ホシマン

@bibindon0814

第1話(最終話)

   まえがき


 ホシマンという同人ゲームを2024年8月4日から制作している。2025年8月13日完成が目標だ。

 コンセプトは「立方体や球などの基本図形を使い確実に完成させる」だ。

 立方体や球を表示して歩く、ジャンプするなどの基本操作を1か月ほどかけて実装した後、次に何をしてよいかわからなくなった。

 マップに何を表示するか、とかオープニングで表示する文章・イラスト、NPCの見た目やセリフを考えたときに、オープニングからエンディングまでの大筋となるシナリオを書いてみよう、と思った。

「箇条書きでシナリオを少しだけ書いたらまた制作に戻る」というのが正しいかもしれないが、一度エンディングまで書き切ってしまった方がやり易いように感じたので同人小説の形で完成を目指してみることにした。

 基本図形しか登場しない世界だけどストーリーはダークファンタジーをやりたかった。それがうまくいくのかはやったことがないのでわからない。

 目も当てられないような酷いものにならないことを祈る。


 地図

https://www.pixiv.net/artworks/123671124


   『ホシマン』


 あるところにパワーエッグ星という惑星があった。

 パワーエッグ星には海といくつかの大陸、そして無数の島があった。

 その島の中にプロリタン島という島があった。

 プロリタン島の、入り江の木の下で一人の男性が寝ていた。寝ていた男性、ホシマンは浜辺で目を覚ました。

 ホシマンは頭部が星の形をしていた。星の形をしているうえに全身黄色でまさに星という感じであった。

「し、死ぬ・・・」

 かすれ声だった。

 ホシマンはバイクでツーリングを楽しむため船で東のオプティプル島に移動中だった。しかし、格安ツアーだったため台風でも強行された。そして、元からボロボロだった船は亀裂から浸水が起こり、船が傾きやがて転覆してしまった。船が転覆したとき、船体は砕け、ホシマンは船の瓦礫に掴まった。そのあと寝ずに30時間過ごした。

 漂流して30時間後、島の姿が近くに現れた。

 ホシマンは無我夢中になり、瓦礫をオールにして島まで漕ぎ、島にたどり着くと浜辺に倒れこんだ。そして、そのまま意識を失った。


 数時間後、夕方になりホシマンは全身の痛みによって目を覚ました。体験したことのない疲労と喉の渇き、頭痛、肌の痛みがホシマンを襲った。

(人・・・だれか・・・)

 ホシマンは瓦礫に乗ってこの島にやってきたときのことを思い出した。

(倒れる前に少しだけ見たけど、人がいる雰囲気じゃなかった)

 そう思うとホシマンはますます具合が悪くなった。

(みず・・・みず・・・)

 ホシマンは意識もうろうとしながら水を求めて歩いた。幸い、先日の台風のおかげで岩のくぼみに雨水が溜まっていた。

(大丈夫か・・・これ・・・)

 ホシマンは水道水やペットボトル飲料のような処理された水しか飲んだことがなかった。

(今あるのはスマホと家のカギと、今着てる服だけか)

 スマホは電源が入らなくなっていた。ホシマンは周りを見渡してみた。

(・・・)

 ホシマンから100メートルくらい離れたところに空飛ぶ円盤が見えた。円盤は地面から1メートルくらいの高さで移動していた。

(遠くてよく見えないな・・・)

 ホシマンは飛行物体が気になったが、それより今は目の前の水が最優先だった。

(煮沸とかする道具ないし、もう限界だ)

 ホシマンは雨水に鼻を近づけた。

(う・・・川の匂いがする・・・)

 ホシマンは顔を水につけ直接飲んだ。

(変な味がする気がする・・・。けど、それがいいのか悪いのかわからない・・・)

 飲んだ直後はそれほどでなかったが、時間が経つと塩辛さがやってきた。

(うぐ・・・しょっぱい・・・これは逆効果なのでは・・・)

 しかし、少し水を飲んだ程度では飲み足りず、ホシマンは周りにある雨水をすべて飲んだ。そのあとで先ほどの飛行物体の方を見たが見当たらなかった。

(波に光が反射していたのかもしれない・・・)


(い・・・痛い・・・)

 その後、座って休むと早速腹痛に襲われ下痢をした。それでも、雨水を飲む前より喉の渇きはマシになっていた。

(頭も痛い・・・。しかし少しは動けそうだ)

 海の反対側は森になっていた。森は人の手が入っていない状態であったが人が歩く程度の隙間はあった。

 植物が生い茂っているが、どれが食べられるものなのか、ホシマンには全く分からなかった。

 パワーエッグ星の空は暗く赤みがかっている。パワーエッグ星の恒星の寿命が近く弱いためだ。植物は恒星の方向に生えており、葉っぱは黒い。パワーエッグ星は地軸が傾いていてプロリタン島はずっと夕方かずっと夜であった。

(何か食べるもの・・・。死んでしまう・・・)

 ホシマンは適当に葉っぱをちぎって口に入れた。

(・・・。うっ! ぐぇえ!)

「はぁっ・・・は?」

 口の中の葉っぱを吐き出したとき、視界に不思議なものが映った。

 巨大な立方体が置かれていた。緑色で一辺が1メートルくらいあり、みずみずしさがあった。

(岩という感じではない・・・なんだあれは・・・)

 ホシマンが歩いていくと立方体はグルン、と回転した。

「!?」

(何かしてしまったか?)

 立方体は跳ねながらこちらの方にゆっくり進んできた。

(!!)

 ホシマンは疲労のためその場で固まっていた。

<ドーン ドーン>

 立方体は体が大きいためすぐに木に引っかかって進めなくなった。しかし、それでも立方体は関係なく壁に向かい続け、木はバリバリと音を立てながら倒れ始めていた。

(木に当たり続けるところがロボットのようだ・・・)

 ホシマンは急いで逃げた。


(意識がもうろうとしていたから気づかなかったが・・・、周りをよく見ると化け物はそこら中にいるな。・・・近づかなければ、石のようにじっとしてる・・・)

 目が見えていないのか、ある程度まで近づかなければ無害だった。

(・・・?)

 足元にドングリが転がっていることに気が付いた。視界には入っていたが見過ごしていた。

(そうだ、ドングリは食べられるはずだ。イクリプスで・・・。ドングリは食べられる物と食べられない物があって食べられる物の場合、そのままでも食べることができたはずだ)

 イクリプスという、ホシマンの住んでいた国で有名な動画配信サイトがありそこで見た動画の中にドングリを食べる動画があった。

 ホシマンはドングリを石で叩き割り、中身を取り出して口の中に入れてみた。

(よかった・・・。渋いけど、吐き出すほどじゃない)

 これまでお店で売っている食べ物しか食べたことのないホシマンにとって大丈夫そうと思っても、飲み込むのは勇気が必要だった。一つ目を飲み込んだ後、ホシマンは食べられなくなるまで食べ続けた。

(はぁ・・・た・・・たすかった・・・。休もう・・・)

 空腹が満たされたホシマンはその場で倒れこんで寝た。


 ホシマンは実家の自分の部屋でテレビを見ていた。

 一人でテレビを見ているつもりだったが、隣を見ると女性が座っていた。ホシマンがよく知っている女性だった。女性もテレビの方を見ていた。顔はよく見えなかった。ホシマンは安堵して話しかけた。

「あぁ・・・よかった。オプティプル島に行こうとしてたんだった。船が沈んじゃってダメだったけど、チケットが返品されてまた行けることになったんだ」

「・・・えぇ? うん・・・」

 女性の返事は曖昧だった。

「台風なんじゃなかったっけ・・?」

「あ・・・、また台風なんだっけ。じゃあ・・・今週末に行くのは、諦めるか・・・」

(・・・いつ行けるんだろう・・・)

「船に乗り込んでください」

 突然アナウンスが流れた。

(行かないと・・・)

 ホシマンが立ち上がると部屋は自分一人だった。

(しまった。ヒシガタマンは先に行ってるんだった。くそ・・・足をケガしてたんだった・・・急がないと乗り遅れる・・・)

 足が思うように動かず、なかなか前に進めなかった。ホシマンはアナウンスにむかって「今行くから待ってて」と言おうとした。しかし、顎や舌に力が入らず、うまく声が出せなかった。


 ホシマンは目を覚ました。空は真っ暗だった。海の方が少しだけ明るくなっていた。

(あぁ・・・そうだ。無人島に来てるんだった・・・。夕方なのか? いや朝方なのか? 全身が痛い・・・)

 日焼けと筋肉痛でホシマンの体はボロボロだった。ホシマンは気力を振り絞って立ち上がった。

(みず・・・)

 ホシマンは海の方を見た。

(昨日は岩場に雨水が貯まってたけど、いつでもあるわけじゃない・・・。何か考えないと・・・。

 ・・・。

 川を探してみよう)

 ホシマンは周囲を見渡すが川は見当たらなかった。

(谷になっているところに川がある・・・のかもしれない)

 ホシマンが山の方を見ると谷になっているところがあった。ドングリをポケットに入れて、谷に向かって歩き出した。


 立方体状のモンスターに注意しながら、歩いて座って歩いてを繰り返し3時間くらい経過したころ、ホシマンは疲労で歩けなくなっていた。

 座り込んで動けなくなっていたところ、ホシマンは遠くに動くものを見つけた。注意深く見てみると子供が二人いるようだった。

(あれもモンスターじゃないだろうな・・・)

「おーい」

 ホシマンは手を振って子供たちの方に向かった。子供たちはその場に座ったまま、ひそひそ話していた。

 近づいてみると、片方の子供は頭の形が二等辺三角形でもう片方は平行四辺形だった。

「君たちも、一昨日沈没した船に乗っていた乗客かい?」

「・・・」

 子供たちは頷いた。

「水とか食べ物とかは?」

「・・・」

 子供たちはお互いの顔を見た。

「何も食べてないし飲んでない」

 子供の一人が答えた。

「じゃあ、このドングリあげるよ。水は私も探してるところだ」

 子供たちは興味津々でドングリを覗き込みホシマンから受け取った。

「ありがとうございます」

 ホシマンは石でドングリを割って見せた。

「サバイバルは詳しくないけど、さっき自分もこうやって食べて大丈夫だったから、おそらく大丈夫だろう」

 三人でドングリを割って子供達が食べた。

「私はホシマン。君たちは?」

「シカクマン。こっちは、サンカクマン」

 頭が平行四辺形の子供はシカクマン、三角形の子供はサンカクマンと言うらしい。ドングリを割って子供たちに食べさせながら3人は話した。

「君たちは知り合い?」

「うーうん。さっき知り合った」

「ここに来る途中、妙な生物がいたんだけど君たちも見た?」

「うん」

「どうだった? 私のときは『近寄らなければ動かない』だったから近寄らないようにしてきたが」

「俺たちも同じ」

「そうか。私はこれから水を探しに行くけど、危ないから君たちは連れていけない」

「うん」

 ホシマンの体力は尽きかけていて、水を見つけるのに失敗すれば死ぬしかなさそうだった。そして、ホシマンが戻ってくるのを子供たちがここで待ち続けると共倒れになりそうだった。

「水を見つけたらここに戻ってくるつもりだけど、戻ってこれるかわからない」

「うん」

「これを目印にしよう」

 ホシマンは近くの大きな岩を指さした。

「わかった」

 子供たちは返事をした。ホシマンは谷の方に歩いて行った。


 ホシマンが1時間ほど歩くと川を見つけた。

(う・・・)

 川は流れが止まっていて、黄土色だった。そして川の近くにはコンクリート製の廃墟があった。

 ホシマンは廃墟が気になったがまずは川の方に歩いて行った。

(すごく濁ってるし臭い・・・飲んだら今より体の水分が減るだろう・・・。どうしよう)

 ホシマンは山の方を見た。

(上流に行ったら川が透明かもしれない)

 山ははるか遠くまで続いていた。

(とても遠い・・・。何か別の方法はないか。仮に山頂付近できれいな川を見つけても子供たちに飲ませるのは難しいだろう)

 ホシマンは廃墟の方を見た。

(廃墟の中を探してみよう)

 廃墟は村役場だった。隅々まで探索したが建物が相当古く食料は見つからなかった。

「おーい」

 ホシマンが廃墟を出ようとしたとき、どこかから声がした。

「ヘールプ・・・」

 ホシマンは声のする方へ恐る恐る進んでいった。声のする方をのぞき込むと頭が台形の男が寝そべっていた。

「助けてくれ・・・」

 男は今にも死にそうであった。ホシマンは重い体を引きずりながら近寄っていく。

「大丈夫ですか」

「何か食べ物・・・」

 男は全身あざと出血でぼろぼろだった。そして両方の足が通常の3倍くらいの大きさになっていた。

「両足が折れた・・・。高いところから落ちて・・・。落とされて・・・」

 男は声を出すだけでも大変そうだった。

「私も・・・今はなくて・・・、すまない。それでもドングリの木がある場所を知ってるから持ってこれる。数時間だけ持ちこたえることはできるか?」

「あぁ」

「はぁ・・・はぁ・・・その前に・・・すまない・・・水はないか?」

「海の方にココナッツの木がある。ぐ・・・あれなら・・・水分にも食材にもなる」

「わかった・・・」

「頼む・・・」

 ホシマンはヨロヨロと外に歩いて行った。


(・・・!)

 青い球状の物体の姿があった。

(立方体のモンスター・・・の、仲間だろうな・・・。あのデカさ・・・近づかないでおこう)

 球状のモンスターは立方体のモンスター同様に1メートルくらいの大きさがあった。立方体ほどではないがこちらも数百キログラムくらいの重さがありそうだった。

(一辺が50センチの球の体積ってどうやって求めるんだっけ・・・忘れた・・・)

 ホシマンが歩き続けると、ココナッツの木が遠くに見えた。

(やったぞ・・・)

 ホシマンはココナッツの木のところまできた。

(地面に実がいくつか落ちてる)

 台風でココナッツの実が地面に散乱していた。

(ココナッツの木はこんなに大きいのか。木についてる実を取るのは難しそうだ)

 ホシマンはココナッツの木を見上げた。

(ココナッツとヤシって何が違うんだろう・・・。インターネットないからわからない・・・。くそ・・・腕に力が入らない・・・)

 ココナッツの実を岩にたたきつけると中から液体が漏れた。

(一つだけ・・・)

 ホシマンはココナッツの中身を飲んだ。男が言っていた通り、中には白い可食部があった。

(白いのは動画で見たことがある・・・。ココナッツをあの人のところに持って行ってあげよう)

 持ち運べるココナッツは二つが限界だった。

(なんでもいいから袋状のものが欲しい。一度に2個ずつしか運べないのでは不便すぎる)

 ホシマンは、二つのココナッツをもって廃墟に戻った。ホシマンはココナッツを割って男に渡した。

「ありがとう」

「もっと持ってくる。待っていてくれ」

 ホシマンは廃墟で袋を見つけもう一度ココナッツの木の場所に行った。何往復かして20個ほどココナッツを持ってきた。

「たすかった・・・」

 ホシマンはつぶやいた。

「ほんとだよ」

 男は笑って見せるが終始、苦痛に耐えている表情だった。

(痛そうだ・・・)

「あいつらに襲われて、斜面を転げ落ちることになったんだ。見ただろ? あのへんな奴ら」

「ああ。あの・・・外にウジャウジャいる、あのモンスターはなんなんだ? あんな生物、聞いたこともない」

「俺もわからない・・・。あの生物、ものすごい密度でいるだろ? 俺、思うんだけど、あれっておかしいんだ」

「・・・?」

「シマウマ一匹に必要な草原の面積とかって昔学校で習わなかったか?」

「習ったかもしれない・・・」

「あの密度であの大きさの動物がいたらこの島が砂漠になって絶滅してるはずなんだ」

「・・・」

「この世界の生き物じゃないのかもな。あいつら何も食べてないだろ」

「・・・」

(匂いやみずみずしさがあって生命のように見えたが、動きはラジコンみたいだったな)

 ホシマンは子供たちのことを思い出した。

「実は子供を二人、山の中で待たせている・・・。ここに連れてきてもいいか」

「え・・・。それは・・・」

「ここから離れた部屋を使う。頼む」

「・・・う、うーん・・・それなら・・・まあいいか」

「じゃあ、ちょっと行ってくる。自分はホシマンだ」

「お、おう。俺はダイケイマン。この島には、あのモンスター以外にも何かいる。気を付けて」

「ああ。ありがとう」

 ホシマンは食べ終わった後、子供たちの方へ向けて出発した。


 ホシマンは、子供たちとの待ち合わせの際に目印としていた岩に向かった。立方体のモンスターは相変わらず大量に存在しており、近づかないように気を付けて進んだ。しかし、森の中の岩を見つけることはできなかった。

(やっぱり・・・バカだった・・・。森であんなもの見つけられるわけがない・・・)

(・・・!?)

 ホシマンのすぐ近くに円盤状の物体が迫ってきていた。ホシマンは飛び跳ねて距離をとった。

(あいつ、前に見たことがある・・・。浮いてるのかと思ったが、細い足が生えてる)

<ボン>

(!?)

 ホシマンは避けようとして地面に転がった。

(何か飛ばしてきた・・・!)

 目のような黒い部分が打ち出されホシマンの二の腕に当たった。

(・・・)

 二の腕のほうを見ると赤くなっていた。ホシマンは危険を感じ走って逃げた。

(人が思い切り投げた石くらいの威力だった。下手したら死ぬ・・・!)


 モンスターから逃げた後、ホシマンはドングリを拾いながら目印の岩を探し続けた。

 一日、森の中で迷いに迷い続け、ついに目印の岩を発見した。

(これだ・・・! 間違いない!)

「おーい!! だれかー!」

 ホシマンは大声を出したが反応はなかった。

(時間帯とかも指定しておくべきだったのか? さすがにもう死んでしまったか・・・)

 水も食料もなく、モンスターが異常に密集した森であったため生きていると考える方が無理があった。

(いや・・・まだあきらめられない。

 ・・・火を起こして煙を出してみよう)

 ホシマンは山火事にならないように近くの開けた場所に移動した。

(火おこしは動画では見たことがあるがやったことはないな)

 1時間くらい木の枝をこすり続けて着火することに成功した。

(手がすごく痛い・・・)

 ホシマンの手は傷だらけになっていた。

 ホシマンは火を大きくしていき焚火した。それから山の方に向かって大声を出し続けた。

「おーい! サンカクマーン!! シカクマーン!!」

 4時間経過し夕方になったころ、子供たちの声が遠くからした。

(よかった・・・! 生きてた・・!)

「ココナッツの実を見つけたんだ。飲んでいいよ」

「うん・・・」

 ホシマンはココナッツの実を袋から取り出し、割って子供たちにあげた。

「今までどこでいたんだい?」

「あっちでドングリ食べてた」

「なるほど。水は?」

「白い人がくれた」

「・・・? 白い人・・・?」

「わかんない」

「そうか・・・。 

 向こうにココナッツの木が生えてるところがある。そっちに行こう」

「うん」

 3人はココナッツの木に向かった。

「白い人がねー、来たんだよ」

 サンカクマンがホシマンに話した。

「なんかさー、一言もしゃべんなかったんだよね。竹おいてどっか行った。竹に水が入ってたんだよー」

「妖精か・・・もしくは幽霊か・・・」

「あはは」

「君たち。これから行くところなんだけど、ココナッツの木があるところは、緑の立方体のモンスターや円盤状ののモンスターと違うモンスターがいるんだ」

「うん」

「青くてでかい玉みたいなモンスターだ、近づかないように気を付けること。青い奴も近づかなければ動かない」

 ホシマンたちが歩き続けると途中に廃墟が見えてきた。

(前来たときは気づかなかったけど、入口に「プレシジョン」と書いてあったのか)

 ホシマンは子供たちの方を向いて、廃墟を指さした。

「あれがさっき言ってた建物」

「ほー」

「あの中にさっき話した人がいる。ココナッツの木のところに行った後、会いに行こう」

「はーい」

 3人はプレシジョンの前を通って、ココナッツの木の方に行った。


 ホシマンたちはココナッツの木が生えている海岸に到着した。

「こうやるといい」

 ホシマンはココナッツを一つ拾って岩に叩きつけた。ココナッツから液体がこぼれ、ホシマンはそれを飲んで見せた。

「それと、この中に白い部分がある。これは食べられるもののはずだ」

 ホシマンはココナッツを割り、中身を見せた。

「へー」

 それから3人はココナッツの実を食べ続けた。落ちているココナッツの実は残りわずかとなった。

「木の上にまだまだあるね」

 サンカクマンが言った。

「あれが頭に落ちてきて死ぬ人が沢山いるらしい」

 ホシマンはココナッツの木の上の方を指さした。

「あははは」

(木の上のココナッツをとる方法を考えないとだな)

 食べながら3人は話した。

「仮に、木についてるココナッツを取れるようになっても、ココナッツだけで水分をとっていたら、いつかはココナッツがなくなるだろう。そうなる前に別の手段を探す必要がある」

「えー大丈夫だよー」

「えーそうかなー」

(!)

 20メートルくらいある岩の上に人が座っていた。

 ホシマンは座っている人の方を見て少し様子がおかしいことに気づいた。全身が白く無表情で、微動だにせずこちらを見つめていた。

(何だあいつは・・・)

 ホシマンは数時間前に子供たちに聞いた白い人のことを思い出す。子供たちに小声で聞いた。

「君たち。岩の上にひとがいるんだけど見えるかい?」

「あ!」

「前にあった人と同じ人?」

「うん」

「おーい!」

 サンカクマンが声をかけた。手を振って白い人に向かって歩いていく。ホシマンたちも歩いて行った。岩の下に到着し、サンカクマンが白い人に声をかける。

「そこでなにしてるのー!」

(どうやってあそこに登ったんだ・・・?)

 声をかけ続けたが白い人はこちらをずっと見つめて動かなかった。

(モンスターと似た雰囲気を感じる・・・)

 そして微動だにしないまま5分が経過した。

「よく分からないが気味が悪いから帰ろう・・・」

「うん・・・」

 3人は廃墟の方に向かっていった。


 ホシマンたちは廃墟にやってきた。

「お邪魔する。ホシマンだ」

 ホシマンたちはダイケイマンの部屋に歩いて行った。

「ごめんください」

 部屋の中から、物音がした。

「お、おーう」

 部屋をのぞくとダイケイマンが起き上がったところだった。歯を食いしばっていて痛そうだった。

「横になってていい」

「いや、いい。」

「・・・。

 この子たちが前に話した子供たちだ」

「よ、よろしく・・・」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「よかったらどうぞ」

 ホシマンたちはココナッツの実をダイケイマンに渡した。

「はい、どうもどうも」

 ホシマンたちは挨拶をすませると別の部屋に移動した。部屋はゴミと埃まみれだったが、掃除をする体力・気力は残っていなかった。

「一度休もう・・・。今日はもう無理だ」

 ホシマンたちは一度、寝ることにした。


 ホシマンは喉、鼻、頭が痛くて目が覚めた。さらに全身が痛く、しばらく起き上がれなかった。子供たちは座って何か話していた。

(よく起きられるな・・・)

 ホシマンは1時間半くらいして起き上がった。円盤状のモンスターにやられた腕に激痛が走る。

(ぐ・・・腕が・・・)

 ホシマンはケガをしている左腕を反対の腕で掴んでゆっくりと動かした。

(胸が苦しい・・・。ココナッツとドングリしか食べてないからか・・・? 野菜っぽいものも探さないと・・・)

 外は危険なためホシマンが一人で出かけることにした。

「私はドングリを拾ってくる。外は危ないから留守番しててくれ。たまにダイケイマンの様子をみてほしい。

 あ。あと、掃除しておいてくれると助かる」

「うん」

「はーい」

(子供がやる掃除だ・・・あまり期待しないでおこう・・・)

 ホシマンはダイケイマンの部屋の前に行った。

「またドングリ拾ってくる。子供達には留守番して掃除をするように言った」

「ぐ・・・あぁ・・・。頑張ってな」


(頭が痛い・・・。鼻も痛い・・・。足の裏が痛い・・・)

 何度も座って歩いてを繰り返していた。

 ホシマンは座って左腕を見てみた。腕は赤黒くなっていた。

(見た目ほどは痛くないな)

 鳥の鳴く声がひっきりなしにしていた。

(鳥を捕まえて食べられたら良いが、捕まえられっこない。鳥の巣から卵が取れれば取りたいが・・・。

 鳥の巣なんて生きてきて一度も見つけたことない・・・)

 ホシマンは上を見上げ、ドングリの木を探した。

(おそらく・・・。ドングリが拾えるのは一年中じゃないだろうから、いずれ別の食材探さないといけないだろう。ドングリの消費期限はどれくらいだろう。保存がききそうではある)

(!!)

 ホシマンは「ドン!」という衝撃を受けた。急いで見渡すとホシマンの体が燃えていた。

「うっ・・・!」

 ホシマンは訳も分からず地面を転がりまわった。しかし転がっても土をかけても炎はなかなか消えなかった。やがてひとりでに炎は消えた。

 重度のやけどを負ってしまった。体から煙が上がっている。ホシマンは状況が掴めなかったが、もう助からないだろう予感がしていた。

(!?)

 周りを見ると半透明で人型の物体がゆっくりと近づいてきていた。

「なんだ・・・?!」

 その人型の物体は木や岩を貫通してこちらに向かってきていた。

 ホシマンは逃げようとしたが数歩歩くのが精いっぱいだった。すぐに体力が尽き膝をついた。

 後ろを振り返ると幽霊はゆっくりとこちらに近づいてきていた。

 幽霊はこちらに手を伸ばした。何かをしてきそうな気配だったが、もはや動くことすらできなかった。幽霊の手から炎が出現し、幽霊が手を振るとホシマンのほうに飛んできた。

 ホシマンは避けられず、炎で全身を焼かれた。

 ホシマンは倒れ一ミリも動けなくなった。

(これで終わりか・・・)

 ホシマンは目を瞑った。暗闇の中で自分の心臓の音だけが聞こえていた。

 ホシマンは退職前の会社での出来事を思い出していた。

(私は・・・何をやってもダメだった・・・結局、何者にもなれなかった・・・)


<ズゥウウウウウン>

(!?)

 ホシマンの目の前に黒い渦が重低音とともに現れた。そしてその黒い渦から、顔が動物の頭蓋骨の人?が出てきた。頭蓋骨からは大きな角が生えていた。

 新たなモンスター?の出現に、ホシマンは逃げたかったが体は動かせなかった。

 角の生えた人?は手を差し出した。

「手短に。

 私と契約すれば、助かるし、絶大な力を手に入れることができる。ただし、1年後に死ぬ。どうだ?」

(?)

「私と契約すれば、助かるし、絶大な力を手に入れることができる。ただし、1年後に死ぬ。どうだ?」

 幽霊が近づいてきていた。

「あいつは・・・何だ・・・」

 ホシマンは声を絞り出した。

「昔この島に住んでいた人間の亡霊だ」

「契約・・・したら、こ・・・この火傷も治るのか・・・?」

「治る」

「・・・。

 契約する」

「契約成立だ」

 角の生えた人は小瓶を二つ取り出した。

「これはワードブレス。これを飲むと、死んでもここで生き返られる」

「火傷は・・・?」

「飲んだだけでは治らない・・・。生き返ったときに治る」

(一回死ぬ必要があるのか・・・)

「安心しろ。正確には死ぬ一歩手前になったら、体が元通りになってここに戻される。本当に死んだときはダメ。

 それと、生き返れるのはワードブレス1本で1回まで」

「とりあえず・・・一本飲む・・・」

 角の生えた人はうなずいた。

「・・・。

 飲ませてあげようか?」

「たのむ・・・」

 角の生えた人はワードブレスを開け、ホシマンの口の中に注いだ。ホシマンは最後の力を振り絞って液体を飲み込んだ。体の中に何かが宿ったのを感じた。

「あと、これからお前は魔法が使えるようになる。炎、氷、そして闇の魔法だ。あの亡霊は闇の魔法でのみ攻撃できる。

 このように」

 角の生えた人は手のひらを亡霊の方に向けた。黒い炎が亡霊の方に向かっていき、そして亡霊に直撃した。黒い炎は砕けて飛び散った。亡霊は苦しむ姿を見せ、やがて消えた。

 角の生えた人はホシマンの方を見て、少し静止した後、手のひらに氷の槍を作った。

「・・・。

 苦しまずに生き返らせてあげようか・・・?」

(・・・。

 どうせもう助からない・・・。この苦しみが続くなら・・・。)

 ホシマンには返事をする体力も残っていなかった。小さくうなずいた。

<ドン! ドン!>

 氷の槍がホシマンの首と胸を貫いた。

 ホシマンは地面に倒れた。そして、目が開いたまま瞬きしなくなった。


 ホシマンは目を覚ました。

 目の前には氷の槍が落ちていた。氷の槍は自分の体を貫通していた部分だけなくなっていた。

 目の前には角の生えた人がいた。

(夢じゃない・・・)

 ホシマンは自分の体の状態を確認した。

(一応、本当に全部治っている)

「あ、ありがとう」

「どうも」

 ホシマンの手にはもう一本未開封のワードブレスがあった。

(・・・。これって今すぐ飲んだ方がいいのか?)

「小瓶を飲んでから何か月も経って、それから死んでも効果はあるか?」

「ある。でも今飲むと生き返る場所がここになる」

「なるほど。飲む場所は慎重に選ぶ必要があるな・・・。これはほかの人に飲ませてもいいか?」

「良いが、効果があるのは契約した人だけだ」

「・・・」

 ホシマンはワードブレスを見つめる。

(この最後の一本を大事にしないと・・・)

「以前、島民に1000個くらいあげた。使われてないワードブレスが、多少は残っているだろう」

「ほう・・・」

「細かい話になるが・・・。1度に二本飲んでも1度しか効果はない」

「・・・」

「それと、頭が吹き飛んでも生き返れる。ただし、その場合、技術・記憶は復元されない。自分が誰かもわからないし、スマホの操作もできないし、言葉もわからない」

「・・・なるほど」

「以上だ」

 角の生えた人は黒い渦を出現させ、帰ろうとする。

「・・・ありがとう」

「どうも」

「なぜ助けた?」

「契約が欲しいからだ。一年で死ぬ契約をしてくれる人はそうそういない。必然的に死にかけの人の前に現れることになる」

「なるほど」

「・・・。

 言っておくが、さっきの亡霊は私とグルではないからな」

「あ、あぁ」

(確認しようがないけど・・・)

「・・・ではさらばだ」

 角の生えた人は黒い渦の中に帰って行った。

 ホシマンはドングリが生えていた森林の方へ歩いて行った。

(・・・あと1年の命か・・・)

 肉体は全快したが、ホシマンは何もする気がなくなった。倒木に座り、27年の人生を思い返してみることにした。

(私の人生、これで終わりか・・・。

 ・・・。

 この1年の間でやりたいこと・・・)

 ホシマンは、ダイケイマンたちを島から脱出させてあげたいと思った。善意ではなく、消去法でそれくらいしかなかった。脱出に向けて、炎や氷の魔法を確かめてみることにした。

(どうやって出すんだ・・・?)

 手から炎が出る様をイメージすると手から炎が出た。

(え・・・うわ・・・うわっ)

「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」

 魔法を使うと全力で走るのと同じくらい疲れるのをホシマンは感じた。しかも、手から出た炎はろうそくの炎くらいの弱さだった。

(これだけ体力を使って、この程度なら殴ったほうが早い・・・)

 体力・筋力と連動していて、使うほど疲れ、使うほど強くなっていくような感覚があった。

(他のも試してみよう・・・)

 氷をイメージすると、手から小さい氷が出た。闇の炎をイメージすると黒い炎がでた。

(見たことのない見た目だ。ひとまずどういうものかは分かった)

 ホシマンはドングリ集めを再開することにした。

(相変わらず立方体のモンスターばかりだ。今までは立って歩くだけで精いっぱいだったが今は体力が全快している。一度ここで戦ってみるのもありか? これから戦わないといけない状況があるかもしれない)

 ホシマンはゆっくりと近づき、石を投げてみた。

 モンスターは石がぶつかっても反応しなかった。モンスターは数百キログラムのゼリー状の物体であり、小石を投げた程度ではダメージがなさそうだった。

(重い石をぶつけてみたいが跳ね返ってきそうで怖いな・・・)

 ホシマンは少し考えて、攻略法を思いついた。

 ホシマンはモンスターを段差に誘導した。段差は2メートルありモンスターはジャンプするだけになった。

 まっすぐにしか向かってこないので高いところにいれば近くから一方的に攻撃できた。

 ホシマンが段差を利用し岩を落とし続けるとモンスターの体は徐々に破壊され崩れていった。

 やがてモンスターは動かなくなった。

(・・・)

 ホシマンはモンスターの元へ行き調べてみた。ゼラチンのような触感で、つつくとブルンと揺れた。

(自然のものではない匂いがする。触ると危険な雰囲気だ・・・)

 一部を葉っぱでくるんで持って帰ってみることにした。


 ホシマンはドングリを集め廃墟プレシジョンに向かった。

 帰っている間に空が暗くなっていた。ホシマンは早速、火を出す魔法を使い焚火をした。そこから先端が燃えている木の棒を作った。

 プレシジョンの前でホシマンは立ち止った。

(余命1年という話をしないといけないな・・・)

 ホシマンはプレシジョンの中へ入っていった。


「こんばんは」

 ホシマンはダイケイマンに挨拶した。

「お、おぅ。いいもん持ってるじゃん(笑)」

 先端が燃えている木の棒を見てダイケイマンは言った。

「どうも。ドングリを持ってきた。あと話があるので子供たちを連れてきていいか?」

「お・・・おう・・・」

「じゃあ・・・、さきにまずはこれを・・・」

 ホシマンは、袋からドングリを出してダイケイマンの近くに置いた。そのあと、ホシマンは自分の部屋に行った。

「おぉ・・・」

 部屋は綺麗になっていた。

「君たち、よくやった。期待以上の成果だ」

「いぇーい」

 3人はハイタッチした。

「ちょっと話があるからダイケイマンのところに来てくれ」

「うん」

 3人はダイケイマンの部屋に集まった。

「・・・。今日、私は悪魔と契約した。

 契約しなければ死んでいた。契約するしかなかった。一度、死から蘇った代わりに1年後に死ぬ契約だ」

「は・・・はぁ」

 ダイケイマンたちは突然の話に理解が追い付かなかった。

「モンスターに襲われて、死ぬことになったとき、角の生えた人が現れて契約を勧められた。受けるしかなかった。」

 ホシマンは手から炎を出した。

「悪魔と契約した証拠に、魔法が使える」

「・・・」

「一年以内にこの島から脱出することを目標にしたいと思う」

「え・・・いや・・・、そんなことあるわけ・・・」

 ダイケイマンはすぐには呑み込めなかったが、子供たちは反対に即座に受け入れていた。

 その後、ドングリを食べながら、角の生えた人、亡霊、魔法、小瓶のことを話した。

「そうだ。モンスターの一部をもってきてみた」

 ホシマンは葉っぱを取り出し、開いた。皆覗き込んだ。

「工場の匂いがする・・・病気になりそうだ・・・」

 3人とも顔をしかめた。

「明日、私はドングリ探しながら、周りに島がないか探してみる」

「わかった。俺は・・・すまんができることはない・・・」

「大丈夫、気にしないでくれ。サンカクマンとシカクマンにはココナッツを集めてもらおうかな」

「うん」

「石をココナッツの実に投げて、落として、それを集めてくれ」

「はーい」

「くれぐれも気をつけること」

「よく頭に当たるんでしょ(笑)」

「・・・」


 翌日、ホシマンは子供たちと、ココナッツの木が生えている海岸へ行った。

(・・・うーん)

