第4話

雨の音に乗せて洗い流すように、私は今日起きた出来事をポツリポツリ……と、ひとつずつ零していく。


 今日はデートだったこと。

 けれどもカフェで、元彼に別れを切り出されたこと。

 ……そして、新しい彼女が迎えに来て、ふたりでどこかに行ってしまったこと。

 もともと彼は、私と合うとつまらなそうにしていたこと……。


 話が終わる頃には雨が止んで、外からの雨音が聞こえなくなっていた。


「彼が君をつまらないと思ったのは、元々性格が合わなかったからだろうね」

「そう……でしょうか。やっぱり私の性格が……」


 可愛くないから……。

 そう思っていたから、バーテンダーさんの次の言葉にハッとさせられた。


「そもそも、性格が合わないってだけでそんな振り方をする人間なんだ。元彼は酷いやつだと思うよ」

「ひどい……でしょうか」

「ああ。一方的に別れを告げただけじゃなくて、これ見よがしにお客さんに新しい彼女を見せるなんてさ。意地悪だよ」

「あ……」

「そのまま付き合っていたって、いつかは悲しい目に合っていたと思う。そんなやつと別れて正解だね」


 バーテンダーさんと話す前までは、私が彼に振られてしまった理由は、私に問題があるからだと思っていた。


「元彼の言動に傷付けられて、どうして振られてしまったんだろうと思い悩む君に、落ち度があったなんて思えない」


 私は平凡な顔立ちだけど、化粧もオシャレも精一杯していて。

 彼との会話も、つまらなさそうにするたびに私は必死に言葉を紡いでいて。

 それでも彼は、私のことをつまらないと言うから……。

 私はだめな女なんだって、振られたときに反射的にそう思い込んでしまった。


 ……だけど。


「だから、本当に単純な話でさ」


 私は、つまらない人間なんかじゃなくて……。


「元彼とは合わなかったんだよ」


 ……ただ、それだけなんだ。


「大丈夫。お客さんに合う人に、きっと明日にでも出会えるはずだよ」


 それはさすがに大げさだと思って、思わず苦笑する。


「それにカフェのお代もお客さん任せだったんでしょう!? まったく、信じられないな」


 私の代わりにバーテンダーさんが怒ってくれて、私の心が救われていく気がする。


「そいつらストロベリームーンを見に行こうって言っていたんだよね? なら今頃びしょ濡れになって、お客さんに意地悪した報いを受けてるよ」

「ふふ……そうですね」


 私はようやく、なんであんな人と付き合っていたんだろう……と思えるようになった。


「うん。表情がよくなったね。少しだけでも吹っ切れたかな?」

「はい。ありがとうございます。飲み物を頂いただけじゃなくて、お話も聞いてくださって……」

「どういたしまして」


 私の手元にあった蒸しタオルはすっかりとぬるくなっていて、ミルクティーも飲み干した頃。

 バーで温もりを取り込んだ私の心までもが、ポカポカしていた。

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