第7話 黒服と復活の剣士

 ジャジャから出てくるとシキとライラさんが何やら妙に低い姿勢でそのへんのガラクタに引っ付いていた。

「何やってんのお前ら?」

「…お巡りさんもしゃがんだ方がいいわよ。アイツらいつ撃ってくるかわかんないから」

 アイツら?

 なんのことかと思っていると外が何やら騒がしいようだ。

 ガレージの入り口の方を見ると物々しい黒づくめが数人、外からこっちを伺っているのが見えた。明らかにカタギの風貌ではなさそうだ。

 ………ふむ。

「すんませーーん!!ここ町工場なんでーー!!廃工場じゃないんでーー!!ヤクの取引とかだったら場所間違えてると思いますよー!!」

 とりあえず聞こえるように大声でコンタクト取ってみた。何事もまずはファーストコンタクトが肝心である。

 視界の隅でシキが引き攣った顔してるのが見えたが気のせいということにしておこう。

「我々はマフィアとかそういうものでは無ーーい!!オニガシマ王国のトラジマ・キャッスルからきた者であーーる!!ここでシキ殿下らしき人物の目撃情報があったので参ったーー!!大人しく殿下を解放すれば危害を加えるつもりはなーーい!!」

 先頭にいたやつが答えてきた。なんだ、案外話せばわかるもんだ。

「そーーですかー!とりあえずその懐のメーサー銃チラつかせるのやめてもらっていいですかーー!カタギの人に迷惑かけるマフィアとかどうかと思いまーーす!」

「だからマフィアじゃねーって言ってんだろーー!こっちも燃料節約したいので早く引き渡してもらっていいですかーー!」

「残念ながらシキとかいう人ここにいませーーん!そっくりさんしかいないでーーす!帰ってもらっていいですかーー!」

「じゃあもうそっくりさんでもいいんで引き渡してもらってもいいですかーー!」

「投げやり過ぎじゃないですかーー!もうちょっとゆっくりしていきませんかーー!」

「これ以上言い合ってても残業手当出ないんで嫌でーーす!あと特別ボーナスが欲しいでーーす!」

 そこまで言い終わると黒づくめの男たちはガレージの中に入ってきた。

 人数は五人。全員サングラスと帽子、軒並み小柄だが手にはメーサー銃が握られている。

 視線を感じて目を向けると、シキが立ち上がって無言で俺を睨んでいた。

「ごめん。誤魔化しきれなかった」

「………あれで誤魔化してるつもりだったんだ」

「俺やっぱ嘘つくの苦手みたいだわ」

「……そうね…」

 心なしか元気がない。怒ってるわけでもないらしい。

「で、あれ本当にお姫様のとこの人であってる?」

「さぁ?本当だとしても国王派の方じゃないかしら」

 シキは近づいてくる黒づくめたちを横目にため息をついていた。

「国王派?オニガシマって代々女王じゃなかったっけ?」

「その代々女王なのを変えて自分が王に成ろうってアホがいるのよ。で一番手っ取り早い方法が次期女王を亡き者にして王家断絶ってわけ」

「なるほど、ロクでもねーアホだ」

「まぁそういうわけだから、さっさとお巡りさんは帰りなさいよ。元々逃げるつもりだったんでしょ」

 見抜かれてたらしい。嘘どころか隠し事も俺は苦手だったようだ。

「お姫様はどうやって逃げるつもりなんだ?」

「無理ね。相手はメーサー銃持ち、ジャジャは充填が終わってない。完全に手詰まりだわ」

『シキ様、当機による強行突破を提案いたします』

「却下。バリアの張るエネルギーも無い貴方の装甲じゃメーサー銃でシステムがショートしかねないわ」

『承知しています』

「尚更却下よ」

 ジャジャが沈黙する。シキも黙ってしまった。

 …今更ながら今の状況を理解した。どうやら絶体絶命のピンチ、というやつらしい

 反対側のガラクタに隠れているライラさんの盛大なため息と、鞘から牙刀を抜く音が聞こえてきた。相変わらず血気盛んな婆さんだなホントに。

「ライラさん、牙刀の代わりになりそうなもんある?」

 振り向くとライラさんが目を丸くして俺を見ていた。

 …なんだよ、またなんかやったか俺?

「………いや、逃げるんじゃないかと思ってたからのう。どういう風の吹き回しじゃい?」

「さっきまでそのつもりだったんだけど───やめた」

 ガラクタの中から適当な鉄棒を掴む。

 少し短いし手に馴染む重さではないがまぁ問題はない。

「待ちなさい。何するつもり?」

「お姫様の探し物の手伝いをする気になったってだけだよ」

「ふざけないで。そんなことしても時間稼ぎにもならないし逃げきれないことくらいわかるでしょう」

「いや、逃げる必要なんてないけど?」

「………はい?」

 今日はなんだか驚いた顔を良く見る日だ。

「まぁまぁそこでゆっくりしてなって。ライラさん、お姫様の方に流れ弾来たらよろしく」

「わしに後衛をやれと?」

「今回は俺に華持たしてくれよ。五年ぶりの実戦なんだしさ」

「……一個貸しじゃからな」

 ライラさんは渋々シキの前に立った。これならちょっとくらい手を抜いても安心だ。

「一発でもこっちに寄越そうもんなら後で焼き入れてやるからな」

 …全然手を抜けなくなってしまった。


 ――そんなことがどうでも良くなるくらい高鳴る心臓を感じながら。

 ――忘れて久しい全身が震えるような感覚が戻るのを感じながら。

 ――蘇ってくる記憶に燃えるような激情と絶望と後悔を感じながら。

 立ち竦んでいた負け戌は五年振りに前へ踏み出した。


 *


 左手で鉄棒の中ほどを持って、黒づくめの男たちの方へ歩いていく。

 五人、内真ん中と右二人の銃が俺に、左の二人の銃が後ろの二人に向いている。全員黒スーツに帽子、サングラスを着けているが防具の類は見当たらない。

「殿下を引き渡すつもりはないと解釈してもいいですか?」

 真ん中、先頭の男が訊ねてきた。さっき返事してきたやつだ。どうやらこいつがリーダーらしい。

 無言で前に進む。

「…………」

 黒づくめの男たちもまた無言で足を止める。どうやら肯定と受け取ったらしい。

 先頭の男が銃を持たない左手を挙げようとした。他の四人への合図だったのだろう。

 ――その一瞬があれば十分だった。

 踏み込んで右手で掴んだ鉄棒を逆袈裟に振り抜き、先頭のやつの銃を弾き飛ばす。

 そのまま身体を回転させ放った二撃目の逆袈裟で顎を撃ち抜く。

 まず一人。

 右二人のメーサー銃から放たれた光弾と光弾の間に飛び込みながら、片方の眉間ともう片方の首の後ろに一撃を叩き込む。

 二人、三人。

 眉間に喰らって気絶した二人目が倒れる前に左の二人に向かって蹴り飛ばす。

 飛んできた味方を避けた左手前のやつの足元に飛び込んで足を払い床に顔をつける前にこめかみを狙い撃つ。

 四人。

 飛んできた味方に撥ねられて立ちあがろうとした最後のやつの額に鉄棒を投げつける。

 五人。

 カランッ、と音をたて鉄棒が床に落ちる。鉄棒に血が付いていないのを確認して安堵する。

「よし。ちゃんと手加減出来たな」

 正直それだけが心配だったのだが上手くいってくれたようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る