 ホシマンは海の向こう側に島がないか探した。しかし水平線にあるのは空と海だけであり、それ以外何もなかった。

 子供たちと別れ、ホシマンは時計回りに海岸を歩いて行った。

 島は全体的に山であったため、海の向こうを確認するには山頂へ行くか、海岸を一周するしかなかった。

 歩いていると南国風の木が生えており、赤い果実が沢山ついていた。

(この木は見たことがある。木というかでかい草というか・・・。実からは果物っぽい匂いがする・・・)

 ホシマンは少しかじってみた。

(よくわからない・・・。未知の味だ・・・)

 ホシマンは袋に実を入れた。そして今日はこれで廃墟に戻ることにした。

(あぁ・・・やばい・・・失敗した)

 歩いている途中、猛烈な腹痛に襲われ、嘔吐し始めた。苦痛により脂汗が顔面を覆う。

(死・・・死ぬ・・・)

 指や足に力が入らないことに気づいた。手が震え、目や頭に激痛が走る。ついにホシマンは立っていることができなくなり横になろうとし、そのまま倒れた。

(ワードブレスを飲むか・・・? 昨日死んだばかりなのに・・・もう最後の一本を使うのか? それはいやだ・・・)


 3時間後。

 ホシマンは倒れたあと3時間立ち上がれなかった。ワードブレスは飲まなかった。少し回復したホシマンは廃墟まで歯を食いしばって歩いていった。廃墟にたどり着くとホシマンは倒れた。

 サンカクマンがこちらにやってきた。

「どうしたの?」

「・・・毒・・・」

「え?」

「これ食べたら・・・毒・・・」

「・・・」

 サンカクマンは赤い実をまじまじと見た。

「水・・・」

「水? わかった!」

 サンカクマンはシカクマンと二人でココナッツを持ってきた。ホシマンはココナッツウォーターを飲んだあと、サンカクマンたちに連れられダイケイマンの部屋に移動した。

「大丈夫か・・・?」

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・もう一口食べてたら死んでいた・・・」

「いきなり一口食べるんじゃなくて、ちょっとずつ試すんじゃないっけ?」

 ダイケイマンが言った。

「はぁっ・・・・はぁ・・・あぁ・・・ネットで見たことあるかもしれない・・・」

「汁を肌につけてみて、唇に当ててみて、米粒1つ分くらいだけ食べて・・・とかやるんでしょ?」

「そうだ・・・そういうのをなんていうんだったか・・・」

「忘れた・・・」

「その・・・ちょっとずつ検査する奴をやろう・・・私たちは、みんな野草とかわからないし・・・」

「あ・・・水に1週間浸しておくと食べれるようになる奴とかあるよね」

「あぁ・・・聞いたことある」

 ダイケイマンはさっきの赤い果物で試してみないか、を聞いてみようと思ったが苦しむホシマンをみてやめた。


 翌朝。

 ホシマンは朝まで、嘔吐と下痢を繰り返した結果、細くなっていた。

(マシになった・・・・。家の近くを歩くくらいならできそうだ)

 サンカクマンたちの部屋に行くとココナッツが沢山あった。

「昨日はありがとう。

 ココナッツの実が沢山あるね。これは全部石投げて落としたのかい?」

「途中で石投げるのやめて木の枝で直接実を叩いたら簡単に落とせた」

「ほう」

(賢いな・・・)

「昨日ダイケイマンが言っていた、水に一週間浸す方法をやってみたい。夕方に持ってくるからその時は手伝ってくれ」

「う、うん」

 ホシマンは昨日の赤い実を取りに行った。


 ホシマンは袋に赤い実を詰めて持ち帰ってきた。4人はダイケイマンの部屋に集まっていた。ホシマンは赤い実とツタを床に置いた。

「赤い実を包丁でスライスして、袋に入れて、川の水につける、という予定だったが・・・。

 包丁も袋もない。石で叩けば実を潰せるから、包丁はなくてもいいだろう」

 ホシマンは床に置いたツタを指さした。

「これで袋を作ってみよう」

「えーそんなのわかんないよー」

 サンカクマンは言った。

「私もやったことはない。とりあえず実が流れて行かない袋状のものが作れればいいんだ。とにかくやってみよう」

 4人の中に編み物をやったことがある人はいなかった。

 ダイケイマンはツタを縦に5本並べた。次に横から、上下上下上と交差させた。そして、もう一度横から、今度はした下上下上下と交差させた。これを繰り返すとザルっぽい見た目になった。

 赤い実を潰して、ザルに入れ、ツタでぐるぐる巻きにすると袋っぽくなった。

「これを川にさらすわけだが・・・魚が全滅しないかな」

 ホシマンはぼやいた。

「ありえない話じゃないな」

「弓矢とか作った時に先に塗ったりしてもいいかもね」

 袋を川に持っていき、岩でしっかりと固定した。

「一週間後に食べてみよう」

「うーこわい!」


「俺は暇だから、ザルとか作ってるよ。毒抜きだけじゃなくて、魚を取るのに使えるかもしれない」

 ダイケイマンは言った。

「あぁ、頼む」

「私は引き続き脱出先の島を探すことにする」

「頑張ってね」

「子供たちはココナッツとドングリを取ってきてくれるか?」

 ダイケイマンが言った。

「オーケー」

「家の近くだけにしてね」


 翌日からホシマンたちは自分に割り当てられたタスクを行った

 1週間後、ホシマンは島を探し続けたが見つけることはできなかった。

 ダイケイマンはザルを作り続けた。1週間作り続けた結果、壊れにくく大きい、隙間の小さいザルを作れるようになっていた。これに肩ひもを付け、ホシマンや子供たちはこれを背負って出かけるようになった。

 子供たちはココナッツやドングリを集めた。ザルを使って魚を取ることにも挑戦したが一匹も捕まえることができなかった。

 ある日、ホシマンが帰宅すると子供たちは石槍を持っていた。

「ホシマン、これ作ってみたから明日持って行ってみて」

 ダイケイマンは手作りの石槍をホシマンに渡した。

「おお・・、ありがとう」

「ザルもそうだけど、作っていくうちによくなっていくと思う。改善点があったら教えてくれ」

「わかった」

 この1週間の間にホシマンたちはモンスターに名前を付けていた。

 立方体状のモンスターはリッポウタイ、球状のモンスターはキュウ、とそのままの名前を付けていた。

 ホシマンはこの1週間の間に大きさが2倍のリッポウタイと2分の1のリッポウタイに遭遇しており、ビッグリッポウタイ、スモールリッポウタイと名付けていた。

 ホシマンは魔法の練習を日常的に行うようにしていた。まだ、ホシマンの魔法力ではモンスターに魔法を使うより石でも投げた方が有効であった。それでも亡霊という、魔法しか効かない敵がいるため念のため訓練していた。


 ある日、ホシマンがプレシジョンに帰ってくると焼き魚が置いてあった。

「あの子ら、ついにやったよ(笑)ホシマンの分も隣の部屋にあるよ」

 ダイケイマンが言った。

「私もありがたく頂くとしよう」

 ホシマンは隣の部屋に行った。シカクマンが木の棒に刺さった魚を持ってきた。

「はい」

「どうも」

 ホシマンは焼き魚を齧った。ドングリとココナツだけを食べ続けていたため、噛み締めながら食した。

「どうやって捕まえたんだ?」

「網を沈めておいて、魚が上を通ったときに網を持ち上げたら掴まれられた」

 サンカクマンが言った。

「なるほど」

(私も挑戦してみよう・・・)


 翌日、ホシマンは廃墟を出発し、この日は山の方に歩いていた。ホシマンが砂浜のほうを見ると円柱状の物体が向かってきていた。

(あ、ヤバい。あれもモンスターか)

 モンスターは普段、完全に静止しているため発見が難しく、こちらに向かって来るまで気づかないことが多かった。

(今度は円柱の形か・・・)

 モンスターは立方体と同じくらいの大きさで円柱状だった。

(戦ってみるか・・・?)

 ホシマンは石槍を構えた。ホシマンは1週間モンスターたちから逃げる生活をしており、その中でも特に、円盤状の敵が投げてくる弾を避けなければいけなかったため反射神経が研ぎ澄まされていた。

<ザー!>

(!!)

 円柱状のモンスターは闘牛のように突進してきた。

 ホシマンは横に飛んで避けた。泥や葉が舞っていた。

 円柱状のモンスターはこちらに振り返り、ジリジリと近寄ってきた。

(さっきのは離れていたから避けられたけど、至近距離でさっきの奴をやられると・・・多分避けられない。運悪く踏まれたら即死するかもしれない・・・)

 円柱状の敵も他の敵同様に数百キロほど体重がありそうだった。

(逃げよう)

 ホシマンは、駆け足で逃げた。モンスターと戦って勝っても、食べられもしないし資材も手に入らない。そのため頻繁に通る道や避けて通れない道でない限り逃げていた。

 しばらく歩くと開けた場所に出た。そこには、倒壊した古い家屋があった。藁や土壁が使われており、現代では見ないタイプの家だった。

 家屋の中には人骨が転がっていた。

(普通に生きてたら家の中に人骨がある状態にはならない。事件性がありそうだ・・・)

 草で隠れていたが、廃屋から森の奥に向かってうっすらと道の痕跡があった。木の棒で払いながらホシマンはその方向に進んでいった。先には小さな墓地と神社があった。

(!! 人だ・・・!)

 墓地には老婆が座っていた。

「あの・・・」

 ホシマンは恐る恐る話しかけた。

(またロボみたいな人だったら嫌だな・・・)

「・・・」

「ちょっといいか」

「あぁ・・・もうそんなころか・・・」

「?」

「あぁ・・・」

 老婆はため息をついた。

「話が聞きたい」

「・・・」

「・・・」

 二人の間に沈黙の時間が流れる。

「いいですよ」

(よかった・・・言葉が通じる人だ・・・)

「私はここに漂流してきた者だ」

「・・・」

「よろしくどうぞ・・・」

「はい、よろしく」

「そこら中にいる、モンスターのことを教えてほしい。あれは何者なんだ」

「・・・。

 生物兵器だ。ジーフォークの実験体が捨てられてる」

「・・・!」

 ジーフォークはこの島の西の方にある発展途上国だった。

「・・・そうか・・・」

「そんな高等なもんじゃない。植物を動けるようにしたとか、動物に植物の細胞を埋め込んだとか、それだけ。それで飲まず食わずで生きていられる」

 パワーエッジ星では、生物の遺伝子操作が家庭・個人レベルまで広まっており発展途上国でも様々な目的で生物が作られていた。

「今までそういったニュースは聞いたことがなかった」

「ここは人が近づかない島だからね。あなた、悪魔と契約しただろう?」

「え・・・。・・・ああ。」

「あの悪魔はねぇ、死にかけの人のところに行って契約を勧めるんだ」

「・・・」

「生き返った人は力を持つ。

 ひとたび、争いが起きると、力が持つ人は力を持たない人に勝てる。殺せる」

「・・・」

「殺されそうになった、力を持たない人は悪魔の契約をして蘇る」

「・・・」

 ホシマンは険しい顔つきになった。

「契約した人間は魔法を使えるようになる。訓練すると魔法はとてつもない威力になって一度に大勢殺せるようになる。大勢の人が殺されると、みんな契約して蘇る。倍々ゲームで契約した人が増えて行った。ただし1年で死ぬ契約つき。それでこの島の人々は全滅した」

「・・・」

「モンスターが廃棄されるようになったのはそのあと」

「なるほど。そういうことだったか」

(あの角が生えた人からすれば、島民同士で争ってくれたほうが沢山契約できるか・・・)

「・・・」

「もう一つ教えてほしい。私は仲間のために1年以内に脱出したい。何か良い方法を知らないか」

「・・・」

「・・・」

「思いつかないねぇ・・・。島から出られればいいけどねぇ。契約も切れるし」

「? 契約が切れる?」

「あぁ、島から出られれば契約はなくなって助かるよ」

「本当か? どうやってそれを知ったんだ」

「え? なんでだっけ・・・」

「・・・」

(本当だろうか・・・)

「とりあえず、ありがとう」

 このあと、ホシマンは食材を集めて廃墟に戻った。


 ホシマンはダイケイマンの部屋の前にいた。

「どうも。容体はどうだ」

「だめだ・・・。熱で、あと痛くて何もできない・・・。」

 ダイケイマンの苦しそうな表情を見てホシマンは眉をひそめた。

「また少し話がある。子供たちを呼んでくるので待っていてくれ」

「あぁ、分かった」


「今日、生きている原住民に会った。それで、1年以内にこの島を出れば私は助かるらしい」

「え? え? あ、そりゃあ、やったじゃないか」

「ありがとう。1年以内の脱出を今まで以上に頑張りたいと思う」

 ダイケイマンたちはうなずいた。

「今日会った原住民は老婆だったが・・・。その人が言うにはここに住んでいた人は皆悪魔と契約して、全滅してしまったそうだ」

「・・・」

「あと、この島のモンスターたちは生物兵器なんだそうだ。植物の特性を受け継いでいて飲まず食わずで生きていられるらしい」

「あぁ~、そういうことか」

「それと、今日、海岸沿いから島を探していたときに思ったんだが、パワーエッグ星は丸いから、山の上から探したほうがより遠くの島が見つかるんじゃないかと思う。明日は山頂の方に向かおうと思う」

「そりゃそうか。俺も言われるまで気づかなかった」

「・・・」

「あの変な白い人のことは何て言ってましたか?」

 シカクマンが尋ねた。

「・・・あぁ、すまない。それは聞いていなかった。

 今度会うことがあったら聞いておくよ」


 翌朝、ホシマンは山頂に向かって歩いて行った。

(そういえば、この島に来てから動物にあっていない。蛇とか虫とかはたまに見るけど、鹿とか熊とかはいないんだろうか)

 山頂に向かう道の途中で集落のようなものを見つけた。集落は廃墟となっていて人の姿はなかった。代わりにモンスターが2匹いた。モンスターは半円状でかまぼこのような形状をしていた。

(モンスターを退治してからじゃないと調べられない。戦ってみるか)

 ホシマンは魔法で氷の矢を飛ばし、片方のモンスターを貫通した。もう片方の半円状のモンスターは飛び上がった。

(こいつは飛ぶのか)

 モンスターは飛行しホシマンの方に突撃してきた。ほかのモンスターと違い、半円状のモンスターは厚みがなく軽そうであった。

(やはりこいつらも人間を襲うのか。全身ゼラチンみたいだし、鳥の爪のような武器も見当たらない。何で攻撃するつもりだ?)

 モンスターの接近に合わせて、ホシマンは石槍で突いた。そのとき、ホシマンの右腕と右足に液体がかかった。

(これは・・・)

 ホシマンの右腕と右足から煙が上がった。

(あぁ・・・しまった・・・)

 皮膚が解け、白い皮下脂肪が覗いていた。即死するほどではないが死んだほうがマシと思えるような苦痛がホシマンを襲った。

 ホシマンは歯を食いしばって石槍で何度もモンスターを刺した。モンスターは動かなくなった。

(ぐ・・・)

 ホシマンは体を動かすたびに激痛が走った。

(廃墟に使えるものがないか見てみたいが・・・今モンスターに襲われたら多分おしまいだ・・・一度ワードブレスを飲もう)

 ホシマンはワードブレスを飲んだ。

(この先、弓矢があったほうがいいな・・・。帰ったら依頼しよう)

 ホシマンは激痛に苦しみながら廃屋を探索した。

「これは・・・」

 廃屋で島の地図を見つけた。地図に現在地は記されていなかったが、今日まで島を歩いた感覚でなんとなく予想はついた。ラデオウ連邦とジーフォーク共和国とこの島が記されている地図も見つけた。

(ここはプロリタン島だったのか。あとでみんなに見せよう。一番近いジーフォーク共和国までは100Kmくらいだ。泳いでいくのは無理だな・・・)


 ホシマンは廃墟に戻った。

「だ、大丈夫か・・・!?」

 ホシマンの傷を見てダイケイマンはうろたえた。

「わからない・・・。今日、寝てる間に死んでしまうかもしれない。でもその場合は、生き返れるようになっている」

「そ、そうか・・・」

 サンカクマンとシカクマンはホシマンの傷を見て絶句していた。

 ホシマンはダイケイマンたちに今日あったことを話した。

「これがその地図だ」

 ホシマンは地図を広げ、みんなで見た。

「私たちがいるのはおそらくこの辺。ココナッツの木がある場所は『シンクハット海岸』という名前だったみたいだ」

「プロリタン島に船が来ることってあるのかなぁ。オプティプル島に行こうとしたときにちょっと調べたけどプロリタン島に行く船ってなかったと思うよ」

「・・・」

「それだけど・・・船を作って脱出を目指してみないか」

「えっ」

「私の場合は1年以内、というのがあるから、そうするしかない。他の人については、ここに残って助けを待ったほうがいいかもしれない」

「微妙なところだな・・・。

 うーん。結構難しい選択・・・、というか究極の二択だな」

「やったことはないが、4人乗りの船を作るというのは、一人乗りの船を作るよりはるかに難しいのではないかと」

「そりゃそうだ」

「一人乗りの船を作って私がジーフォーク共和国に行き、別の船を手に入れて戻ってくる、というのが一番現実的だと思う」

「そうしてみよう。

 そうだ、あとあの川の水に漬けていた赤い実のやつ。食べてみたけど大丈夫だったよ」

「よかった。それなら食糧事情がだいぶ改善できる」


 ホシマンは皮膚が溶けた痛みで寝ることができなかった。

(これからどうしよう・・・。まずいことになった。動けない)

「う・・・ぐっ・・・」

 ホシマンは激痛に耐えながら座位になった。

「ちょっと・・・こっちに来てくれ・・・」

 ホシマンの様子を見ていた子どもたちを呼んだ。

「見ての通りだ。しばらくの間、動けない」

「大丈夫だよ」

「うん」

「3日くらいしたら歩けるようになると思う。それまで食料探しを頼む」

「いつもやってるから大丈夫だよ」

「ありがとう」


 3日経ってもホシマンは満足に歩けるようになれなかった。それから、ホシマンは1か月間、弓矢作りと魔法の訓練に励んだ。大人二人が動けず、子供二人に生かされている状態であった。赤い実の解毒方法を発見していたため死なないだけの食料は確保することができた。

 ホシマンとダイケイマンは協力し家の周りの木の枝と紐で弓矢を作成した。刃物がないため石だけで作っており、見た目はモロに木の枝であった。矢を手で投げるよりはマシでそれなりに実用性はありそうだった。子どもたちも欲しがったため、4つ作りそれぞれが持つことになった。すぐに的あてをして競うことがブームとなった。

 ホシマンは、魔法の訓練を毎日続けた。そして1メートルくらいの氷を地面から出現させたり、もしくは氷の雨を降らせたり、30センチくらいの火の玉を出現させることができるようになっていた。

 魔法は発動するまでに時間がかかり、発動した後もノロノロとしか飛んでいかなかった。そして相変わらず立っていられないほど疲れるため使いどころを考える必要があった。

 ホシマンは、氷の雨や火の玉を日常生活で使用していた。氷の魔法によって水不足の解消を期待したが、魔法の氷は氷ではなく『氷のような物質』であったため水分確保というわけにはいかなかった。

 ホシマンは船の材料集めを始めることにした。

 1か月経ってもホシマンのやけどは治っておらず動くたびに傷口が開き黄色い液体が傷口から漏れた。不幸中の幸いで肘、膝は少ししか酸がかからなかったため我慢すれば四肢を動かすことはできた。死ねば全快して生き返れるし1年のタイムリミットがあるため、無理をして動く必要があった。


 翌日、ホシマンは船の材料集めのついでで地図に載っていたウブントゥ洞窟に向かっていた。

(モンスターが太陽光に頼った生活をしているなら洞窟内は安全のはずだ)

 洞窟は炭鉱のようだった。モンスターはいなかったが亡霊が数匹いた。

(たしか、あいつは黒い炎でだけ倒すことができる。でも自分の今の実力では太刀打ちできそうにない。今回は辞めておこう)

 ホシマンは引き返すことにした。

(これは・・・)

 ホシマンは帰り道にオレンジと緑色が入り混じった石を見つけることができた。奇妙な石を拾うと洞窟を出て、今度は赤い実を取りに向かった。赤い実はすぐに袋いっぱいになりホシマンは廃墟に帰った。


 ダイケイマンの部屋に4人で集まった。

「これなんだけど・・・銅鉱石というものじゃないかと思う」

 ホシマンはダイケイマンに見せた。

「そうなのかなぁ」

「ゲームで見たことある。焼けば銅になるよ。そのゲームではね」

 サンカクマンが言った。

「こいつを焼いたら銅になるだろうか」

「温度が足りなさそう。たき火で焼いてもダメだろうし。魔法で解かせるんじゃない?」

 サンカクマンが言った。

「わかった。あとで試してみよう」

「煙突みたいのを作って、下から風を送るんだったような気がする。そういう動画があったよ」

 シカクマンは言った。

「見たことあるかも。でも船作るのに要らないよなぁ」

「船の材料としては必要ないが、木材を加工するのに使えると思う。それと鍋を作れれば、船で生存できる日数が増えるかもしれない。あとは、今、森の中を出歩くのに武器が欲しい」

「そうか。そうだな。そういうのって青銅っていうので作るんじゃないっけ」

「そうだと思う。青銅と銅の違いって誰かわかる?」

「・・・」


 1か月後。

 船を作る方針を決めてから1か月が経過した。

 ホシマンは食材と船の資材を集め、ダイケイマンたちは船の制作に挑戦する、という日々を送っていた。

 ホシマンの炎の魔法では温度が足りず持続力がないため銅鉱石を溶かすことはできなかった。

 4人はダイケイマンの部屋に集まっていた。ダイケイマンの前に30センチくらいの船があった。

「ホシマン。やっぱり隙間を埋めることができない」

 ダイケイマンはホシマンに言った。船は紐と木の枝で作られていて隙間だらけだった。クギ、ノコギリ、接着剤がない。4人はこの隙間を埋める方法を模索していた。

「それで、これを作ってるときに思いついたんだけど船じゃなくてイカダを作らないか? イカダだったら丸太を紐で縛るだけで作れる」

 ダイケイマンは背後からイカダを取り出した。

「じゃーん」

 サンカクマンが言った。

 イカダは30センチくらいで、木の枝と紐で作られていた。木の枝を紐で縛ってプレート状にしたものが縦横交互に4つ重ねられていた。イカダの端には木の実が沢山括り付けられていた。

「ノコギリはないけど石で斧を作れば10センチくらいまでの木なら倒せるんじゃないかと思う。それだけだとすぐ沈みそうなんで、こうやって、重ねていこうという作戦だ。縦横交互に積むことで人が乗った時に変形しにくくなるし」

「なるほど」

「一個問題なんだけど、船と違って平らだから波があるとひっくり返る可能性がある」

「うーん」

 ダイケイマンはイカダをひっくり返してみせた。イカダの裏の中央に結び目がありそれをほどくと、イカダの四隅から紐が4本、垂れた状態になった。

「ひっくり返ったら、裏面に乗って、端に立って、反対の端にある紐を綱引きみたいに引っ張る。そうするともう一度ひっくりかえせる」

 ダイケイマンはイカダをひっくり返して見せた。

「とはいえどちらが上でも大した差はないから、ひっくり返ったままでも問題ない。むしろ時々ひっくり返したほうが長持ちしそう。『帆』っていうのをつける予定は今のところない。いずれ考える」

「すごい・・・感心したよ・・・」

 ホシマンはダイケイマンの仕事に感動していた。

「これなら10日間は壊れずにもちそうだ」

 対岸まで100Kmであった。100Kmの航海がどういうものか誰もわからなかったが、10日間で到達すると仮定して「10日は壊れないこと」をホシマンたちは仮の目標としていた。

「あと、この端っこの木の実だけど、これはココナッツの意味。これで浮力を得つつ、水分を摂取できる。取り外すときは四辺から均等にとってもらう必要がある。同じ場所からとり続けるとイカダが傾くから」

「わかった。イカダ作りに変えよう」

 4人はイカダ作りを始めることにした。


「希望が見えてきた気がする・・・」

 ホシマンとダイケイマンは赤い実とドングリを食べながら話していた。

「オプティプル島へは旅行だったのか?」

 ダイケイマンは聞いた。

「・・・。

 派遣で働いていて、7月末で案件の切れ目だったから、しばらく自由に過ごそうと思ったんだ」

「オプティプル島で夏休みなら最高じゃん」

「・・・あぁ」

 ホシマンはうつむいて目を瞑った。

「オプティプル島に何しに行く予定だったんだ?」

「・・・。個人的なことだ・・・。」

 ホシマンは以前、港で働いていた。船に乗せる荷物を調べ、データを入力し、船に乗せる、という業務を行っていた。

 ホシマンは、勤務先でパワハラを受けていた。ホシマンの業務遂行能力には問題がなかった。単にそういう社風の勤務先だった。何も悪さをしていなくても習慣として言いがかりをつけて罵声を浴びせるというのがあった。

 当時、ホシマンはマッチングアプリで知り合ったヒシガタマンという女性と交際していた。

 恋人との交際は楽しいことばかりではなく、忍耐が要求される場面もあった。ホシマンの場合は、ドタキャン、便利屋のように使われる、借金の肩代わりなどがあった。それでも別れなかったのは、悪いことだけ、というわけではなかったし、悪いところがない人というのはいない、という考えがホシマンにはあったからだった。

 しかし仕事で疲弊していたホシマンにとって、その忍耐はより過酷となっていた。

 ホシマンは7月末で仕事をやめ8月になったら数か月無職として過ごすことにした。これまでの分、ヒシガタマンと過ごすことにした。ホシマンはそのことをヒシガタマンに伝え、8月になったら二人でオプティプル島へ旅行に行くことにした。ホシマンたちは、旅行の計画を立て船やホテルの予約をした。

 そして、ヒシガタマンから他の男と交際したいということを打ち明けられ、別れることになった。

 ホシマンは交際相手のいない無職の男になった。ホシマンはオプティプル島へ行くか迷った。元々、オプティプル島へ行きたかったのもあったが、キャンセル料金が最後の決め手となりオプティプル島へ一人で行くことにした。

 辛いが、自殺しようという考えはなかった。ただしばらく一人で過ごしたかった。何もする気が起きず無気力だった自分にとって、今の命の危険がある状況がホシマンは少し嬉しかった。

「ただのツーリングだ」

 ホシマンはつぶやいた。


 ホシマンは地図を頼りにまだ行ったことのない「シーポロポロ」へ行ってみることにした。

 シーポロポロに近づくと霧が現れた。霧に注意しながら歩いていると遠くに光るものが見えた。

(ホタルか・・・。初めて見るかもしれない)

 ホシマンはホタルの方へ歩いて行った。透明な川が水音を奏でながら流れていて、辺り一帯は緑色のコケに包まれていた。

(なんか、人が入ってはいけない雰囲気だな・・・)

 やがて背後から人がついてきていることに気が付いた。以前、ココナッツの木のところで会った白い人だった。

「・・・」

 ホシマンは相手の方を見て様子を伺った。

「・・・」

 白い人は無表情でこちらを見つめ続けていた。

「なんのようだ」

「・・・」

(離れたほうが良いか・・・)

「私は実験体」

「・・・!」

 ホシマンは聞き返した。

「あのモンスターたちの仲間か」

「はい」

「何をする気だ」

「興味があって見ているだけです」

「なぜ攻撃してこない」

「私は人を襲うようにデザインされていないので」

「・・・?」

「・・・?」

「そ、そうなのか・・・」

 白い人はホシマンを不思議そうに眺めていた。

「以前、子供に水をあげたか?」

「はい」

「ありがとう。代わりに礼を言う。君はここで何をしている?」

「何も。私は廃棄物で何もすることがない」

「・・・」

「ひとまず、君の言うことを信じよう」

「どうも」

「・・・。

 ここはきれいな場所だな・・・」

(きれいな場所、というのが彼にわかるのだろうか)

「きれいな場所・・・」

 実験体は理解できていなそうな雰囲気だった。

「あれは、ホタル。知っていたか?」

「知りませんでした」

「あのホタルの光と、川と苔と霧の感じが合わさって神秘的だなと、私は思う」

「・・・」

 白い人は『考え中』という感じだった。

「ここに来ればまた会えるか?」

「はい。タイミングが合えば」

「そうか。わかった」

(子供たちに会わせてあげたいような気がするが、ちょっと怖い気もする)

 ホシマンは廃墟に帰った。


 実験体は丘の上にやってきた。そこにはもう一人、白い人がいた。

「どうだった」

「・・・。

 害はない」

「そうなんだ」

「うん」

 二人はその場で立ったまま動かなかった。


 ホシマンは今日出会った実験体のことをダイケイマンたちに話した。

「今度お礼にココナッツあげたい・・・」

 シカクマンが言った。

「うーん・・・」

(ここに連れてきても問題ないのかもしれない)

<ザッザッザッザッ>

 外から足音がした。

 ホシマンとサンカクマンとシカクマンは廃墟の入り口の方を見た。昼に会った実験体が立っていた。

(・・・!)

 実験体の手には石を削って作られたナイフがあった。

 実験体は何も言わなかったが戦う顔つきになりナイフを両手に持って走ってきた。

(くそ・・・騙されたんだ・・・!)

 幸い実験体は120cm程度しかなく、小柄であったため何とかなりそうだった。

<ドサ>

 ホシマンは足で相手と距離を離すように前蹴りをした。実験体は後方に飛ばされた。

「何か武器をもってきてくれ!」

 ホシマンはサンカクマンたちに言った。

「・・・」

 サンカクマンたちは固まってしまい動けずにいた。

「あ」

 シカクマンが廃墟の入り口を指さした。

(!?)

 廃墟の入り口にはもう一人実験体がいた。地面に這いつくばっている方の実験体は起き上がろうとしていた。ホシマンは、入り口にいるもう一人の実験体が気になるが目の前のナイフを持っている実験体に対処しなければならなかった。

「ナイフを捨てろ」

 実験体は止まることなくナイフを持ったまま向かってきた。

 ホシマンはもう一度前蹴りをしたが実験体に足をつかまれてしまった。

 実験体はナイフでホシマンの足を刺そうとして腕を振り上げた。

「!!」

 ホシマンは反射的に足を引っ込め、ナイフはホシマンの足をかすった。金属製ではなく石を削って作った手作りのナイフであったため、それほどの傷にはならなかった。ホシマンの足首から血が滴る。

 ホシマンは実験体の腕をつかみナイフをもぎ取ろうとした。

「くっ・・・」

 実験体はナイフを取られまいと握りしめていた。

 ホシマンは実験体を掴み、持ち上げて地面にたたきつけた。

<バン>

 実験体は背中を地面に強打した。しかし、ナイフは持ったままだった。

 ホシマンは素早くナイフを取り上げ実験体に向けた。

(・・・!)

 ホシマンは自分が人に刃物を向けていることにハッとしてすぐにナイフを子供たちのほうに投げた。

「持ってて!」

 子供たちは急いでナイフを拾った。

 廃墟の入り口にいた実験体が叫んだ。

「待って!」

(・・・)

 ホシマンは一歩下がった。

 入り口にいた実験体は歩いてきて実験体を抱き寄せた。

「もういいでしょ? 帰ろう」

「・・・」

 実験体二人は肩を寄せ合い立ち去ろうとした。

「まて、どういうことか説明してくれ」

「・・・。

 僕は人を襲うようにデザインされていないけど、この子は人を襲うようにデザインされてる」

「な・・・それじゃ、待て、このまま返すわけには・・・。こっちはケガ人もいるし、子供もいる。居場所もバレてる」

 実験体は目をそらして俯いた。

「・・・」

 実験体はもう片方の実験体を担ぎ、走って逃げた。

「・・・」

「あの・・・そっちで何が起きてるんだ・・・?」

 ダイケイマンがつぶやいた。ダイケイマンからは何が起きているか見えなかった。

「・・・。

 無理だ。手が震えて・・・とどめを刺すなんて。

 ・・・。

 引っ越したほうがいいかもしれない」

「俺はおいて行っていいよ。気にするな」

 ダイケイマンは両足を骨折していてまだ歩けなかった。

「・・・。

 バリケードみたいなものを作ってみよう。それでもダメそうなら引っ越そう。そのときはダイケイマンをおんぶしていくよ」

「・・・。

 わかった。」

 ホシマンとダイケイマンは交代で睡眠を取り見張りをした。


 翌朝。

「バリケード作りっていつやるの?」

 寝不足に苦しむホシマンにサンカクマンが言った。

「あぁ・・・。よし、やろう」

 ホシマンは胸を拳でドンドンと叩きながらカツを入れた。

「私にはゾンビ映画で見たことがあるだけの知識しかない。机とか椅子でドアを塞ぐんだ、確か」

「どうやって俺達、出入りするの?」

「・・・。

 考え中だ」

 ホシマンは建物を見渡した。

 4人は村役場の1階の小会議室と展示室を1つずつ使っていた。

(どちらも窓が多い。入ろうと思えば建物の内からも外からも自由に入れる)

「思い切って、二階の部屋に移動しよう。それで、出入り口を塞いで、ベランダからロープかハシゴを使って登りおりしよう。ダイケイマンは面倒が増えてしまうが・・・」

「大丈夫だ。膝より上は動かせる。腕だけで登り降りするよ」

 4人は生活拠点を2階の会議室と村長室に変えることにした。

 入口を机や椅子で塞ぎ、ロープで外から出入りできるようにした。ロープでは大変だったので早速ハシゴ作りに取り組み、翌日からはハシゴで登り降りするようになった。


 2か月後。実験体の襲撃から2か月が経過していた。

 4人は廃墟の前の開けた場所でイカダづくりをしていた。

「実験体たち来ないね」

 シカクマンが言った。

「ブイエスコだからね」

 サンカクマンがクスクス笑っている。

「ブイエスコ?」

「子供たちの間で流行ってる動画配信者だよ」

 ダイケイマンが言った。

「子供らは攻撃してくる方をブイエスコ、してこない方をビムって名前で呼んでる。元ネタがどういう人たちかあまり知らないけど」

「・・・。

 普通、子供があだ名をつけるときは、言われて嬉しくない単語を選ぶもんだ」

 ホシマンがサンカクマンを見ると目をそらして笑っていた。

「・・・」

 やがて攻撃してきたほうをブイエスコ、してこない方をビム、と呼ぶようになった。あの日以来、ブイエスコが襲ってくることはなかった。ホシマンたちは船作りに励んだ。

「だいぶ経つが足の方はどうだ」

 ホシマンがダイケイマンに聞いた。

「すまない。多分もうだめだ。両方とも複雑骨折していて、外科手術しないといけなかったんだ。変になってしまった」

 ダイケイマンの足は実際には複雑骨折ではなく粉砕骨折しており文字通り骨が粉々になっていた。砕けた骨は自然にはくっつかないためそのままとなった。そして偽関節、という関節が増える症状が起きていた。足首、かかとに複数の偽関節ができており体重を支えられなくなってしまっていた。

