ストロベリームーンのスパイスを、グラスに浮かべて
江東乃かりん(旧:江東のかりん)
第1話
「別れよう」
土曜日のデート中のカフェで……。
スマホを片手にした彼から唐突に切り出された言葉に、私は言葉を失った。
「え、なんで……」
「お前といてもつまんねえんだよ」
前兆はあったかもしれない。
私とふたりきりになると彼はつまらなさそうにしていて、いつもスマホをみてばかり。
けれども……人目につくようなカフェで別れを切り出されるなんて、思いもしなかった。
「じゃあ俺、次予定あるから」
「ちょっと待って!」
引き止めたけれども、彼は目も合わせずにお店を出てしまった。
呆然として視線だけで彼を追いかけると、ガラスを隔てた向こう側で別の女の子に手を振っているところが見えた。
「……デートの日に、他の女の子と合う予定をしていたの?」
きっと今日の彼は元から、私と最後まで付き合うつもりなんてなかったんだ。
開けっ放しの入り口から、彼らの声が聞こえてくる。
「今夜はストロベリームーンって言って、月がピンク色になる日らしいな」
「なにそれ面白そう!」
そんな話題、私にはしてくれなかったのに。
「一緒に見た人と結ばれるらしいのね。一緒に見に行きましょうよ!」
気のせいかもしれないけれども……。
彼女が私をチラッと見て嘲笑っていたように見えた。
「そうだな。眺めのいいところにドライブしにいくか」
元彼と彼の新しい彼女が、腕を組んで去って行く。
あまりにも親し気な様子に、私と彼が付き合っていた間もそう言う関係だったということが見て取れた。
「……」
グラスの中の氷が溶けて、カラン……と音を立てる。
まるで、私の心を打ち砕くように……。
テーブルに置かれたままの彼の飲みかけのアイスコーヒーと伝票が、私への心残りのなさを強く物語っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます