なんて気にならなくなった。

 

 


 放課後。


 花蓮と私は、手を繋ぎながら歩いていた。


「お姉ちゃん」


「なあに?」


「昔の約束、忘れてないよね?」


「……約束?」


 昔の約束とはどれのことだろうか。

 パッと思いつかない。


「大きくなったら結婚しようっていう約束」


「ああ……」


 そういえばそんなことを言っていたなぁ。

 と、ぼんやり思っていると、花蓮が私の頬に唇で軽く触れた。


「花蓮……っ!?」


 驚いて私は声を上げる。

 花蓮はしてやったりと、満足そうな笑みを浮かべていた。


「わたしは今も、お姉ちゃんと結婚する気だからね? 本気のキスはその時のためにとっておくから」


「も、もう……」


 動揺した心を落ち着かせながら考える。

 なんだか、昔よりも花蓮に好かれている気がする。……気がするじゃない、絶対に前より距離が近い。


「お姉ちゃんは、わたしと結婚してくれる?」


 花蓮が、上目遣いで私のことを見てくる。


「それ今聞いたら、プロポーズをおっけーしたことになっちゃわない?」


「ほんとだ。じゃあ二年後、わたしが18になったときに教えてよ」


「はいはい」


 軽くあしらったが、内心ではこの胸の鼓動がバレないか不安だった。

 

 こんな可愛い花蓮と結婚する……なんて。


 ずっと、べったりと甘えてきた花蓮。


 花蓮が私のことを将来のパートナーとするほど好きなんだと思うと、嬉しくて幸せで、もう花蓮の方を向けなかった。

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