「最初は毎秒気絶しそうなくらい痛かったけど、今は触らなければ痛みはないよ」

「・・・それはよかった」


 ホシマンとサンカクマンとシカクマンは川にイカダを浮かべた。

「よし・・・」

 ホシマンは慎重にイカダの上に乗った。イカダは沈むことなく持ちこたえた。

「イェーイ!!」

 ダイケイマンが叫んだ。両腕を掲げてガッツポーズしていた。

 ホシマンたちはイカダを2回作った。

 以前作った1個目のイカダはホシマンが乗ったら1時間で縄が解けて壊れてしまった。ロープを縛るには知識が必要だったが、誰も知らなかった。ホシマンたちはとにかく沢山巻くことにした。

 今回作った2個目のイカダは壊れはしなかったものの、徐々に沈んでいき、5時間で完全に沈んだ。

「5時間で沈んでしまうのはマズイ・・・。特に考えずに家の周りの木材でやってみたが、別の木材も試してみたほうがいいのかもしれない」


 その後、ホシマンたちは数日かけて、様々な木材を集めて川に浮かべ沈みにくい木材を探した。

(3日くらいすると沈むようになってしまう。もしかして沈まないイカダは作れないのか? 沈みにくいイカダを作って、沈む前に隣の島にたどり着くしかないのかもしれない)

 イカダを作る過程で、ホシマンたちは石斧(せきふ)の制作に成功していた。これで木材を集めていたが、直径5cmの木を切るのに6時間かかり、2日使ったら石と木のつなぎ目が千切れて使えなくなるという完成度だった。

 ホシマンたちは日々試行錯誤しながら改良していた。


 ホシマンが契約して半年が経過していた。

 ある日、ホシマンは地図に載っている「ギップ灯台」に行ってみることにした。山の頂上に向かって歩き続け、目的地に到着した。そこには海の方を眺めている小太りの男性がいた。小太りの男性はホシマンの足音に気づき振り向いた。

「あ、どうも・・・」

 ホシマンは会釈した。

「・・・」

 小太りの男性は時が止まったように静止していた。

「あぁ、ウィッス・・・」

 男性は小さく会釈した。

「初めまして、この辺に住んでいるのか?」

 ホシマンは聞いた。

「ていうか誰オマエ」

 小太りの男性は眉を寄せ睨みつけてきた。

「・・・」

「何 勝手に入ってきてンだよ。何してンだテメェ、こんなとこでよォ、オイ」

 ホシマンは背筋が凍った。

「・・・私は最近この島に漂流して・・・。仲間と一緒にサバイバル生活をしている」

「知らねーよ! てめェのそんな都合の話なんかよォ!」

 小太りの男性は声を上げながら近づいてきた。

「失礼した・・・」

 ホシマンは立ち去ろうとした。

「オイ・・・何逃げようとしてんだよ! オイ!」

(モンスターより人間のほうが危険だ・・・)

 ホシマンが背中を向けて早歩きで去ろうとすると、後ろから走ってくる音が聞こえた。振り返ると小太りの男性が走ってきていた。

「オラッ!」

 小太りの男性は蹴ってきた。

「うっ」

 ホシマンは地面に倒れた。

「ブッ殺されてェのか!」

「もうここには近寄らない。安心しろ」

「普段どこに住んでるんだ」

「・・・」

「言えよオラ」

男はホシマンを足でつついた。

「・・・!」

 ホシマンは背後に用心しながら帰ろうとしたが男はナイフを取り出していた。

(こいつと会話してはダメだ・・・)

ホシマンは走って逃げた。


 ホシマンは今日あったことを仲間に話した。

「この位置に危険な男がいる。

 会ってすぐにナイフで襲ってきた」

「もう一度会って、ちゃんと話してみたら?」

 サンカクマンは言った。

「いや・・・話が通じる感じではなかった」

 ダイケイマンは渋い顔をした。

「ガリガリの男だった?」

「いや・・・、どちらかというと少し太っていた」

「じゃあノーブルだ。ありえんくらい太ってただろ」

「うーん・・・?」

(そこまでではなかった気がする。痩せたのか?)

「ネスとノーブルは関わるな。俺の足がこうなってるのもあいつらのせいみたいなもんだ」

「なにがあったんだ・・・?」

「・・・。

 まぁ、いろいろだ・・・」

「・・・」

「今はギップ灯台にいるのか。前は港跡に・・・、多分このバーチャルベックス港跡にいたんだ。ネスとノーブル。ネスがガリガリ、ノーブルは太ってる」

「てことは、今はバーチャルベックス港跡には人がいないんじゃないか?イカダを作らなくても、そこに行けば船が手に入るかもしれない」

「船はなかったと思う。船に使えそうな材料くらいは見つかるかもしれないが」

「・・・。

 今度、行ってみるよ」

 ダイケイマンは少し考えた。

「・・・。

 用心してくれ」

「ああ」


 ホシマンはバーチャルベックス港跡に向かっていた。

 距離的に日帰りは難しく、野宿が必須だったため、そのための荷物を持ってきていた。

 遠くにバーチャルベックス港跡が見えた。港跡に人の姿はなかった。

(出来ればネスという人物に会いたくない)

 ホシマンは用心しながらバーチャルベックスに入っていった。

 ホシマンは民家の倉庫で丸い球を見つけた。

(なんていう名前なのかわからないが、漁師が漁でよく使うやつだ。これをつければ、イカダの耐久度が上げられそうだ)

 ホシマンはブイを手に取った。

(一度に持っていける数には限りがある・・・)

 バーチャルベックス港跡は無人であったが人のいる形跡はあった。

<カタ>

 どこかで物音がした。

 恐る恐る、そちらの方に行くと人が隠れているようだった。

「誰かいるのか・・・?」

「・・・」

 返事はなかった。

(!)

「ォオオオオォオオオオ・・・」

別の方角から亡霊が現れた。亡霊は猛烈に太っていた。

(・・・。

 ダイケイマンが言っていたノーブルの特徴と一致している・・・)

 亡霊は浮遊しながらこちらに向かってきた。

(戦わずに逃げるか・・・? しかし船の材料を回収しに何度もここには来たい・・・)

 以前戦った亡霊は明確に攻撃の意図があった。しかしこの亡霊は煩悩的に近づいてきているだけのようだった。

(魔法攻撃をしてくる気配がない・・・)

 亡霊の動きはのろく、歩いていれば追いつかれることはなかった。

<ボゥ>

 ホシマンは黒い炎を出現させ敵の方に投げつけた。亡霊は立ち止まり炎の方を見ていた。やがて炎と亡霊が接触すると、亡霊は燃え上がった。亡霊はもがいていて、苦しんでいるようだった。

 ホシマンは様子を見ていたが何も起きずに亡霊はそのまま燃え尽きて消滅した。

「あーあ・・・殺しちゃったよ(笑)」

 ニヤニヤと笑う男がいた。ガリガリの男だった。脚はガタガタと震えていた。

「・・・。

 お前がネス、という男か?」

「いえいえ! 違いますよ(笑)誰ですかそれ(笑)そんな人聞いたことないです(笑)」

 男は襟を直した。

「・・・。

 名前を教えてくれるか?」

「さぁ~。わかりませんねぇ~。忘れちゃったんで(笑)名前が初めからなかったんで(笑)」

「・・・。

 さっき倒した亡霊はノーブルという男か」

「いや~。わかりませんなぁ~(笑)そんなのいました?(笑)」

 男は襟を立ててから襟を直した。

「・・・」

「・・・」

「お前はここで何をしている」

「いや~。えーと、強盗殺人をやってました(笑)」

「・・・。

 強盗殺人?」

「この辺にいた人たちをですね~みーんな殺して、お金を巻き上げて死体をバラバラにして埋めたんですわ~(笑)あぁ~最高だった~(笑)」

「・・・」

 ホシマンは周りを見渡したが、数十年以上経過した廃墟でありそのような凄惨な現場とはかけ離れていた。

「嘘ついてるだろ。どこでやったのか言ってみろ」

「いや~とんでもな~い(笑)本当ですよぉ~(笑)どこでやったかはちょっと教えらえませんなぁ~」

 男はまた襟を立ててから襟を直した。足がガタガタと震えていた。

(彼は手で何かをいじりながらじゃないと話せないようだ)

「企業秘密なんで(笑)いや~人の死体沢山見れたの最高だったなぁ~(笑)これから毎日宴会しないとなぁ~(笑)」

「そんな危険な奴なら、生かしておけないな」

 ホシマンは石斧を構えた。

「ちょっとぉ~嘘に決まってるじゃないですか~(笑)いや~君ちょっと変わってるわ(笑)」

「・・・」

「よく人から嫌われるでしょ(笑)頭がおめでたすぎて言葉が通じないって言われませんか?(笑)」

「・・・」

「・・・(笑)」

 男は勝ち誇ったようにホシマンの方を笑顔で見ていた。

「最初に戻るが、お前の名前は『ネス』か?」

「えぇ~誰ですかぁ~ネスってぇ~(笑)」

「じゃあなんという名前だ」

「いや~それはそちらが名乗ってからじゃないですかぁ~?(笑)なぁ~んで私だけ教えてあげないといけないんですかぁ~?(笑)」

「私はホシマンだ」

「えぇ~ホシマン~? いや~初めて聞きましたよ、そんな変な名前(笑)あなたの両親、絶対障碍者でしょ(笑)ぴーぽーぴーぽー(笑)」

「・・・。

 で、お前はなんていう名前なんだ?」

「え(笑)なんで言わないといけないんですか?(笑)」

「おい・・・」

「そんな約束してないですよ(笑)あなたが勝手に名乗ったんじゃないですか(笑)あ、思い出しました。私の名前、ホシマンっていうんですよ(笑)」

「・・・」

「いや~変な名前で困っちゃうなぁ~(笑)大変だったよ~(笑)」

「・・・。

 なんというか・・・お邪魔した」

 ホシマンは振り返り、プレシジョンの方へ歩き出した。

(ここに来るたびこいつと遭遇する可能性があるのか・・・)

「あーあ! やっといなくなってくれた(笑)ふーぅ障碍者の相手するの疲れたなぁ~(笑)助かった~(笑)お達者でぇ~(笑)」

 ホシマンは無視して歩き続けた。

「あ! ブイが盗まれてるぅ~!」

 ホシマンは立ち止った。

「・・・」

「いや~困るなぁ~」

「どう困るんだ」

「大量殺人をするのに必要なんですよ(笑)」

「これを? どうやって大量殺人に使うんだ」

「いや~それは教えられないなぁ~(笑) なんで障碍者のあなたに教えてあげないといけないですか(笑)」

「・・・。

 私が障碍者というのは一体どこからわいて出てきたんだ」

「いや~だってあなたのご両親、精神障碍者なんでしょ?(笑)じゃ~その子供であるあなたも精神障碍者でしょ(笑)実際にブイを盗んで持ち去ろうとしてるし(笑)」

「・・・」

「あなたのご両親を殺すのにも使えますよ(笑)人がたくさん死ぬと最高や~(笑)」

 とうとう男は腹を抱えて地面に座り込んだ。そして足をバタつかせながら地面を叩いて笑い始めた。

「・・・そうか・・・」

 ホシマンはバーチャルベックス港跡を立ち去った。

(葬式で爆笑してしまう人が世の中にはいるんだった。しばらくそういう人と接する機会がなかったから忘れていた・・・)

 ホシマンは怒りでも恐怖でもなく、未知との遭遇の衝撃に震えが止まらなかった。


「とてつもなく太った亡霊とガリガリの人間がいた。ガリガリの方はずっと笑っていて不気味な奴だった。私と私の両親が精神障碍者だから殺すといって笑っていた。

 笑いすぎて立っていられなくなって最後は地面に倒れこんでた」

「ははは、何その人。おもしろ」

「・・・。

 そいつがネスだ。亡霊もノーブルであってる」

「・・・」

「会ってみたい!」

 サンカクマンが言った。

「・・・。

 ダメだ。絶対にやめろ」

「えー」

「ブイエスコは、あれから来てないね」

 シカクマンが言った。

「そういえばそうだ。ビムとも会ってない」

「今頃どーしてるんだろう」

「食べなくても生活できるらしいからなぁ」


 ホシマンはビムへ会いにシーポロポロ苔庭に行ってみた。

 苔庭はあまり広くないため少し歩けば全体を探索できた。

(いた)

 ビムは全身が白く、森では目立つ色だったためすぐに見つかった。

 ホシマンはビムの方まで歩いて行った。ビムはこちらを見たまま静止していた。

「どうも・・・おひさしぶり」

「おひさしぶり」

「前、君と一緒にいた実験体の近況が知りたくて君に会いに来た」

「・・・。

 彼は死にました」

「・・・!

 そ・・・、え?」

「・・・」

「本当なのかそれは」

「はい」

「なぜだ」

「殺されました」

「・・・。

 誰に?」

「ギップ灯台の男に」

「・・・!」

 ギップ灯台の男。ホシマンも以前、彼に遭遇したことがあった。

「・・・」

「私もギップ灯台の男は知っている。目が会うなり刃物で殺そうとしてきた」

「・・・」

「お友達は残念だったな・・・」

「はい」

「ひとまず、仲間にはそう伝えておくよ」

「はい」

「・・・。

 君は名前はあるのか?」

「ないです」

「私たちは君のことをビムって名前を付けて呼んでるよ。子供たちの好きなキャラクターの名前なんだそうだ」

「・・・」

 ホシマンはプレシジョンに帰った。


 ホシマンがダイケイマンの部屋に入ると横から何者かに突然突き飛ばされた。

 存在してはならない男がいた。

 ギップ灯台の男だった。ホシマンは全身の毛が逆立ったのを感じた。ホシマンはダイケイマンたちの方を見た。ダイケイマンは倒れ顔から出血していた。床に血痕があった。子供たちは座り込んで顔が腫れ、泣いていた。

「何の用だ・・・!」

「あぁ? 何の用だァ? ふざけんじゃねェぞてめェ! 殺すぞオラァ!」

 男はホシマンの頭の角を掴んで握りつぶそうとしてくる。

「何がしたいんだ、たのむ、説明をしてくれ・・・!」

「オマエらが、勝手に盗んだんだろ! 人のモンを!」

「わかった・・・話を聞くから、一度手を放してくれ・・・!」

「あぁ? うるせェなぁ! ぬすっとがなめた口きいてんじゃねーよ!」

 ホシマンは男を蹴って突き飛ばした。

「あぁ? てめぇやりやがったなぁ? てめぇ何してくれてんだよ! ブチ殺すぞ!」

「盗んだって、一体何を盗んだって言ってるんだ!」

「ここにあるもの全部だバカが!」

「・・・全部・・・?!」

 どういうことかわからず、理解が追い付かなかった。ダイケイマンたちの方を見たが目を合わせず何も言わなかった。

「オメーらが人の家に勝手に入ってンだろうが!!」

「・・・?

 ここに以前住んでたのか?」

「そうだよ! ずっと前から住んでたのにちょっと家、離れたらめちゃくちゃにしやがって! どう責任とンだよ! えぇ!?」

「・・・。

 言いたいことは分かったが、まずは『返せ、出ていけ』と言えよ」

「はぁ?! ちげぇよ。こっちが説明しようとしてんのにこいつらが先にやってきたんだ」

 男はダイケイマンたちの方を指さした。

「・・・そうか。とりあえず、私たちは出ていく」

「はぁあ!? そんなんでいいと思ってんのか?! こんなに家をめちゃくちゃにしやがって!」

「なるべく、元に戻すようにする」

「適当なこと言いやがって! ふざけてんのかてめェ・・・オイ、正座しろやオラ!」

「・・・?!」

「わりぃと思ってんなら謝罪しろよ。それが常識ってもンだろうが!」

「・・・」

 ホシマンは正座した。

「どうもすみませんでした」

「・・・」

「・・・」

「ここにある食料は全部置いていけ」

「・・・?!」

「今、謝罪したよなぁ! じゃあ自分が悪いって認めたんじゃねぇか!」

「・・・」

「あとこれから、手に入れた食料は半分ここに毎日収めろ」

「・・・!?

