第3話
見送りの当日。
今夜の空港の展望デッキは、意外にも見学客が少ない。
キャリーバッグを足元に寄せた彼女の隣で、俺は飛び交う飛行機の光を目で追う。
いつもは楽しいと思いながら眺めていた光景も、この先のことを思うと上の空で見つめているような状態だ。
「行っちゃうんだな」
「……うん」
見送りをしたいと告げると、彼女は快く出発日を教えてくれた。
彼女が旅立つのが新幹線ではなく、俺たちが出会った飛行機なことが、皮肉のように感じられる。
ほかに交友関係もあるだろうに、俺を選んでくれた理由は、別れを惜しんでくれたからだろうか。
……そう思うと、嬉しい気持ちと虚しい気持ちが同居して複雑な気持ちに陥る。
「短い間だったけど……何年も付き合っていたみたいに思えるくらいに、楽しかったよ」
飛び立つ飛行機の明かりを目で追って、彼女が寂しそうに零す。
それは、以前彼女が見せていた悲しそうな表情と同じものだった。
きっと、その頃から転勤が決まっていたのだろう。
「俺も……楽しかった」
良いんだろうか。
このまま、過去形にしてしまっても。
彼女が俺に向き直って、真剣な眼差しを向けてくれる。
「……これからは頻繁に会えなくなるけど、戻って来たらまた一緒に遊んでくれる?」
俺も彼女を真正面に捉えた。
その言葉から、彼女が俺を少なからず思ってくれていることが分かる。
少なからず?
いや、うぬぼれたって良いんじゃないか?
そこまで言ってくれると言うことは、彼女も俺と同じ思いでいてくれているかもしれないんだから。
彼女ともっと、一緒にいたい。
たくさん話をして、綺麗な景色をふたりで眺めて、笑い合いたいんだ。
いま言わなければ、もう二度と伝える機会をなくすだろう。
彼女がこっちに帰ってきても、このままの関係では繋ぎ止められるとは限らない。
向こうで恋人を見つける可能性だってあるんだ。
飛行機の明かりが、幾つもの筋となって空を行き来している。
まるで、願いを叶える流れ星のように。
「俺もそっちに、遊びに行くよ」
「え、来てくれるの? 本当に?」
星に願いを託す思いで、俺は言葉を紡ぐ。
「遠く離れていても、あの空に連なる星のひとつになって、君に会いに行く。君と初めて出会った夜に機内で見た、飛行機の明かりのように……」
「ふふっ。すごく、きざな台詞だね」
照れくささで俯きそうになるけれども、どうにか真っ直ぐに彼女を見つめる。
俺が言葉に込めた思いが、通じたんだろう。
彼女もどこか照れくさそうにしていた。
俺は改めて、しっかりとした言葉で告げる。
「……好きです。付き合ってください」
「当分は遠距離恋愛になるけど……私も付き合ってほしいです」
彼女は先程よりも顔を赤くして、頷いてくれた。
「私も。空に輝く星のひとつになって、あなたに会いに戻るね」
都会の空に連なって瞬く星々が、俺たちの思いが通じ合ったことを祝福してくれているようだった。
「大好きです!」
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