可愛いあの子を病ませたかったがすでに病んでいた

やま

第1話

 その子を初めて見た時、心臓がドクンと跳ね上がった気がした。高校三年という通常ではありえない時期に越してきたその転校生は、例外なく全てのクラスメイトの目を奪う。


「初めまして、白沢渚です。どうぞよろしくお願いします」


 担任の勧めで端的に自己紹介した彼女は透き通った綺麗な声をしていた。


 天は二物を与えずということわざがあるが、それは間違っている。日本人形のように漆黒の黒髪に相反する白磁器ような美しい肌。顔の造形は言うまでもなく完璧と判断せざるを得ない。


 ことわざの不完全性をその身一つで証明した白沢渚は整った挨拶と同時にお辞儀をした。


「新しくこのクラスの仲間になる白沢さんね、みんな仲良くするんだよ。席は黒木さんの隣、あの空いてる席にしましょうか」


「はい、わかりました」


 天使のような彼女はあたしの隣の席に座った。


「よろしくお願いしますね、黒木さん」


「……よろしくね」


 火照る両の頬が、この気持ちがバレていないか心配で、困惑した脳と共に隠すように顔を背ける。小賢しく目線だけを彼女に向けて様子を伺う。


「……っ」


 見られてる。


 頬杖をついてまるでこちらを観察するかのように、目を細めて見つめているのだ。目が交差した瞬間、すぐさまそっぽを向いて何事もなかったように振る舞う。


 なんでこっち見てんの? なんで笑ってるの?


 深まる疑問がさらに頭をこんがらがらせて、思考が上手くまとまらない。


「私、教科書持ってないんです」


 不意に口を開いた白沢はただ呟くようにではなく、はっきりとあたしに対してそう口にした。自分に話しかけていたのは明白で、何か返さないと、と焦る脳を回転させる。


「んっ」


 でもバカなあたしが思いついたのは、ぶっきらぼうに教科書を机の端に置くことだけ。この時は初めての感情でぐちゃぐちゃになっていた。


「ふふっありがと」


 迷いなく机をくっつけて眩しい笑顔がめっちゃ美人だと理解させられた。


 そこではっきりと自覚した。ああ、これが一目惚れなのだと。

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