 そんな要求は引き受けられない。

 こっちだってギリギリでやってるんだ」

「んだとテメェ!」

 男はホシマンを蹴った。

「・・・」

 男はホシマンの首を絞め、揺さぶる。

(もう・・・こいつを殺すしか・・・。

 やるか・・・やらないと・・・)

 男は手を離し、子供のほうに歩いて行った。座っていた子供たちは手で頭を覆う。男はサンカクマンを殴った。男はサンカクマンの頭をつかみ地面にたたきつけた。

「俺だってこんなことしたくねぇよ? でもこいつらが人のもの盗んで壊して返さねぇっていうからさぁ!」

 男はサンカクマンの顔をホシマンに向けた。

「自分のせいで子供がこんな目に遭っても、それでも自分のことが一番大事なんだってよ。性根が腐ってるよなぁ! 緑色の血でも流れてンだろ!」

「・・・」

「わかったよ」

 ダイケイマンが言った。

「今から出ていくし、手に入れた食料も半分ここに持ってくる。すまなかった」

 男はサンカクマンから手を離し立ち上がった。

「じゃ、そーいうことでよろしくぅ~」

 男は出口の方に歩いて行った。通り道にいたホシマンの前で止まった。男は足でホシマンの顔を押そうとし、ホシマンは避けた。

「どけオラ」

 ホシマンを足で押しのけ、男は廊下に出て帰って行った。ホシマンたちは男の足音が聞こえなくなってもしばらく黙っていた。子供たちは泣いていた。

 ホシマンは子供たちの方に歩み寄った。

「大丈夫か・・・?」

「・・・」

 返事はなかった。

「・・・。

 あいつは、ガインと言う奴だ。あの、言っておくと、あいつが言っていた、『こいつらが先に手を出した』って話。あれは嘘。

 会うなり殴りかかってきた」

 ダイケイマンが言った。

「・・・そうか。そうだと思う」

「あの人、船でみたよ。僕たちと同じ船に乗ってた」

 シカクマンが言った。

「・・・。

 じゃあずっと前からここにいたってのも嘘か・・・」

「なんで僕たちが出ていかないといけないの?! おかしいじゃん!」

 サンカクマンが言った。

「・・・」

「君の言ってることは正しいよ」

 ダイケイマンが言った。

「だけど、そんなこと言ってもしょうがないんだ」

「おかしいって! あんなやつ殺しちゃえばいいんだよ!」

「・・・それは・・・」

 ホシマンたちはなんて言っていいかわからなかった。


 ホシマンたちは紐と木の棒で即席の担架を作っていた。

「そういえば・・・、ここに来る前、シーポロポロでビムに会った」

 ホシマンは言った。

「おう」

「ブイエスコ・・・、攻撃する方の白い人だけど、さっきの男に殺されたそうだ」

「「・・・!」」

「そうか・・・」

「・・・」

「サンカクマン。さっき、あの暴力男にさ、仕返ししたいって言ってたじゃん」

 ダイケイマンは言った。

「・・・」

「悪い人は、悪い人とバトルするから遠くから観戦してればいいのよ」

「・・・」

 サンカクマンは納得行かないようだった。

 ホシマンは地図を3人に見せ、南側の海岸を指さした。

「ここにダイレクトネクス海岸洞窟というのがある。ここに移動したい」

「おっけー」

「担架ができたらこの洞窟に場所に行こう。

 ・・・。

 今日は徹夜を覚悟してくれ」

 ホシマンが言うと子供たちは頷いた。


 深夜、担架にダイケイマンを乗せホシマン、サンカクマン、シカクマンは担架を持って出発した。ダイケイマンはずっと「すんませんです・・・」と言っていた。

 ホシマンたちは必要最小限の荷物だけ持ち、残りは諦めることにした。武器は廃墟の外に捨てた。他の人に取られると厄介だと判断したからだった。

 ホシマンがプレシジョンの外を伺った。

(誰もいないな)

 プレシジョンを離れるときに作成中のイカダの横を通った。

 ホシマンは3人の方を見た。

「・・・。

 イカダはまた作ろう」

「おっけー」

「ノウハウは頭に残ってる。『財産は盗めても知識は盗めない』っていう言葉があるんだよ、知ってる~?」

 ダイケイマンがドヤ顔で言った。

「ふーん」

 4人は森の中に入っていった。


「一度止まってくれ。またリッポウタイだ」

 ホシマンは子どもたちに言った。担架を運んでいる都合でモンスターを避けて進むことができない場面があった。ホシマンたちは担架を地面に置いた。

 リッポウタイは静止していた。顔がないのでこちらに気づいているのかわからない。

 ホシマンはリッポウタイの頭上に向けて手を掲げた。リッポウタイの頭上に巨大な氷の塊が出現し落ちた。リッポウタイは半壊し氷の塊は霧となって消えた。

 リッポウタイは静止したままであった。ホシマンは休憩を挟んでもう一度同じ攻撃を行った。リッポウタイはバラバラになった。

「ブラボー!」

「ブラボー!」

 ダイケイマンがそう言って拍手するとサンカクマンも真似した。

「・・・」

 シカクマンは目を伏せていた。

「少し休憩させてくれ」

 ホシマンは座り込んだ。

 森の中に人間が通るための道というのは用意されておらず通れる道を通るしかなかった。ホシマンはモンスターと遭遇するたびに、担架をおろし撃退した。


 やがて朝になった。

 ダイケイマンがホシマンの背中を叩いた。

「一度休みなよ。俺が見張ってるから」

「あぁ・・・」

 ホシマンたちは力尽き、一度休むことにした。ダイケイマンが見張りをして、ほかの3人は寝た。


 翌日の昼、3人は目を覚ました。

「「「・・・」」」

 睡眠不足と疲労で誰も話さなかった。夜逃げするときに持ち出したドングリを分け合って食べ、4人は出発した。


「もうちょっとだ・・・」

 3人はフラフラになりながら目的地の近くまできた。すでに遠くに海が見えていた。

「もー、なんで足なんか怪我したんだよぉ~」

 サンカクマンが言った。

「ごめんて~」

「そう言うなって。そういうこと言うと後で自分に帰ってくるぞ」

 ホシマンが振り返って言った。

「そうだそうだ。逆に俺を助けておくと、あとでいいことがあるぞ~」

「例えばどんな」

「え~? え~。・・・」

「ないじゃ~ん」


 夕方に4人はダイレクトネクス海岸洞窟に到着した。

 ホシマンはたいまつを作り洞窟の中を調べた。

(入口は3ヶ所ある。海水が入ってこないエリアはあるがゴミだらけだ。これを片付ければ生活できるだろう)

 ホシマンは洞窟から出てきた。

「人が生活できそうな形状だ。ただし、ゴミが沢山あるから掃除する必要がある。今日はもういい。明日からやろう」

 海岸洞窟より少し内陸に行くと砂浜や樹木があった。流木を集め焚き火を作ると、シカクマンは寝た。4人はそこで休んだ。

 ホシマンが海岸を歩いていると黒い貝が群生している岩があった。ホシマンは、石斧で一つ剥がしダイケイマンに見せに行った。

「これ・・・ムール貝だろうか?」

「そうみえるけど、わからない・・・。というか黒い貝でムール貝以外の貝を俺、知らないし」

「私もだ・・・。焼いてから、米粒大のかけらだけ食べてみよう」

「その役は俺がやるよ」

「・・・」

 ホシマンは焚き火の横に石を置き石の上に貝を置いて焼いた。

 しばらくして貝に火が通った。

 ダイケイマンは貝の身を噛んでカケラだけ食べた。1時間後に問題がなかったので今度は一粒食べた。

「くぅ~うますぎる!」

「毒じゃないといいけどね~」

「うっ は、腹がぁ~」

「あははは」

 ダイケイマンは一人、洞窟の掃除をしていた。ゴミの中にトランプの箱があった。中を見るとカードは全て揃っているようだった。

 ホシマンが焚き火の方を見るとシカクマンは寝ていて、サンカクマンとダイケイマンは木の枝で焚き火をつついて談笑していた。

「トランプがあった」

 ホシマンは焚き火の前に座り二人に渡した。


 1時間後。

 シカクマンは眠りから覚め、ダイケイマンがサンカクマンとシカクマンにポーカーを教えていた。

「フラッシュとストレートってどっちが強いんだっけ・・・」

「フラッシュだったと思う」

「そうだ、ホシマン。さっきの貝だけどなんともないよ」

 ダイケイマンは親指を立てた。

「わかった。とってくる」

 ホシマンは石斧と袋を抱えて黒い貝の群生地に向かった。その後、4人は黒い貝を焼いて食べながらポーカーをして過ごした。


 1か月後。

 ホシマンたちがダイレクトネクス海岸洞窟に引っ越してから1か月が経過した。

 これまでの知識の蓄積があったため、すぐに生活は安定するようになった。生活に余裕が出てきたころ、ホシマンはプレシジョン廃墟に行ってみることにした。

 武器や道具の回収が目的だったが、実際には武器や道具は作り直すことができるため回収する必要はなかった。以前のすみかが、どうなっているか、ホシマンは見てみたかったのだった。

 ホシマンは朝に出発し、昼過ぎにプレシジョン廃墟の近くに到着した。

 廃墟に行く前に、隠しておいた武器・道具の方へ行くと以前の状態のまま置いてあった。新たに作り直した武器・道具のほうが性能はよかったが、使ってるうちにすぐ壊れるため持ち帰れば使いようはあった。

 ホシマンは離れたところからプレシジョンを見てみた。

 イカダが壊されていた。モンスターが壊したのか、雨と風で自然に壊れたのかわからない。しかし、あの男が壊したような気がしてならなかった。

 ホシマンは、恐る恐るプレシジョンの中に入っていった。

 プレシジョンの内部は荒らされていた。あの男が暴れたようだった。ホシマンはこの場に長居するのが恐ろしくなり、すぐに帰ることにした。その日の深夜、ホシマンは海岸洞窟に帰宅した。


 ある日、サンカクマンとシカクマンはいつものように二人で食材を採集していた。

 海岸洞窟周辺にはココナッツの木がなかったが、バナナと紫色の芋があった。

 ダイケイマンがパッチテストを行い、毒がないことを確認しこの二つの食材を食べるようになった。毒のあるバナナは存在せず、果物全般に毒はほぼないが、誰もそのことを知らなかった。

 バナナは食用ではなく野生のバナナであったため味がなかった。それでもバナナは1年中取れるため、何故か旬の終わらないバナナをホシマンたちは不思議に思いながら食べ続けた。

 シカクマンは背中のカゴにバナナを入れていたが、カゴが満タンになっていた。

「一度、バナナを置いてくるね」

 シカクマンはサンカクマンに言った。

「はーい」

 サンカクマンはバナナの収穫を続けた。サンカクマンのカゴもバナナで一杯になったため一度拠点に戻ることにした。


 サンカクマンは拠点に戻った。ダイケイマンはイカダ用の縄づくりをしていた。

「シカクマンは?」

 サンカクマンはダイケイマンに聞いた。

「え?」


 シカクマンがいなくなっていた。

 サンカクマンはシカクマンを探し続けたが見つからなかった。夕方にホシマンが帰ってきた。

「ホシマン、シカクマンがいなくなった。サンカクマンが探している」

 ダイケイマンが言った。

「・・・! 私も探しに行ってくる。どの辺でいなくなった?」

「湿地帯の方だ」

 海岸洞窟のすぐ近くにはジェンキング湿地帯というエリアがあった。ホシマンは湿地帯の方に向かって歩いていった。

 ホシマンとサンカクマンはシカクマンを夜まで探した。夜は捜索が不可能であったため朝が来るのを待った。

「明日、朝になったら湿地帯をもう一度探そう。それと、ネスとガインが怪しい。状況が状況だ・・・。あいつらに会いに行くしかない」

「・・・」

「最終的には、私は死んでも生き返られるし、魔法も使える」

(ついに・・・殺人を犯すことになるのかもしれない・・・)

 3人はイカダ作りをやめてシカクマンの捜索を行うことにした。


 ホシマンは武装してギップ灯台に向かい、一日かけて翌朝、到着した。

(まずは、周囲を調べてみよう)

 ホシマンは石斧を両手で握りながら、ギップ灯台の周りを調べた。生ごみが捨てられていたり、青い雑草が山積みになっている場所があり現在も生活している人がいる痕跡があった。

(突然、背後からやられるかもしれない)

 ホシマンは神経を研ぎ澄ませて周囲を調査した。

 しかしシカクマンの手がかりはなかった。ホシマンは灯台の入口の方に向かった。

(・・・!)

 灯台の前には血と引きずった跡があった。血と引きずった跡は灯台の中へと続いていた。

(・・・)

 ドアの手すりにも血がついていた。ホシマンがドアノブに手をかけるとドアは開いていた。

(シカクマンは今頃、生きるか死ぬかの瀬戸際になっているかもしれない。もう・・・覚悟を決めていくしかない・・・!)

 ホシマンはギップ灯台の中に入った。

(!!)

 ブイエスコの生首が壁に吊るされていた。

 地面は血だらけになっており、ブイエスコのバラバラになった体が散在していた。

(そういえば、ビムが言っていた。ブイエスコはガインに殺された・・・と。あいつのことだ・・・快楽のために死体を弄んだのだろう)

 ギップ灯台の中に螺旋階段があった。螺旋階段は灯台の先端まで続いているようだった。ホシマンは螺旋階段を忍び足で登っていった。

 人の気配がないか耳を澄ませたが、最上部からは風が建物にぶつかる音がしていて分からなかった。

 ホシマンは階段を登りきり、息を殺して最上部を覗いた。

 最上部には人が待機するためのスペースがあった。

(ホコリが積もっている。誰も使っていないようだ)

 ホシマンは待機スペースを見て回ったがホコリの積もったガラクタが置いてあるだけだった。

(シカクマンの手がかりはなかった・・・良かったのか良くなかったのか・・・)

 ホシマンは見張り台から外を見渡した。外にはプロリタン島の森と海が広がっていた。

(美しい大自然・・・という感じはしない。飢餓と・・・病気と暴力の舞台だ・・・。ここでガインが現れるのを待つか・・・ネスに会いに行くか・・・。

 ・・・。

 今、ここで待っていたことを、後で深く後悔するかもしれない。ネスに会いに行こう)

 ホシマンは迷ったが、ここを立ち去り、ネスに会いに行く方を選んだ。ブイエスコの死体の影響が大きかった。


 ホシマンはバーチャルベックス港跡へ向かった。

 途中、老婆やビムと会ってシカクマンについて知らないか尋ねた。しかし、どちらからも手がかりを得られなかった。

 夜、バーチャルベックスに到着した。

(朝まで待ってからネスに会うべきか・・・。まだ、奴らが何かをした、と決まったわけではない。

 しかし・・・。

 『夜中に人を尋ねる非常識をして恥をかく』のと『シカクマンの安否』を天秤にかければ・・・答えは明らかだ)

 ホシマンは周囲を見渡した。

(ネスがどこにいるかわからない。ネスを探しつつシカクマンの手がかりも探そう)

 民家や倉庫などが5軒あった。ホシマンは一つ一つをすべて見て回った。しかしネスもシカクマンも見つからなかった。

(どこに行ってしまったんだ・・・。朝になったらもう一度探してみよう)

 ホシマンはバーチャルベックスの物陰で就寝した。


 翌朝、ホシマンはもう一度バーチャルベックスを探してまわった。

<コン>

<ザッザッ>

(あの家から、小さな物音がする。ネスが隠れているのか?モンスターかもしれない。普通に挨拶したら出てくるだろうか。

 ・・・いや、絶対にそれはないな)

 ホシマンは石斧を構えて小屋の周りを歩いた。

(ネチャネチャした音が小屋からしてくる)

「誰かいるか」

 ホシマンが声をかけた。するとネチャネチャ音は消えた。

(物音が消えた。人間がいる)

 ホシマンは小屋の入口に来た。

「誰かいるか。 返事してくれ」

(返事なしか・・・)

 ホシマンは小屋の中に入っていった。

「うっ・・・ぐ」

 小屋の中は悪臭を放っていた。ゴミで床が見えなかった。

 ゴミは埃がなく、最近置かれたもののようであった。ホシマンはゴミの上を歩いて行った。

 小屋の中を調べると、座り込んで固まっている人間がいた。

 ネスがいた。

 ネスの足元にはバナナとバナナの皮があった。

「どうも・・・」

 ホシマンは言った。

「・・・あ・・・はい・・・」

(・・・?)

 ネスは前回と雰囲気が違っていた。

「勝手に入ってきてすまない。聞きたいことがある」

「あ、はい。なんでしょう?」

(言葉が通じる・・・?)

「シカクマンという子供が行方不明になっていて探している」

「は、はぁ」

「知らないか」

「いえ、ちょっと、わからないです」

「・・・。

 どんなことでもいい。知っていたら教えてほしい」

「自分はここで採集生活をしているだけです」

「・・・。

 そうか。一応、他の小屋の中も調べさせてほしい」

「いや・・・あまりそういうことをされるのは・・・」

「何か困ることがあるのか」

「いえ、そういうわけではなく・・・。いいです。どうぞ調べてください」

「・・・」

 ホシマンは小屋を出た。

 他の建物をすべて調べたがホコリの積もった廃墟であり、人の痕跡はなかった。

「・・・失礼した」

 ホシマンはネスに伝えてバーチャルベックスを後にし、拠点に帰った。


「ネスに会ったが知らないと言っていた。ネスの周りにシカクマンの手がかりになりそうなものはなかった」

 ホシマンはダイケイマンとサンカクマンに言った。

「・・・。

 となるとガインか、モンスターか・・・?」

「モンスターに襲われた、のほうがあり得ると思う。ガインがシカクマンを誘拐するのがわからないし、仮にそうだとしたら人質を使ってゆすりに来るだろう。モンスターはこの島のどこにでもいる・・・」

「「「・・・」」」

 すでにシカクマンが行方不明となってから1週間が経過していた。


 さらに1週間後。

 シカクマンが行方不明となってから2週間。皆、諦め始めていた。

 ある日の昼、ガインがやってきた。その日、ホシマンは遠出しておらず海岸洞窟にいた。ガインはホシマンの方へ早歩きでやって来て、肩を強く掴んだ。

「おい! てめェ・・・」

 ホシマンは手を払おうとしたがガインはホシマンの首を掴んだ。

「舐めたマネしやがったな・・・。ブチ殺すぞこの野郎!!」

 ガインがホシマンの顔面を殴った。

 ホシマンはよろめき倒れた。ガインは倒れたホシマンに駆け寄るとホシマンの頭を何度も踏みつけた。

 ホシマンは丸まって手で頭を守った。

「・・・!」

 ホシマンの背中に激痛が走った。

 ガインはニヤけながらホシマンの背中やわき腹をナイフでつついていた。故意に1センチ近く刺していた。

 

(・・・っ。

 やはり殺すしか・・・)

 ホシマンはガインの足首を掴んだ。ホシマンが足を凍らせようと力を込めたとき、「ドス」という音がした。

 ガインの腕に矢が刺さっていた。

 周りを見回すとダイケイマンが弓を構えていた。

「てめぇ・・・!」

「どうしてこの場所がわかった」

 ダイケイマンはガインに聞いた。

「はぁ? なんでンなこと、言わなきゃいけねぇんだよ!

