第2話

 そのあとのレストランでは、無事に彼女と仲を深めることが出来た。

 話が弾んで、自然と連絡先を交換し合って、二人で終電に乗って帰って……。


 途中の駅で先に彼女が電車から降りるときは、名残惜しさを感じたのだけれども。

 その気持ちを堪えて、彼女に今夜付き合ってくれたお礼のメッセージを送る。


『一緒に飲んでくれて、有難うございます。楽しかったです』


 そして……。

 あわよくば次も会えますようにと願い、次の休日に夜景を見に行かないかと提案しようとした。


 何度も何度も文章を書きなおして、不自然じゃないように何度も見直して……。


 最後にメッセージの送信ボタンを押そうとしたときは、かなり指が震えていた。


 本当にこれでいいのか?

 もっと良い文章があるんじゃないのか?

 そう思ったけれども、悩めば悩むほど時間が経って、彼女との関係性も時間とともに薄くなっていく気がして……。


『もっと綺麗な景色があるので、来週の休日に見に行きませんか?』


 機会を逃してはならないと気合を入れて、送信ボタンを押した。


 そんな風に気合を込めて送ったメッセージに対して、彼女からはすぐ返答が来た。


『こちらこそ、すごく楽しかったです!』

『ぜひ! 次回の素敵な景色ガイド、楽しみにしています』


 彼女も乗り気で居てくれているみたいだ。


 電車の中だったにも関わらず、思わずガッツポーズをしてしまったのは秘密だ。


 それから俺たちは、ほぼ毎週のように遊びに出掛けた。


 街の夜景、テーマパークのライトアップ……。

 最初のうちは、俺の普段の行動範囲を彼女とともに行動したに過ぎない。


 けれども、ふたりで見たのはそれだけじゃない。


 花を見るのが好きだと言う彼女を車に乗せて、あちこちのフラワーガーデンに行って……。

 ラベンダーのソフトクリームを一緒に食べたり。

 山の斜面に咲く花畑ではリフトに乗って高い位置からふたりで花を眺めたり。

 もちろんそのあとは、ふたりで夜景を見に行った。


 彼女と一緒にいると楽しくて、世界が広がってくるような気がした。

 夜景の様に輝く彼女の笑顔に惹かれて、もっと一緒にいたいと思うように……。

 彼女が好きだと、強く自覚するようになった。


「いつも付き合ってくれてありがとう」

「こちらこそ、いつも誘ってくれて嬉しいよ」


 気付けば互いの言葉遣いも崩れていって、次第に距離感も近くなっていくのを感じる。


「誘うなら、映画館とかの方が良かった?」

「ううん。映画よりもね。こんな風に、あなたと一緒に景色を楽しむのが好きだなあ」


 高台から街明かりを見つめて何気なく応えてくれた言葉に、ドキッとした。


 告白するなら今しかないと思い、彼女の横顔を眺める。

 すると、彼女はどこか寂しそうに光を見つめていた。

 どうしてそんな悲しい顔をするのだろう。

 眩い光を見つめながらも、彼女は何に思いを馳せているのだろう。

 ……そういった不安が、心の隅をよぎっていく。


 俺が見つめていることに気付いたのか、彼女が振り向く頃にはいつもの笑顔に戻っていて……。

 さっき見た表情は気のせいだったのかと、思うことにした。


 こうして俺たちは一夜ずつ、様々な色と光に溢れた光景をふたりで共有して、距離を確実に深めていった。


 これはもう実質付き合っていると言っても過言ではないのでは?

 ……と思うものの、実は相変わらず告白をしてない。

 彼女が見せた寂し気な表情は気のせいではなかった。

 それ以降も景色を見に行くと、時折あの表情を見せる彼女の心境が気になってしまい、そのたびに躊躇してしまうからだった。

 あの表情を見せる理由を、聞くに聞けない。

 だからこそ、一歩踏み出す勇気が持てなかった。


 けれども、俺はこの関係をもっと進展させたくもある。

 付き合っていると言う自覚をもって、もっと彼女に対して積極的になれれば……。

 そうすれば平日にだって、平然と会えるようになるはずだ。

 それに、あの哀愁を帯びた表情の理由を聞くことだって、出来るようになるだろうから。


 そうだ。今度こそ、告白しよう。


 そう思ったとき、タイミングを見計らったようにスマートフォンが鳴った。

 彼女からのメッセージだ。


 俺はまだ、告白の「こ」の字も告げていない。

 しかしタイミングがタイミングなだけに、妙に浮かれた気持ちでメッセージを見る。


 しかし、その内容は、期待とは真逆を行くもので……。


『急な連絡でごめんなさい』


 妙に不安を煽る出だしに、俺の心がざわつく。


 少し間を置いて次に送られたメッセージに、俺は動揺した。


『来月、転勤します』

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