 ・・・。

 あ」

 ガインは何かを思い出し、ニヤニヤと笑い出した。

「頭が四角のガキから教わったんだよ」

「「!!」」

 ホシマンはガインの腕をつかんだ。

「シカクマンはどこだ。話せ」

 ガインの腕は燃え始めた。

「なっ・・・!」

 ガインは暴れ、ホシマンが手を離すと後ずさりした。

「俺は知らねぇよ・・・! ネスが言ってたんだ」

「ネスはシカクマンのことを知らないって言ってたぞ」

「・・・!

 チッ、バカが!

 あいつは嘘しか喋らねぇんだよ!」

 ガインは走り去ろうとした。ホシマンは追いかけた。

(こいつを逃したら、シカクマンへの手がかりを失う。もう逮捕されようが刑務所に入ろうが知ったことか・・・!)

 ホシマンが走り出したとき、どこからか現れた亡霊がサンカクマンやダイケイマンの方へ向かってきていた。

(くそ・・・こんなときに!

 亡霊はゆっくりとしか歩けない・・・。

 後で対処するようにしたいが、それだとダイケイマンが・・・)

「!!」

 ホシマンは立ち止まった。

「そんな・・・」

 亡霊はシカクマンだった。

 シカクマンの亡霊は無表情でサンカクマンに近づいてきた。

 サンカクマンはたじろぐが、シカクマンと触れても何も起きなかった。シカクマンはサンカクマンの隣で座った。サンカクマンもそれを見て座った。シカクマンはサンカクマンの隣でくつろぎ始めた。

 ホシマンは膝から崩れ落ちた。


 3人はしばらくシカクマンと過ごした。シカクマンはサンカクマンの近くをうろうろするだけで何もしなかった。

「このまま同居するかぁ・・・?」

「え・・・。別にいいけど・・・」

(ありなのか・・・? まぁそういう漫画とかあるよな・・・)

 ホシマンがシカクマンの方を見ると、シカクマンが森の方を見つめていた。

(?)

 シカクマンは後ずさりした。

 ホシマンは武器をもって森の方に歩いて行った。森の方に歩いていくとガサガサと葉っぱの擦れる音がした。逃げているように聞こえたのでホシマンは走って確認しに行った。

 そこにはモンスターがいた。半球状のモンスターだった。

(いや・・・違う。こいつは関係ない。さっきの音は森の奥の方に走り去っていった・・・。気になるが、こいつはこいつで倒しておこう)

 ホシマンがモンスターと距離をとって弓矢で戦おうとするとシカクマンがやってきた。

「どうした? どうした?」

 サンカクマンは追いかけた。シカクマンはホシマンの横を通り過ぎると敵の方に歩いて行った。

(・・・?)

 シカクマンが敵の方に歩いていくとシカクマンは姿を消した。

「・・・」

 モンスターは苦しんでのたうち回っているようだった。モンスターはやがて赤く変色し、人型に変形していった。

「これ・・・シカクマンじゃないか?」

 頭の形が四角になっていた。

 何が起きているか分からないが・・・もしかしてシカクマンは生き返るのでは・・・、そんな期待を皆がしていた。

 しばらくして変形が終わり、シカクマンと同じ形状で全身が赤い人の姿があった。赤い人は立ち上がった。3人とも何が起きるか息をひそめて見守っていた。

 赤い人は「あー」と言いながら、サンカクマンの方に歩いて行った。その歩く姿と声からシカクマンであることは疑いようがなかった。

 シカクマンは亡霊だった時と同じようにサンカクマンの周りをウロウロした。「あー」と「うー」しか話せないようだった。

「よかったよかった」

 ダイケイマンは言った。

「シカクマンは元々大人しくて頭よかったし、また言葉を覚えなおして元通りになれるんじゃないか?」

 ダイケイマンはドングリを見せた。

「食べなー」

 シカクマンはドングリをじっと見ると手に取って食べた。

 そこに黒い渦が現れた。黒い渦から角の生えた人が現れた。

「!?」

「だ、だれ!?」

「彼が前に話した角の生えた人だ」

 ホシマンは仲間に伝えた。

「『角の生えた人』・・・。まぁいい」

 角の生えた人、という呼び名に少し引っかかったようだった。

「一応、親切で教えるんだが・・・。

 彼はレッドマン。シカクマンの魂にモンスターの肉体が合体した姿だ」

「・・・」

「レッドマンは一日しか生きられない」

「「!!」」

「それは本当なのか・・・!」

「本当だ」

「・・・」

「信じなくてもよいが、教えなかったときの、結末を何度か見ているので教えることにしている」

「・・・何か方法はないのか」

「ない」

 角の生えた人はレッドマンに近寄り頭を撫でた。

「・・・」

 角の生えた人はレッドマンから離れ黒い渦を出現させた。角の生えた人は黒い渦の中に消えた。

「まぁ・・・本当なんだろうな・・・」

 ダイケイマンが言った。


 ホシマンたちは何もする気が起きなかった。適当に時間を過ごしていた。

「ダイケイマン、サンカクマン、あの老婆のところに行ってくる」

「ん? あ、あぁ」

「できることがないか確認しておきたい」

 ホシマンはシカクマンに歩み寄った。

 シカクマンは怪訝そうに身構えた。

 ホシマンが握手をしようとシカクマンに手を差し出した。しかしシカクマンはその意味を理解できなかった。

 サンカクマンがシカクマンの腕をつかんでホシマンと握手させるとシカクマンは笑顔になった。

「行ってくる」

 ホシマンはシカクマンに言った。

 地図を確認すると、老婆がいた場所はセントオーズ神社というところのようだった。ホシマンはセントオーズ神社へ駆け足で向かった。


 数時間後、ホシマンはセントオーズ神社に到着した。神社の周辺を探すと老婆の姿があった。

「どうも、ひさしぶりです」

「どうも」

「教えてほしいことがある」

「なんだろう」

「レッドマンという言葉をしっているか?」

「知らない」

「・・・。

 亡霊とモンスターが合体すると全身が赤い人間が誕生するんだ」

「・・・はぁ?」

「・・・。

 まぁ、とにかくそうなるんだ。

 だけど赤い人は1日で死んでしまうらしい」

「・・・」

「1日で死んでしまうのを回避する方法を知っていれば教えてほしい」

「・・・。

 悪いけど、知らない」

「そうか・・・。何か関係なさそうなことでも、どんなことでもいいから知っていることがあれば教えて欲しいのだが・・・」

「・・・。

 うーん。知らないなぁ」

「・・・。

 そうか。ありがとう。」

 ホシマンは老婆にお礼を言うと海岸洞窟へ帰った。


 ホシマンが海岸洞窟へ帰るとシカクマンがうずくまっていて「うーうー」と言っていた。ほかの二人は座ってシカクマンを見ていた。

「どうした?」

「赤い実を見せたらうずくまってしまった。毒抜きしてある赤い実だ」

「へぇ・・・。

 ・・・。

 亡霊には生前の未練でワードブレスを奪おうとしてくる、というのがあるが・・・」

「ふーん。じゃあ赤い実で死にそうになったことがあったのかな」

「見たことないけど、実はあったのかもな」

「ははは、気づかなかったよ。ポーカーフェイスだなぁ」

「赤い実は見えない場所に隠しておこう」

 ホシマンたちは赤い実を見えないところに置くことにした。

 その日の夜。

 ホシマンたちはせめてもの施しとしてシカクマンに食事を沢山用意した。

 夏が近づくにつれ、プロリタン島ではマンゴーやパパイヤなどが収穫できるようになっていた。

 サンカクマンがシカクマンに自分の弓矢を見せていた。

「わかる? これ。弓矢なんだけど」

 シカクマンは興味ありげに見ていた。

「こうやって使うんだよ」

 サンカクマンは矢を10メートルほど先にある的に向かって放った。

<カン>

 的に当たると乾いた音がした。

 サンカクマンがシカクマンに用心しつつ渡すとシカクマンも真似して矢を的に放った。

<カン>

「自転車みたいに、どうやって操作してるか自分でもわからないような動きは出来るんだろう」

 ホシマンが言った。

 その日の夜、4人は弓矢で的あてをして遊んだ。

 翌朝、シカクマンの咳き込む声で目を覚ました。苦しすぎて起き上がれないようだった。

 シカクマンは血を吐き、息が浅く早かった。

(クソ・・・どうすることもできない・・・)

 すぐ近くにビムが立っていた。

「びっくりした・・・全然気づかなかった」

 ビムはシカクマンの様子を興味ありげに見ていた。

「シカクマンだよ。亡霊になって、モンスターと合体してレッドマンになったんだ」

 ビムは無表情だった。

「レッドマンのことは知ってた?」

「知らなかった」

「・・・。

 レッドマンは一日で死んでしまうんだって。何か助かる方法を知らない?」

「知らない」

「・・・」

 3人とも下を向いた。

 シカクマンはますます苦しむようになった。シカクマンの苦しむ声と咳と嘔吐の音がずっとしていた。

 息はとても荒く、涙を流して苦しんでいた。

(死ぬまであと3時間くらいだろうか・・・)

「もう・・・楽にしてあげないか」

 ホシマンが言った。

「・・・」

 誰も返事はしなかった。

 サンカクマンは少し戸惑ったが、シカクマンから離れた。

 ホシマンが石斧を持って立ち上がり、両手で握りしめた。

 ダイケイマンとサンカクマンは目をそらした。

 しかし、ホシマンは石斧を振るうことができずに座った。


 数時間後、シカクマンは死んだ。

 シカクマンは苦しみ続け、その過程で徐々に形が崩れていった。そして死ぬと赤い液体となった。3人はしばらくその場から動けなかった。

「君と初めてドングリを食べたときのことを思い出すよ・・・」

 ホシマンは、ビットナビ森林でドングリを上げたときのことを思い出していた。

<ガサガサ>

「うぃっす、うぃっす」

 森の方から男が一人やってきた。ネスだった。

「あれ~(笑)どうかしたんですか~?(笑)」

「・・・」

「どっかいっててくれ」

 ダイケイマンが言った。

「え~(笑)なんでここにいちゃいけないんですか?(笑)」

「シカクマンが死んだ・・・」サンカクマンが言った。

「え~いや~それは悲しいなぁ~(笑)うえ~んうえ~ん(笑)」

「・・・」

 ネスは口元を抑え屈んで顔を隠すようにした。

「んふっ・・・んふっ・・・」

「お前・・・」

「あっはっはっは! 人が死んでる(笑)今夜は宴会やー! 今日は一日中酒でも飲んでようかなぁ(笑)」

 ネスは笑いすぎて立てなくなり膝をついた。

「・・・」

「なぜ笑う」

「だって本当は皆悲しくないのに、悲しんでる演技をしてるのがおかしくて(笑)」

「演技・・・?」

「だって、悲しいわけないじゃん(笑)どうみたって、あはっ、あはっ、別人じゃん(笑)」

 ネスは地面に転がり足をバタバタさせた。

「あははははっ、ぷっ、くっ、あっ、あはははははっ」

「お前、シカクマンがなぜ死んだか知ってないか?」

「いや~全然(笑)全く知りません(笑)なぁ~んで私がそんなこと知ってるんですか(笑)」

 ホシマンはネスに馬乗りになった。ネスが笑い転げていたから簡単だった。

「知ってることを言え」

「だから、知りませんよぉ~(笑)」

<バン>

 ホシマンはネスの顔面を殴った。そして頭をつかんで激しく揺さぶった。

「知ってることを言ええええ!!!」

「ちょっとちょっと(笑)

 え~、なんか~やめろっていうのに自分で食べたんですよぉ~。僕は『ソテツっていうんだよ~、食べたら死んじゃうから駄目だよ~』て言ったんですよぉ~。でも、『パクパクパク~おいし~おいしおいし~』って言って食べちゃったんですよ(笑)」

「そんなわけないだろ。シカクマンは赤い実が猛毒だって知ってたんだぞ」

「だ~か~ら~、僕はシカクマンが食べてる最中も『いますぐやめなさ~い』って言ったんですよぉ~(笑)力づくで止めても食べ続けたんですよ~(笑)多分、この子、知的障碍者だったんですよ(笑)だってほら、この人も障碍者だし(笑)」

 ネスはホシマンの方を指さした。

「知らないんですか~(笑)この人、両親も障碍者なんですよ~(笑)」

「ホシマン! やめろ!」

 ダイケイマンの声でホシマンは振り上げた拳をおろした。

 ネスは全身が震えていた。言動とは対照的に恐怖で震えてしまっているらしかった。

「信じてくださいよぉ~(笑)『猛毒ってみんな言ってるけど、どうせ嘘だーい、ガインに皆のこと話しちゃおー』って言って食べたんですよぉ~(笑)」

「・・・。

 『ガインに居場所をバラされたくなかったら赤い実を食え』って脅してシカクマンに食べさせたな?」

 ダイケイマンは言った。

「え~違いますよ違いますよ、違いますよぉ~(笑)『もうわかったからやめて、もうこれ以上食べないで』って言ったんですよぉ~(笑)」

「・・・。

 つまり、『1個食べないとバラす』『やっぱり2個食べないとバラす』『やっぱり3個食べないとバラす』と条件を変更し続けて食べさせ続けたのか?」

「ちょっと~(笑)想像で話すのやめてくださ~い(笑)僕がそんな酷いことするわけないじゃないですか~(笑)『あいつらあの辺にいるからやっちゃってくださーい』って言ってましたよ(笑)」

「そして、シカクマンが命と引き換えに、ガインに居場所を話さないよう懇願したのに、ガインに教えに行ったわけだ」

「違いますって(笑)あの子の頼みを聞いたんじゃないですか~(笑)」

「・・・」

 ホシマンは立ち上がった。

「・・・。

 もういい。どっか行け」

 ホシマンがそういうとネスは立ち上がった。

「あーひどいひどい」

 ネスは手と膝を震わせながら、シカクマンに手を振った。

「じゃあね~天国で好きなだけソテツ食べるんだよ~(笑)」

「・・・」

「わーいわーい、人が死んだ~、人が死んだ~」

 ネスはスキップしながら森の中に消えた。

<ガン>

 ダイケイマンはこぶしを地面にたたきつけた。

「僕の言うとおりだったじゃん!

 ガインを殺してればシカクマンが死ななくて済んだんじゃん!」

 サンカクマンは言った。

「・・・」

「・・・」


 3人は赤い液体が染み込んだ土を崖の方に持っていった。石を土の上に立たせてシカクマンの墓とした。

 一週間くらいは皆何も話さず静かにイカダづくりをしていた。

「ホシマンがイカダに乗って出発した後のことだが・・・」

 ダイケイマンが言った。

「あいつらが襲撃してきたときのことを考えてみたんだ。」

「・・・」

「そのときは・・・、まず、サンカクマンはとにかく走って逃げてくれ。それと逃げる道順を二種類ぐらい考えて欲しい。岩と岩の隙間を通るとか、川を泳ぐとか、川の上にあらかじめ石を置いておいて、ジャンプして対岸に行くとか。ターザンごっこするギミックとかあるといいと思う」

「うん」

「俺の方は、ロープを使ったギミックを考えてみるよ。ターザンみたいな一人しか通れない逃走経路を用意してみようと思う」

「・・・」

「あと、食べ物を3か所くらいに分散して貯蔵しておきたい。ここにいつまでいられるかわからない」

「・・・。

 いいと思う」

 その日から、3人はイカダ作りと並行して、逃走経路の作成と貯蔵庫の作成を行った。


 2か月後、イカダ制作の完成が近づいてきていた。イカダには帆がつけられ、追い風であれば推力を得ることができるようになっていた。

 向かい風でも船を前進させる方法があるが、3人は知らなかった。

 存在することを知らなかったため、調べようという発想に至ることができなかった。

 逃走経路と貯蔵庫の作成が完了した。

 貯蔵庫を2ヶ所決め、そこに食料を配置した。

 1ヶ所目は、以前、訪れたことのあるウブントゥ洞窟とした。以前訪れたときは亡霊がいたため、すぐに引き返したが、ホシマンの魔法力が向上したことにより余裕を持って討伐することができるようになっていた。そうして中にいた亡霊をホシマンがすべて退治した。

 2ヶ所目は『レッドパット河畔』という場所にした。(河畔というのは、川岸、河原のこと)

 生活するのに水が必要なため、3人は、この場所を2ヶ所目の食料貯蔵庫に決めた。

 ホシマンはウブントゥ洞窟とレッドパット河畔に食料と生活必需品を隠した。

「・・・。

 なぁ、ホシマン・・・」

 ダイケイマンはホシマンに耳打ちした。ホシマンがダイケイマンの方を見るとダイケイマンはサンカクマンの方を指さしていた。

 サンカクマンが石を削ってナイフを作っていた。

 サンカクマンは武器の制作とトレーニングに励んでおり復讐を企んでいるようだった。しかし、ホシマンとダイケイマンのどちらもそのことに触れられなかった。

 あの日以来、ネスとガインは現れなかった。


 ある日の夜、3人は焚火の前に座ってバナナとパパイヤを食べていた。

「8月で契約してから1年になる。9月になってから戻ってきたい。8月で死んでしまうかもしれないし、戻ってきて島に降り立った時に死んでしまうかもしれない。来る途中の船で死ぬかもしれない」

 バナナを食べながらホシマンは言った。

「面倒くさがったり、怖がって、戻ってこない、というのは絶対にしない。誓わせてくれ」

「あぁ信じる。日頃の行いがいいからな」

「まってるよー」

「ありがとう。骨になっても戻って来てみせる。政府に協力を要請したら余計に戻ってこれる確率が減る気がする。どうにかしてモーターボートみたいのを手に入れてこっちに来るよ。最悪、船を盗んで、犯罪者になってでも必ず来る」

「お、おう・・・」

「島に戻ってくるときだけど、島に近づいたら契約が復活して船を操縦しながら死んでしまうかもしれない。その場合、何とかして船を捕まえてくれ」

「もし、まぁ・・・ないほうがいいけど、その場合は、無人状態の船を捕まえないといけないな」

「そうだ。とりあえずの決行日を決めておこう。9月1日になったらここから海の方に船が来ていないか見ていてくれ。

 ・・・。

 それと、もし、事件に巻き込まれたとかで、この場所が難しかったらシンクハット海岸に来てくれ」

「・・・」

 ダイケイマンは考え込んだ。

「何か見落としてることはないかな」

「「・・・」」

 3人は食べるのを一度止め考え込んだ。

「よく話題に上がるけど天気のことを考えたほうがいいな・・・」

 ダイケイマンは少し考えた。

「今日から北西の空を見て、天気がどうなる確率が高いか記録しよう。

 まぁ・・・イカダはひっくり返ってもいいように作ってるけど、海が荒れたらイカダはもうダメだろうな・・・」

「対岸まで100kmだから、イカダが壊れても、頑張って泳げばたどり着ける可能性はある。

 ・・・。

 一番の心配は南に流されてブレンバー海域の方に行ってしまうことだ・・・」

 南側は島も大陸もなく海だけの世界だった。

「途中、周りは海だけになるからどれだけ流されても気づかないかもしれない。船で航海している人が星を見て現在地を確認、みたいなシーンを映画で見たことがある。あれがどういう仕組みなのかわからないな・・・」

「俺にもわからん・・・」

「・・・。

 今思いつく対抗策は、短期決戦で一気に100km走破するということだろうか。時間がかかるほど違う方向に行ってしまいそうだ」

「うーん・・・」

「ホシマン、前さ、氷の塊を落とす魔法、見せてくれたじゃん?」

サンカクマンが言った。

「ああ、見せた」

「氷が空中に浮かんでるときにホシマンが移動すると、氷ってどうなるの?」

「・・・なるほど」

 ホシマンはバナナを口の中に押し込むと、手を掲げて空中に氷を出現させた。

「サンカクマン、私を持ち上げて移動させてみてくれ」

「えぇ・・・」

 サンカクマンはホシマンを抱きかかえて3メートルほど移動させた。

 氷の位置は変わっていなかった。

「おぉー」

 ダイケイマンは両腕で丸のジェスチャーをしていた。

「明日、海でも試してみよう」


 翌朝、ホシマンは海面に浮かびながら氷を出現させた。潮の流れや自ら泳ぐことでホシマンの位置が変わっても、氷の位置は変わらなかった。

 ホシマンが砂浜のダイケイマンとサンカクマンを見ると笑いながら両腕で丸のジェスチャーをしていた。


 それから1ヶ月経過し、イカダの3号機が完成していた。

 ホシマンたちはイカダ3号機で繰り返し、練習や検証、改良を行っていた。

 最初は1時間程度のオール漕ぎが限界であったが1ヶ月経つ頃には、休憩をはさみながら数時間オールを漕ぐことができるようになっていた。

 また、ホシマンたちは1時間でどれくらい進めるかなどを検証した。

 航行速度はおよそ時速2Kmで、風向きと海流が味方しなければ到達は不可能であることが判明した。

 この日、ホシマンは出発のためイカダに荷物を積んでいた。

 荷物を積み終わると二人の方を振り返った。

「じゃあ・・・、行ってみるよ」

「・・・、あぁ、死ぬなよ」

「・・・」

3人に笑顔はなかった。


 そこへ黒い渦が現れ、角の生えた人が現れた。

「あ、あぁ、どうも」

 皆、目をそらした。

「楽しんでいるね」

「は、はい・・・」

「何をしようとしている?」

「・・・!」

 3人の間に緊張が流れた。

「外に助けを呼びに行きたい。それと・・・島から出ると1年で死ぬ契約がなくなると聞いた」

「・・・。

 契約がなくなるというのは正しくない。契約はなくならないが、手続きはできなくなる」

「・・・」

(手続きというのは命の回収のことか)

「この島からの脱出に成功したら契約をなくしてやろう」

「・・・!」

「まぁ、なんとなくだ。契約が一つ減ったところで私には大した損害ではない。

 それに、外の世界で魔法を使って有名になられても困る」

「・・・。

 ありがとう」

「ありがとうございます! 角のおじさん!」

 サンカクマンが言った。

「・・・。

 じゃあ角のおじさんは失礼するよ」

 角の生えた人は黒い渦の中に帰って行った。

 ホシマンはイカダに乗り込みジーフォーク共和国に向かって漕ぎ始めた。

 3時間後、陸地は見えなくなり全方位が海だけになった。このときホシマンは海が美しく豊かなものではなく死の世界に感じた。

 飛ばしすぎると力尽きてしまう。休憩をはさみながら漕ぎ続けた。常に濡れた状態であり、揺れるため寝ることはできなかった。それに寝たら流されてしまうため寝ずに漕ぎ続けることにした。


 2日目。

 ホシマンは仮眠から目を覚ました。

 1時間程度の仮眠を取りながら漕ぎ続けていた。海水を浴び続け、寒すぎて寝ることはできなかった。

 仮眠している間にどれくらい流されているか、ホシマンにはわからなかった。

 睡眠不足と船酔いですでに疲労困憊(ひろうこんぱい)であったが、漕ぎ続けた。

 昼間になるとよるとは反対に過酷な暑さとなった。ホシマンは時々イカダから降りて涼んだ。

 船酔いで吐きそうになったが水と食料が限られているため堪えた。


 3日目。

 イカダの周りにはココナッツの実が浮力兼食料として取り付けられていた。

 暑さと寒さと全身運動により、食料は想定の2倍の速度でなくなっていってしまっていた。

 ココナッツが減ることにより浮力が減って進行速度も下がってしまっていた。

(いつ天候が荒れるかわからない・・・とにかく急がないと。

 ・・・。

 あ、ココナッツの殻を取っておけば雨水が貯められるじゃないか。くそ・・・捨てなければよかった)

 海鳥がホシマンの周りを飛んでいた。海鳥を見るのが今のホシマンの唯一の癒しであった。

 やがて極度の睡眠不足のため夢と現実の境が曖昧になっていた。クマがイカダにいると勘違いしてココナッツに怯えたり、海中で溺れていると勘違いして空に向かって泳いだりしていた。


 4日目。

 食料が残り2日分となった。ココナッツはすべて食べ、水はなくなってしまっていた。

 雨が降れば水を貯められるが都合よく降ってくることはなかった。

(とっくに南に流されて、全然関係ないところをさまよっているのかもしれない)

 両手でオールを漕いでいたため、ホシマンは進行方向に背を向けていた。

 昼頃、後ろを振り返ると念願の陸地が姿を現した。

(・・・。

 死なずにすんだ・・・)

 ホシマンは海岸に到着し意識を失った。


 数時間後、ホシマンは目を覚まし砂浜から内陸の方に歩いていった。

 しばらくして道路を見つけた。

 道路を歩き続けるとガソリンスタンドがあった。そこでホシマンは今いる場所がジーフォーク共和国であることを確認した。北西に進んでいたつもりだったが南に相当ずれていた。

 その日からホシマンは法律を無視して救助を最優先することにした。


 3か月後、8月31日。

 ホシマンは深夜の海岸にいた。

 ホシマンはラデオウ連邦に密入国していた。政府に頼るわけにはいかなかった。

 プロリタン島は国家的な犯罪の舞台となっているため、政府が救助に協力するか分からなかった。それどころかホシマンが暗殺されてしまう可能性もあるとホシマンは考えた。

 島には危険人物が二人いるため急いで救出に向かう必要もあった。自分で向かうしかなかった。

 モーターボートに乗るための免許は二日でとることができ、誰でも受かるようだった。しかし陸から9kmしか運転できなかった。

 ラデオウ連邦からプロリタン島までは140kmあり、個人が合法的に行くことはほぼ不可能だった。小型船舶の免許を取得するにもホシマンは密入国者だった。

 ホシマンは借金をして中古のモーターボートをネットで購入した。そして自家用車にボート取付用の器具を取り付け、モーターボートを取り付けた。

 さらに海上でも現在地を確認できるGPS受信機を購入した。

 日に日に無人島での生活はホシマンにとって過去の記憶となっていき、記憶の中のダイケイマンとサンカクマンの声、形が曖昧となっていた。

 今も二人はプロリタン島にいる。命がけの逃亡生活をしているかもしれない。どちらかは悪魔と契約しているかもしれない。

 決意が薄れ、このまま二人の救出をやめて普通の生活をし始めてしまうのではないか、そのことがホシマンは恐怖だった。

 そして、8月31日まで息を潜め、8月31日に海岸までやってきた。

 最悪、二人を救出した後なら、警察に捕まっても良い。警察に捕まれば助かるからだ。

 ホシマンは郵便ポストに封筒を数枚いれた。

 封筒のあて先は存在しない住所であり、送り主が警察やマスコミとなっていた。

 存在しない住所が書かれた郵便物は送り主のもとへ帰ってくる。そして、送り主のもとへ帰ってくるのは1~2週間かかる。ホシマン単独による救助が失敗し、死亡した場合、プロリタン島に生存者がいるということを誰も知らなくなってしまう。かと言って、警察に頼れば救助自体ができなくなる可能性があった。

 ホシマンが救助に失敗した場合、警察に郵便物が届き、ホシマンが死亡した場合でもプロリタン島に生存者いるという情報が残せる、という作戦だった。

 郵便物には、生存者がいるということだけが書いてあり、差出人や生存者の情報は載せていなかった。もし救出に成功すればそのままで問題なかった。

 ホシマンは意を決してプロリタン島に向かって出発した。


 何もない真っ暗な海をモーターボートで進んだ。モーターボートの最高速度は時速20km程度。時々、GPS受信機で現在地を確認した。イカダで航海したときとは打って変わって危なげなく目的地まで到達できそうだった。


 翌朝、ホシマンはダイレクトネクス海岸洞窟の辺りに到着した。

 ボートで海岸洞窟に近づくと人の姿が見えた。

 サンカクマンだった。サンカクマンはこちらに気づき手を振った。サンカクマンはそのあと、一度、奥に引っ込み、そのあと、ダイケイマンが杖を突きながら出てきた。

 ホシマンは海岸洞窟に到着すると、ダイケイマンたちに手を振ってから、水上ボートをロープで岩にくくりつけた。

「それが流れて行っちゃったら大変だよ」

 ダイケイマンは笑いながら言った。

「ははは」

「冗談よしてくれ」

 ホシマンは海から上がり砂浜に到着した。ダイケイマンとサンカクマンも砂浜にやってきた。

「よかった・・・ほんとうによかったよ・・・」

「待ってたぜー!」

「歩けるようになったんだな」

「おー、杖があればね」

「・・・。

 あいつらは来なかったか?」

「来たよ。両方とも餓死寸前の状態でな。ガインの方は夜中に泥棒に来た。普通に『食べ物をくれ』って言ってくれればいいのに。こっちの姿に気づいたら逃げて行った。そのあとは会ってない。

 ネスの方は、まぁ・・・いつもの感じで脅迫してきたから追い返した。二人がどうなってるかはわからない」

「わかった。すまないが警察が来るかもしれないから急いで帰ろう。一般人がここに来るのは違法なんだ」

「お、 おーけー」

「シカクマンの墓、見ていくか?」

「・・・。

 あ、あぁ・・・」

 海岸洞窟を通り過ぎ、内陸の方に行くと、以前と変わらない姿でシカクマンの墓があった。

 ホシマンは墓の前で正座し、手を合わせて目をつぶった。

「「「・・・」」」

「じゃあ・・・、行こう」

 ホシマンは立ち上がり、3人でモーターボートのところに向かった。

 モーターボートの中にはタンクが8個あった。

「船は、実は燃費がすごく悪いんだ。1リットルで2Kmくらいしか進めない。160リットル持ってきた。ガソリン入れるから待っててくれ」

 モーターボート内のガソリンの残量は1割以下、すでにガソリン携行缶は一つが空になっていた。

 ホシマンは20リットルガソリン携行缶を3つ使いガソリンを満タンにした。

「帰りは、乗員が3人で海流が進行方向と逆向きになる。それを加味すると80リットルくらいで足りるはずだ」

「わかった」

「乗ってくれ。10時間くらいかかる。食料と水はボートの中に用意してある」

 3人はモーターボートに乗った。

「久しぶりのお菓子だ」

「小さくて軽くてカロリーの高いものにしたから、お菓子ばかりだ。好きなだけ食べてくれ」

 ガソリンの匂いが充満する。鍵を回すとエンジンの力強い音がした。

(たのむ・・・このまま無事帰らせてくれ・・・)

 縄を外し、ホシマンたちは出発した。

 ホシマンはGPS装置を確認しながら進んだ。

「うぉ~すげぇ~」

「1年前に船に乗った時を思い出すなぁ~」

「・・・」

 ダイケイマンとサンカクマンは潮風を堪能していた。後ろを見るとすでに遠くなっている島がみえた。サンカクマンは海岸に角の生えた人が立っていることに気づいた。サンカクマンは手を振った。


 9時間後、3人はラデオウ連邦の本土に到着した。

 3人はホシマンの家で一泊することにした。ホシマンの家に到着したあとサンカクマンは母方の祖父母の家に電話した。迎えに来てもらうことになった。

 そこでサンカクマンの両親が1年前の海難事故によって亡くなっていることを知った。


 翌日、ホシマンの家に老夫婦が車でやってきた。サンカクマンは老夫婦と共に帰っていった。

 それから、ホシマンはダイケイマンを連れて病院に行った。そこで去年の海難事故の生存者が帰還している、ということが明るみになった。ホシマンたちは警察の事情聴取を受けることになった。


 1年後、サンカクマンの家の近くの喫茶店に3人が集まった。

 あれからSNSで連絡を取り合っていたが久しぶりに会うことにしたのであった。

 1年前、ラデオウ連邦に帰還したとき、ホシマンは警察に逮捕された。そして事情聴取を受けた後、釈放となった。

 オプティプル島へ向かう船が沈没した本当の原因は、船の修繕費として政府から送られていた助成金を公務員が懐に入れていたことだった。船は修理されずに修理されたことになっていた。

 ラデオウ連邦ではジャーナリストが政府によって暗殺されることが日常だったためホシマンたちの帰還は小さく報じられた。

 また、高度に文明が発展した情報化社会に置いて、『無人島からの生還』というニュースは毎秒追加され続けるネットニュースによって、すぐに埋もれた。

 ホシマンは借金を返済するため、倉庫で働くようになっていた。

 ダイケイマンは複数回に及ぶ骨の整形手術を受け、ついに歩けるようになっていた。

 サンカクマンは母方の祖父母の家に住むことになり小学6年生となっていた。

 喫茶店に集まった3人はメニューを見ていた。

「これを注文するしかね?な?」

 ダイケイマンはメニューの写真を見せた。サンカクマンとホシマンが顔を近づけると、写真のメニューはパエリアだった。

「結局、あの黒い貝は本当にムール貝だったらしい」

 ホシマンが言った。

「味比べしてみよう。パエリアのさ、ご飯の中に貝殻とかエビの殻が入ってるの、ちょっと嫌だったんだよね」

「今は?」

「うーん・・・」

「無人島生活で泥まみれのものをあんなに食べてたのに・・・」

「そうなんだけどなぁ~」

 やがてパエリア、ナタデココ入りのデザート、フルーツが運ばれてきた。

「『なんでこいつら果物ばっかり注文するんだろう』って思われてそう」

 ダイケイマンが言った。

 3人はムール貝を食べた。

「同じだ~・・・、まーでも、無人島で食べたやつには叶わないね~」

 サンカクマンは得意げに言った。

 ホシマンはあの日のことを思い出していた。

「徹夜で森を歩いて、村役場から海岸洞窟に行ったことがあった。

 あの日は、夜に海岸洞窟について、それで焚き火を4人で囲んで、この貝を食べながらカードゲームをした。懐かしいな」

「・・・。

 次集まるときは3人で砂浜に行くか?」

「行きたい!」

「・・・」

 3人はお互いの顔を見た。

「決まりだな」

 ホシマンは言った。


 完


   あとがき


 一般的に、ゲームでは主人公は死んでも生き返る。また、いつまでも走れる。キャラクターが飲まず食わずだとか、体力1でもピンピンしているとか、モンスターが超高密度に存在しているとかそういうのが、プレイヤー側のときは気にならないが作るときになると気になって仕方がなかった。

 肉食動物一匹に対してどれだけの草食動物が必要か、そして、どれだけの草原が必要か、というのが気になり、そして諦めきれず、「地球上ではない架空の星の、光合成をする生物兵器が闊歩する無人島」となった。

 こうしてダークファンタジーが書きたかったのに無人島サバイバル小説になってしまった。(グアム島を参考にしている)


 制作中、キノピオピー氏のラヴィットという音楽をよく聞いていた。MVに登場するキャラクターに惹かれ、気づけばそっくりなキャラクターを登場させていた。ビムというキャラクターがそれである。


 現実世界で、いじめっ子やパワハラ上司、野良猫に対して武力で対抗するわけにはいかない。そのジレンマを描きたかった。が、うまく行った感触はない。

 主人公が悪党やモンスターと戦わないことでイライラさせてしまったかもしれない。


 この小説の内容をもとに同人ゲームを作る予定だ。完成したら遊んでもらえたら幸い。

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ホシマン @bibindon0814

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